オリンピック、トルコの射撃選手・無課金おじさんが話題 兵器マニアも驚くスキルと国家憲兵の任務とは?

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2024年08月03日 08:00  リアルサウンド

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photo:Luca Dugaro(Unsplash)
■ユスフ・ディケチュ選手のラフなスタイルが話題

 現在開催中のパリオリンピック。7月30日に行われた混合エアピストルにて、トルコのユスフ・ディケチュ選手が銀メダルを獲得した。このディケチュ選手の競技時の佇まいが、SNSにて話題になっている。


  競技中のディケチュ選手は、国名を記したTシャツ一枚というラフな服装で登場。射撃競技にはつきもののイヤーマフやアイリスシャッターも装着しておらず、つけているのは普通のメガネのみ。まるで散歩中のような服装ながら眼光は鋭く、またエアピストルを構えて立つ姿勢にもブレがない。


  実際にやってみるとわかるが、「腕を伸ばした状態で数百グラムの重量のある物体を持ち、体をぶれさせずに姿勢良くまっすぐ立って引き金を引く」というのは案外難しい。立ち姿だけからも、ディケチュ選手の体幹の強さが伝わってくる。また、ビームライフル競技などは反動などが実銃とは異なるため、銃と関節を固定することに特化した姿勢が取られることが多いが、ディケチュ選手の無理のない構え方は実銃の発砲時のフォームに近い。確かに、どう見ても只者ではない。


  ディケチュ選手の出身国であるトルコは、世界有数の軍事大国としても知られている。男性に対しては現在でも皆兵制を採用しており、身体障害などの理由がない限り陸軍・海軍・空軍・沿岸警備隊のいずれかに配属されることになる。この皆兵制により、兵員規模に関してはNATO加盟国第二位という巨大な軍隊を有している。また、装備の面でも近代化が進められており、現在でも韓国の技術支援を受けつつ国産の最新戦車「アルタイ」を開発するなど、意欲的な装備開発を進めている。冷戦期にはソ連と直接対峙する位置にあったことや、現在でも民族紛争を抱えていることもあり、トルコにおいて軍の存在感は大きい。


  が、ディケチュ選手が所属していたのは、このトルコ軍ではない。彼が所属していたのは、準軍事組織である国家憲兵隊、トルコ語で「ジャンダルマ」と呼ばれる組織である。


■国家憲兵隊の任務とは?

 憲兵とは、主に平時においては軍隊内部の秩序と規律の維持や防諜を行い、戦時においては交通整理や捕虜の取り扱いといった任務を遂行する戦闘支援兵科である。通常は軍隊内を対象とした任務にあたっているが、その範囲にとどまらない役割を兼ねているのが、国家憲兵だ。


 国家憲兵は通常の憲兵としての任務だけではなく、一般警察活動も行う法執行機関である。日本には存在しない組織なので想像しにくいが、フランスでは自治警察の発達が早かった都市部以外の農村で発生する傭兵部隊による略奪などに対応するため、14世紀ごろから設けられている組織だ。その後ヨーロッパ大陸諸国やその植民地を中心に広く普及し、現在でもヨーロッパのラテン諸国や中南米などでは数多く存在している。これらの国の国家憲兵は、平時には犯罪捜査や治安維持といった任務にあたり、戦時には軍の指揮下に入って憲兵任務を行う。軍隊と警察の両方の要素を併せ持った組織が、国家憲兵なのだ。


  トルコのジャンダルマも、この国家憲兵に当たる。平時には内務省所属の組織として治安維持、重要施設の警備、国境警備といった警察任務にあたっており、警察と同様に市民からの電話での通報も受け付けている。一方で戦時にはトルコ陸軍の指揮下に入ることが決まっており、機関銃や対戦車兵器、迫撃砲といった重火器や装甲車も保有。また、軍隊とは異なり、隊員は志願によって入隊する。


  ディケチュ選手は、このジャンダルマの隊員で、なおかつトルコの首都アンカラを拠点とする国家憲兵総司令部のスポーツクラブ「Jandarmagücü」に所属。この「Jandarmagücü」は射撃以外にもバスケットボールなど様々な競技に選手を送り込んでいる。


  国家憲兵としてキャリアをスタートさせたディケチュ選手は、2001年からスポーツシューティングをはじめ、ナショナルチームだけではなく軍の射撃競技チームにも参加。オリンピック以外にも各種の射撃選手権に出場し、今回メダルを獲得したエアピストルだけではなく通常の銃弾を使うセンターファイアピストル競技でも数多くの記録を残している。一般に射撃は選手生命が長い競技だが、その中でもベテランと言っていいだろう。あの安定した射撃姿勢やラフな服装は、国家憲兵とスポーツ選手という立場で長い経験を積んできたからこそ可能になったものなのだ。


  射撃競技は第一回近代オリンピックであるアテネ大会から実施されており、参加国数は陸上競技に次いで多い。銃所持に関するハードルが極めて高い日本では実感しにくいが、国際的には非常に選手層の厚い競技なのだ。その中を勝ち抜いてメダルを獲得するというのは、並大抵のことではない。ラフだが安定したフォームで銀メダルを獲得したディケチュ選手の姿は、軍事大国トルコでの射撃競技のレベルの高さや、選手層の厚さを象徴するものであるように思う。


このニュースに関するつぶやき

  • 熟練のプロって感じでかっこよかったですね。
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