戸田恵梨香の笑顔がずっと続いてほしい 『大恋愛』が描く“いのちの限り愛する”こと

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2018年10月20日 18:42  リアルサウンド

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 若年性アルツハイマー病となってしまうヒロインと、それを明るく支える男の純愛物語。私たちは、そのテーマを事前に聞いて『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)というドラマを観ている。心の準備はできていたはずなのに、やはり実際に突きつけられると心が締めつけられるものがあった。この病は、すぐそこにある危機とも言われている。もしあなたが、もしくは大切な誰かが今「若年性アルツハイマー病の前段階であるMCI(軽度認知障害)」だと診断されたら……。10月19日放送の第2話では、尚(戸田恵梨香)が、そのショッキングな事実と向き合う。


参考:戸田恵梨香が語る、ムロツヨシと築く『大恋愛』のアプローチ 「2人の仲で大事なものを大切に」


 尚の交通事故をきっかけに、MCIの疑いを持った婚約者の侑市(松岡昌宏)。脳波検査などと同時に物忘れテストを行なう。きっと多くの視聴者も尚と同じ気持ちで、このテストに挑んだのではないだろうか。何度聞いても覚えられなかったり、まだ冷蔵庫にあるのに同じものを買ってきてしまったり、物忘れは誰しもが経験している。だが、それがまさか深刻な病気のサインだなんて。そう思う尚の気持ちがリアルだからだ。


 しかし、無常にも診断は下される。若年性アルツハイマー病は、現時点で明確な治療法はない。進行を遅らせるためには、適度な運動とバランスの良い食事、そして睡眠時間の確保、という説明に「普通の人の健康法じゃない」と、つい言葉を荒げてしまう尚。


 自分がいつも患者に向けて言っている「お大事に」という言葉も、いざ自分が病に直面すると複雑な気持ちが芽生える。相手の立場を考えるとは言いつつも、やはり実際にそうなるのとは大きく異なるのだと、戸田の静かな演技から伝わってくる。


 合理的な理由から結婚することにした尚と侑市は、実に合理的な理由でその婚約を解消した。婚約者から医師と患者へ。尚のなかで「侑市さん」から「先生」へと、呼び名が変わったことで、距離が変わったことが伺える。


 愛する真司(ムロツヨシ)には、侑市と結婚するとウソをついて別れを切り出す。悪役になることで、真司の傷が少しでも早く癒えるように。そして、真司をよく思っていない母親(草刈民代)には「大丈夫、別れてきた」となんでもない振りを見せて、部屋でひとりくしゃくしゃになって泣く。その人前で気丈に振る舞う姿から感じられるのは、尚という女性の本質的な強さ、そして凛とした気高さだ。きっと、尚のそんなところに真司は惚れたのだ。自分の小説を暗唱してくれる記憶力があるからでも、女医というステータスのある職業だからでもない。もちろん、スレンダーな見た目はタイプではあったようだが、それはひとつのきっかけにしかすぎない。


 スペックで語れる恋は、同じような他の誰かでも代わりがきく。体型、職業、年収……それは加齢と共に失われやすいものでもある。尚が侑市のもとをあっけなく去ったのも、それをどちらの親も引き止めなかったのも、きっと尚の代わりになる結婚相手は他に見つかると思ったからだ。


 しかし、真司との恋は違う。ひとつのことを一緒に笑えること。逆に違う視点を楽しめること。そんな他愛もないやりとりを、窓を拭きながらも思い出してしまうこと。真司は、尚が何歳になっても、どんな仕事についても、貯金がなくなっても、そして記憶がなくなったとしても、尚は尚だと愛せる確信がある。決して代わりなどいないのだ。


 この先、病気が進行すれば、楽しくお酒を飲んだことも、真司にとって初めてのアップルパイを一緒に食べたことも、尚は忘れてしまうかもしれない。だが、考え方によっては何度でも同じ話題で笑える、とも言える。何度でもふたりで初めてを経験できる、とも。愛を知らずに生きてきた真司にとって、今は尚の笑顔こそが生きがいなのだから。その笑い声が消えない限り、どんな病気になったとしても揺らがない。それは病巣を切除しなければならないガンだとしても、歯を失う歯周病だとしても、足がかゆい水虫だろうと、尚は尚であることは変わらないのと動揺に。その人がその人であること、そのものを愛しているのだから。


 だが、この病の難しいところは、何をもって“その人”であると判断するのかというところ。アルツハイマー病は、症状も人それぞれだ。どこまで記憶があることが、尚であるといえるのか。私たちが抱く病の怖さとは、どうなるかわからないという不安からくる。だからこそ、私たちはこのドラマで疑似体験をするのだ。いつか自分の大切な人が、または自分自身が手から記憶がこぼれ落ちていく状況になったとき、どんなふうに生きていけばいいのか。命の限り愛する、とはどういうことなのかを見せてくれる作品になるだろう。


 ちなみに、第2話のラストで繰り広げられた尚と真司のキスをめぐるイチャイチャは、戸田とムロのアドリブだと公式サイトで記載されていた。放送前には中打ち上げとしてスタッフと共に楽しく飲んでいたふたり。まるで実際のカップルのような距離の近さでインスタライブをして、ファンを喜ばせていた。第3話は、そんなふたりのナチュラルで微笑ましいやりとりがたっぷりと堪能できそうだ。コメディを得意とするムロの本領発揮といったところか。尚の笑顔が、ずっと続くことを祈る気持ちで見届けたい。(佐藤結衣)


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