「礼儀やマナーに気を使わない外国人旅行者が増えた」その結果…「京都は私の“Home”」と語るベルギー人女性が見た変化と憂い

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2024年05月23日 11:10  まいどなニュース

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バネッサ・ルクスさん (画像提供:Happynes't)

外国人が日本人の印象を語るとき、よく「親切」「優しい」「他人への思いやり」というワードが出てくる。京都市下京区でヨガとピラティスのレッスンスタジオ「Happynes't(ハピネスト)」を営むバネッサ・ルクスさんは「どこの国にも親切な人はいます。日本人の親切が際立っている背景には、礼儀正しさがあると思います」と語る。

【写真】ヨガレッスンの終わりに抹茶を点てるバネッサさん…レッスンに訪れる生徒さんの国籍はさまざま

ベルギーから京都へ移住して5年半のバネッサさんに、日本の中でもとりわけ京都の印象と併せて、彼女が営むヨガ&ピラティススタジオについても話を伺った。

失敗することを恐れ他人の目を恐れる日本人

外国人が日本人に印象として「親切」「優しい」「他人への思いやり」などポジティブなワードを挙げる一方で、よくいわれるのが「日本人はshyだ」ということ。我々日本人の多くが自覚しているように、たしかに人前に出たり他人より目立ったりすることに苦手意識をもつ人は少なくないようだ。

Google翻訳によると「shy(シャイ)」の日本語訳は、恥ずかしい、弱気、寡黙、照れ屋など、比較的ネガティブなワードが並ぶ。

しかし、バネッサさんはそれとは違う印象を、日本人に対してもっているという。

「私が観察してきた限りでは、日本人はシャイではなく『恐れている』ように感じます。英語を話すことを恐れている、失敗することを恐れている、他人からどう思われるかを恐れている、などです」

日本の長い歴史の中で営々と築かれてきた伝統や文化には深い尊敬の念を抱く反面、同時にそれが制約にもなっているように感じるという。

「若い世代が新しいことに挑戦したり、創造したり、職場に新しいアイデアを持ち込むことを妨げているように思います。伝統は人々をひとつの仕事、ひとつの役割に閉じ込め、型にはめてしまう恐れがあります。これからの世代が独自のアイデアを育てながら、伝統を守っていく道筋が見つかるといいですね」

このように語るバネッサさんは、京都を「自分のHome」と語るほど京都を深く愛する女性でもある。

礼儀やマナーに気を遣わない外国人旅行者が多くなった印象

バネッサさんはベルギーのブリュッセル出身。旅行者として初めて来日したのは、2015年8月のことだった。

「京都を訪れたとき、2週間滞在しました。地図をもたず、気ままに寺院や町並みを散策していました。京都の寺院や庭園の静寂さは、私に深く響きました。自然を眺めながら何時間も座っていられたのです」

当時は日本語をあまり話せなかったバネッサさん。それでも京都で見るもの触れるもの、すべてを「まるでパズルのピースがピタッとはまるような感覚で理解できた」という。

「自分を見つけたように、自分がいるべき場所を見つけたのです」

日本での旅を終えて帰国したバネッサさんは、自分が内面から変わったように感じていた。すでにヨガや指圧を学んでベルギーで教室を開いていたバネッサさんの変化は、教え子にも伝わったようだった。

「友人や生徒からも、声色が変わったといわれました」

バネッサさんの心は、深い安らぎに満ちていたともいう。

京都の魅力に取りつかれたバネッサさんは、その後も日本を訪れること計8回。京都に居心地の良さを感じるとともに、京都の街が自分と一体になったような感覚を覚えていったそうだ。そして、京都へ移住する決心を固める。

ベルギーで営んでいたヨガ教室を閉め、住んでいた家を引き払い、家財道具を処分し、旅行ではなく「住むため」に京都の地を踏んだのは2018年12月だった。

「英語には『家は心が帰る場所』という言葉があります。私の心は京都にありました。だから京都は、私のHomeすなわち『家』なのです」

それまで旅行で京都を訪れていたバネッサさんが、実際に住んでみて気づいた京都ならではの問題があるという。

「京都の経済にとって観光業は欠かせませんが、最初に訪れたときと比べたら、今はオーバーツーリズムの問題に直面しています。バスが混雑しすぎて、京都に住んでいる人が乗れない。レストランも予約が取れない。そして人だかりなどもあります」

また、バネッサさんから見て、最近の外国人旅行者の多くが、礼儀やマナーに気を遣わなくなっていると感じることがあるそうだ。

「以前は、本当に日本に興味をもって訪れる外国人観光客が多く、訪れる前に日本の礼儀作法や日本人を尊重することについて学んでいたように思います。しかし最近では、そうしたことにあまり気を遣わなくなってきた観光客が増えています」

その結果、京都の一部では「おもてなし」の文化が失われつつあるように感じるのが悲しいという。

「日本の人たちは、旅行で訪れている外国人と京都に住んでいる外国人の見分けがつきません。在住者としては、外国人全体のイメージを悪くしないよう、完璧な振る舞いや十分な敬意を示すことにプレッシャーを感じることがあります」

これは我々日本人にも当てはまりそうだ。海外に住む日本人の印象を落とさないよう、海外旅行をする際には自らを律する配慮が要るだろう。

国際色豊かなヨガ&ピラティススタジオのレッスン風景

京都へ移住したバネッサさんは、下京区にヨガ&ピラティススタジオ「Happynes't」を開いた。生徒さんの約90%が女性で、年齢層も20〜60歳代と幅広い。内訳は、日本人が55%、外国人は日本在住・旅行者あわせて45%ほどだという。

取材に訪れた日は、ヨガのレッスンが行われていた。この日の生徒さんは、女性5人と男性1人。国籍は日本、韓国、アメリカ、スペイン、ドイツ。レッスンはほぼ英語で行われるが、日本人の生徒さんのために、時おり京都弁訛りの日本語も交えて行われる。

ヨガは深いリラックス感をもたらし、呼吸と集中を通して心を空っぽにしてマインドフルネス(ただ目の前のことに集中する状態)を実践できるとのこと。

レッスンの終わりにはバネッサさんが点てる抹茶を皆でいただきながら、生まれ育った国の違いを超えて和やかに語り合う時間が設けられている。筆者は英語が全くできないが、バネッサさんの朗らかな性格も相まって、筆者の意識もその場に溶け込んでいるような、不思議な幸福感を覚えるひと時だった。

「いつか本格的に茶道を習いたいですね」

京都を「Home」というバネッサさんが、今後日本でやりたいことを聞いてみた。

「ベルギーでは多くの企業がランチタイムにヨガクラスを提供しており、社員がリラックスし、より効率的に仕事ができるように配慮しています。私たちもそのような企業向けのサービスを開発したいと考えています。オフィスに出向いて、希望する社員に週1回ヨガやピラティスのクラスを提供し、職場のウェルネス(より良く生きようとする生活態度)、ひいては幸福感を向上させるお手伝いがしたい」

バネッサさんの言葉からは、日本人が気づかなかった日本人像が見えてくる。そして職場のウェルネスを向上させるためのサービスは、今の日本に是非展開してほしいサービスだと感じた。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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  • 郷に入っては郷に従え...と言う言葉と概念が無いのかなと。
    • イイネ!5
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