2024年11月、サイゼリヤのメニューに対して不満の声を上げた投稿が話題になりました 食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
物価高騰の中、“値上げしない戦略”を貫いている飲食チェーンと言えば、サイゼリヤ。
しかしながら2024年11月のある投稿をきっかけに、メニューに対する不満が広がる事態になりました。不満の内容は「メニューがしょぼくなっている」「値上げして良いからメニューを充実させて欲しい」「今のサイゼのメニューの“アレもコレもない感”はやばい」といった内容。確かにサイゼに30年以上通ってきた立場からすれば、共感せざるを得ないコメントも多く見受けられます。
ところが、そんな不満とは真逆のニュースが新年早々飛び込んできました。サイゼリヤが2025年1月8日に発表した2024年9〜11月期の連結決算では、売上高は過去最高の612億円となり、営業利益は前年同期比13%増という結果に……。
サイゼリヤに対して不満が広がっていることと、業績が好調であることは、どちらも真実。この矛盾とも思える状況は、いったいどうして起こっているのでしょうか? そこで今回は絶好調のサイゼリヤが抱えている“不満の正体”について考察をしてみることにしました。
◆サイゼリヤは経済格差や地域格差を救う?
はじめに現在の日本経済を冷静に見ていきましょう。ロシアのウクライナ侵攻以降、日本で生活必需品やエネルギー(電気、ガスなど)において物価上昇が止まらず、賃金上昇が追いついていないために、中流層(世帯年収500万〜900万円)の貧困化や地域格差が深刻になっています。
つまり、所得が低いほど不可避な支出が増えることで生活苦に、ガソリン代などがかさむ地方において負担増が広がっている状況なのです。
サイゼリヤは2024年11月に愛媛県、12月に大分県に県内初出店を果たしました。オープン初日の大行列の様子は地元メディアで注目され、そこから聞こえてくる声には待望感と喜びがあふれていました。
ちなみにサイゼリヤがまだ進出していない都道府県は、高知県、長崎県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の5県。少数店舗のエリアも含めると、サイゼが待望・歓迎される余地はまだまだ健在で、国内における成長はおおいに期待できるのです。
◆不満は「サイゼファン」から発せられている
これを裏返せば、不満の正体が浮かび上がってくるでしょう。
不満の多くは言いがかりやアンチではなく、これまでのサイゼの魅力を十分味わってきた人々によって発せられる素直な落胆である可能性が高いということ。
価格維持で得られる安心感は来店動機にはなるものの、実際の満足度は食事内容で決まるのです。例えば、これまでかけ放題だった粉チーズは有料になり、ピザのWチーズは廃止に。サイゼを長く愛してきた顧客からすれば、ファン心を裏切られたという率直な気持ちが不満投稿として広がっているだけのこと。
このように、これまでの愛情が嫌悪に変わってしまうような危機は、今後もメニュー改定のたびに訪れることでしょう。
◆スーパーやコンビニの冷凍食品・総菜の実力が上がっている
そしてもう一つ、今後さらに増えてくる可能性のある不満があります。それは、大手スーパーマーケットやコンビニにおける飛躍的な商品力向上から生まれるもの。
例えばコンビニの冷凍食品を見てみましょう。価格帯は200円台〜500円台までの商品が多く、こだわりの国産食材を使用したり、有名レストラン監修の商品は珍しくありません。
特にセブンイレブンではデニーズ監修のメニューが登場。ビーフシチュードリアや蟹トマトクリームグラタンにただならぬこだわりを感じる人は少なくないはずで、新商品発売の頻度が高いのも、コンビニの強みになっています。
つまりコロナ禍を経て、中食(外食と内食の中間に位置する食事のスタイルで、店舗や工場などで調理されたものを自宅で食べること)の需要が成長した今、店舗拡大や価格維持によって制限された“サイゼの変わらないメニュー”に独自性や優位性を感じにくい時代が到来しているのです。
◆じわじわ広がる不満にどう応えるか?
そう、敵は中食。サイゼで食べなくてもおいしいイタリアンは食べられる経験をした人が、ある日サイゼに来店してがっかりする。競合となる商品の実力に気がついているかどうかの問題です。
競合比較によって生まれる不満はすでに存在し、今後はさらに増大してしまう可能性が考えられます。このような視点から考えれば、頑なに価格維持にこだわるサイゼの戦略にはそろそろ限界が出てきてもおかしくはありません。
サイゼリヤは脱ファミレスを宣言し、健康を考えたファーストフード、ファーストカジュアル(手軽に食事ができること)を追求する戦略を推し進めています。
今ではお客一人一人の声がSNSの力によって大きな力を持ちうる時代ですから、今後はじわじわ広がっていくかもしれない、ある日突然爆発してしまうかもしれない不満に対してサイゼがどう応えていくかは、ますます大きなカギを握るようになるでしょう。
さあみなさんは、今のサイゼリヤに満足していますか? 不満を持っていますか?
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12