倖田來未の新作『WALK OF MY LIFE』が体現する、世界基準のポップミュージックとは?

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2015年03月27日 16:31  リアルサウンド

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倖田來未。

 倖田來未が、3月18日に12枚目のオリジナルアルバム『WALK OF MY LIFE』をリリースし、3月30日付オリコン週間アルバムランキング(集計期間:3月16日〜3月22日)で初登場首位を獲得した。また、倖田は26日にベスト盤DVD『KODA KUMI 15th Anniversary BEST LIVE HISTORY DVD BOOK』をリリースし、4月4日からは全国アリーナツアー『Koda Kumi 15th Anniversary Live Tour 2015 〜WALK OF MY LIFE〜 supported by Mercedes-Benz』をスタートさせるなど、今年一年を通してさらに勢いを増していきそうだ。そんな彼女のアルバム『WALK OF MY LIFE』を、音楽ジャーナリストの宇野維正氏が分析した。(リアルサウンド編集部)


 いよいよ来月に迫った『ワイルド・スピード』シリーズの7作目、『ワイルド・スピード スカイミッション』の公開に向けて、最近はその新作サントラをいつも車で流して気分を盛り上げている(自分はあのシリーズの走り屋たちの狂った世界のすべてをこよなく愛しているのです)。ちなみに今回の新作サントラに参加しているのはヒップホップ界からはキッド・インク、タイガ、ワーレイ、YG、リッチ・ホーミー・クワン、ヤング・サグ、ウィズ・カリファ、イギー・アゼリア、フロー・ライダーなど、レゲトン界からはJ.バルヴィン、プリンス・ロイスなど、EDM界からはデヴィッド・ゲッタ、ディロン・フランシス、DJスネークなど。どうだろう、一部ビッグネームも混じっているものの、この堂々たる「メインストリームのならず者」ぶり! 批評家受けなどまったく眼中になく、ただひたすらエンドユーザーのライフスタイルに寄り添ったエクストリームなまでの「今」感。つまり、このサントラには映画本編とまったく同じベクトルで、そこにはヤバくてアガるサウンドだけを追求した音楽だけが身にまとうことができる土着的なカッコよさが詰まっているのだ。


 で、そんな『ワイルド・スピード スカイミッション』のサントラを聴きながら、「これと同じような感覚、最近聴いたアルバムでも感じたよな」とふと頭をよぎったのが、つい先日リリースされた倖田來未のニューアルバム『WALK OF MY LIFE』のこと。世界各国の音楽シーンの最前線にいるクリエイターを招集して、同時代感に溢れたダンスミュージックへとはっきりと舵を切ったのは前々作『JAPONESQUE』からだから、もうその路線はすっかり堂に入ったもの。本作における倖田來未はヒップホップもEDMも最新R&Bも乗りこなして、完全にやりたい放題のゾーンに入っている。本作で展開しているのは、単純にコンテンポラリーで先鋭的なサウンドというだけではない。たとえば「Lippy」は90年代初頭のプロディジーを思わせるような高速ブレイクビーツテクノで度肝を抜かれるし、「House Party」ではEDMパーティーチューンにのせてケミカル・ブラザーズ「Hey Boy Hey Girl」の元ネタでもお馴染みのヒップホップ・クラシック「The Roof Is On Fire」(ロック・マスター・スコット&ザ・ダイナミック・スリー)のフレーズが飛び出してニヤリとさせられる。いわゆる音楽マニアからは素通りされていそうな本作だが、そういう観点からも聴き所満載なのだ。


 『ワイルド・スピード』的な世界の中ではお馴染みの風景だが、実は本当に最先端でエッジーなサウンドやビートは、ニューヨークやロンドンやリオデジャネイロといった大都市のど真ん中ではなく、その郊外や地方都市を走るカーステレオから聴こえてきたりする。もしかすると日本においてその役割を孤軍奮闘的に担っているのは、倖田來未の音楽なんじゃないだろうか。重低音がガッツリ効いたブレイクビーツにのせて彼女がクリスティーナ・アギレラばりに《Jump Mercedes 派手にアクセル Oh Mercedes》とシャウトする「Mercedes」を聴いていると、そんな妄想がだんだん確信へと変わっていく。そして、それはワールドスタンダードという意味において、まったくもって正しい「ポピュラーミュージックの在り方」なのだ。(宇野維正)



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