17年ぶり日銀利上げで、私たちの生活はどうなるの…?「持たざる人」が生き残るには

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2024年05月17日 21:50  All About

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日銀がマイナス金利を解除し、追加利上げのタイミングに注目が集まるなか、私たちの生活に具体的にどのような影響が及ぶのか気になっている人も多いでしょう。ズバリ、金利が上がっていくと、私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。第一生命経済研究所の首席エコノミスト永濱利廣さんにうかがいました。
日銀がマイナス金利を解除し、追加利上げのタイミングに注目が集まるなか、私たちの生活に具体的にどのような影響が及ぶのか気になっている人も多いでしょう。ズバリ、金利が上がっていくと、私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。第一生命経済研究所の首席エコノミスト永濱利廣さんにうかがいました。

本当の意味での「利上げ」はこれから

――日銀は大幅な利上げに消極的な姿勢をとっていますが、中長期的な視点で見ると日本でも大幅な利上げの可能性はあるのでしょうか。

永濱さん:景気次第ですね。マイナス金利は解除されましたが、現状、あまり「利上げ」という感じではありません。マイナス金利解除のプラスの側面である預金の金利は上がりましたが、マイナスの側面である住宅ローンの変動金利や企業の運転資金融資の金利などは上がってないんですね。

それは、短期プライムレート(※)が上がっていないからです。マイナス金利を導入した時に短プラは下がらなかったので、(マイナス金利が解除された現在も)まだ短プラが上がっていないのです。

だから、本当の意味での利上げはこれからなんですよ。今後、追加の利上げとなると、短プラが上がります。そうすると、住宅ローンの変動金利も企業の運転資金融資の金利も上がるので、経済に悪影響が出るでしょう。ですから、日銀は慎重になるのではないかと。

金利が上がるような局面は、景気が良くなっている状況であると考えれば、必ずしも悪いことではありません。ただ最悪のシナリオとしては、過去の日銀がそうであったように、景気が十分に戻っていないなかで拙速に利上げをやり過ぎてしまうことです。そうなると、日本は苦しい状況になるかもしれませんね。

(※)銀行が優良企業に貸し出す優遇金利(プライムレート)のうち、1年未満の短期貸出に適用するもの。略して「短プラ」。住宅ローンの変動金利等はこれに連動する

利上げで住宅ローンの返済はどうなる?

――これから、住宅ローンの変動金利が上がると、すでにマンションや家を買った人がローンを返済できずに困るのではないか、といった声も聞かれていますが。

永濱さん:立地の良い場所に買った人であれば、購入額よりも高値で売れるでしょうから売却も一つの選択肢ではないでしょうか。逆に値段が上がらなさそうな場所に買った人は、ローンを返済できなくて困るかもしれません。今後、購入を検討する人は、将来値下がりするリスクが低い場所の物件を選んだほうがよいでしょう。

日本の不動産価格は上がっているとは言え、海外から見るとまだ割安です。私は、日本株と同じく、不動産価格もあまり下がらないと思っています。なぜかと言うと、外国人を含めた富裕層の購買意欲が高いからです。今後日本は一部の富裕層が多くの不動産を保有し、それ以外の多くは賃貸で生活する構図になるのではないかと思います。

金利ある世界で格差拡大!? 生き残っていくためにはどうすればよいか

――これから金利が上がっていく=金利ある世界に変わることで、私たちの生活にどのような影響があると考えられますか。

永濱さん:金融資産を持つ人と持たざる人の格差が広がるのではないでしょうか。(金融資産を)持っていたら利息をたくさんもらえるからです。金融資産を持っていない人が大きな買い物をするとなるとローンを組まざるを得なくなります。

そしたらローンの返済で利息を(ゼロ金利の頃に比べて)余分に払うことになりますので、そういった面で格差が広がるのではないでしょうか。

そういう意味でも、あまり経済状況が良くない時に拙速な利上げをしてはならないのです。一部で「低金利を続けてきたから本来存続できないような企業が残って生産性が下がった。だから金利を上げたほうがいい」とする向きもありますが、それは必ずしも正しいとは思いません。

これまで日銀は拙速な利上げで失敗してきました。今後、植田日銀総裁がどのように舵取りをするかに注目ですね。

――その金融資産を「持たざる人」が生き残っていくためにはどうすればいいのかという点も、社会の課題になってくると思います。例えば、政府は個人のリスキリングを支援していますが、スキルアップは役に立つでしょうか。

永濱さん:これは、一般的に誤解されがちなことですが、確かにスキルアップは重要です。けれどスキルアップ以前に、やはりコミュニケーション能力が大事でしょう。学歴が高くて、すごく頭が良くても、コミュニケーションが下手だとなかなか社会的評価を高めることはできないでしょう。

対人関係をうまく築けないと仕事の成果も上がりにくいと思います。

だからコミュニケーションに問題がある人ほど、スキルアップが必要なのかもしれませんね。そもそも生まれつきコミュニケーション能力が高い人は、特定のスキルがなくても世の中を渡っていけますから。

職を求めて海外に行くことも一つの選択肢として考えられますね。例えば寿司の握り方を学ぶ専門学校へ行って、海外で寿司職人として働けば、対人能力もそこまで必要ないかもしれません。それなりの収入を得て生活することもできるでしょう。アメリカではトラックの運転手でも年収2000万円ぐらい稼げるそうです。

もちろん、アメリカの物価が高いということはありますが。

寿司職人もトラックの運転手も、手に職系の仕事じゃないですか。今後、手に職系の仕事が重要になると思います。これから生成AIの浸透により、事務や学習的な業務の優位性が低くなり、手に職系や肉体労働系の仕事に対する評価が高まっていくでしょう。

だから、日本でも(ドイツ発祥の)マイスター制度を導入したほうがいいと思うんですよね。マイスター制度では10歳で大学進学か職人コースに進むかを決めます。AI時代でニーズが減りそうなホワイトカラーを養成するよりも、より一層人手不足になりそうな職人を若いうちから育成したほうがいいでしょう。

これから日本が復活するためにも重要なのは、いかに国内で生産力を高めて世界中に良いモノやサービスを提供していくかということですからね。

教えてくれたのは……永濱利廣さん
第一生命経済研究所首席エコノミスト。早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年に第一生命保険入社、日本経済研究センターを経て、2016年より現職。専門は経済統計、マクロ経済分析。著書に『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)等。

取材・文/秋山 志緒
外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle
(文:秋山 志緒)

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  • 庶民としては、10年預けると倍時代が懐かしい。(^_^;)
    • イイネ!5
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