アザラシ、ラッコにハシビロコウ 動物たちの写真集好調の理由は? 編著者・南幅俊輔に聞くヒットの法則

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2025年01月19日 13:20  リアルサウンド

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アザラシ・ラッコなど動物たちの写真集がヒット連発

  アザラシやラッコなど海の動物たちの写真集がヒットしている。昨年12月16日に発売された『アザラシまるごとBOOK』(辰巳出版)は、予約開始から2時間で各EC書店で完売。また昨年4月に発売しされた『ラッコのすべて』(南幅俊輔)は 5刷の重版となり、昨年7月に発売された『ラッコBOOK』(グラフィック社)も発売前に重版されるなど、継続的にヒットが続いている。


  出版不況が叫ばれて久しい中で、なぜ動物たちの写真集が続々と発売され、ヒットしているのか。『アザラシまるごとBOOK』『ハシビロコウカレンダー』シリーズなど、これまで多くの動物写真集や書籍を手がけてきた、編著者でデザイナーの南幅俊輔氏に話を聞いた。


【写真】 大ヒット『アザラシまるごとBOOK』の内容は?


◾️SNSで話題となった『アザラシ幼稚園』


  動物写真集がヒットしている要因には、動物園や水族館などの施設がSNSを積極的に活用するようになったことが大きいという。


  南幅氏は「コロナ禍では、休園を余儀なくされていた動物園や水族館は動物たちの様子を盛んにSNSで発信していました。実際に動物園に訪れると動物たちは遠くにいたり、寝ていたり、タイミングが合わないとその魅力が伝わらない面もあります。それがいつもお世話をしている飼育スタッフが、いきいきとした動物たちの様子を伝えることで、その魅力がダイレクトに私たちに届いたということだと思います」と語る。


  SNSがきっかけで動物たちの魅力が広く知られるようになったケースの最たる例が、昨年に新語・流行語大賞にもノミネートされた『アザラシ幼稚園』だという。


  ピーテルブーレンアザラシセンター 『アザラシまるごとBOOK』収録ページ「『アザラシ幼稚園』の24時間配信もその一環です。昨年8月にオランダの北部にあるアザラシ保護施設『ピーテルブーレンアザラシセンター』のライブ配信をXで紹介した方がいて、日本のユーザーの間で『アザラシ幼稚園』と呼ばれるようになり、話題になりました」


  漁業用の網や海洋ゴミにより負傷したアザラシの保護を目的とした「アザラシ幼稚園」。現地の様子がYouTubeで24時間配信されていることが紹介され、プールに垂直に浮かぶアザラシたちが「茶柱みたいで可愛いすぎる」と話題に。また同時に施設の保護活動内容が知られると、多くの日本人視聴者からの寄付が増加。前述の『アザラシまるごとBOOK』も、施設を支援したいという編集者の想いから企画がスタートしたという。


 「本書の発行元である辰巳出版の編集者が、施設の取り組みに共感し『チャバシラ』という名のアザラシと養子縁組をしたり、本書の売上げの一部をアザラシ幼稚園に寄付することを発表しました。アザラシ幼稚園のファンの皆さんも『アザラシ幼稚園の支援に繋がるなら』と予約してくださり、そのアザラシ愛がヒットに繋がったとおもいます」


  またオランダの『アザラシ幼稚園』が話題になったことがきっかけで、日本のアザラシ保護施設も多くの人に知られるようになった。


 「日本にも、北海道・紋別にある『オホーツクとっかりセンター』という日本唯一のアザラシ保護施設があります。もともとファンが多かったこの施設に『日本にもアザラシ幼稚園がある!』と知られ、新たに注目されました。『アザラシまるごとBOOK』においても、オランダのアザラシ幼稚園とこちらの施設を掲載しています。アザラシへの注目度が集まっていた中で、また私はもともとグラフィックデザイナーなので、単なるアザラシ写真集ではなくアザラシ生態解説などのビジュアルもたくさん掲載し、わかりやすく内容を伝えることを心がけ作りました。アザラシの魅力をもっと知ってもらうため、何度も読み返して欲しいんです」


◾️来園客が使用するカメラの高性能化


  また動物園がSNS上での話題になる理由として、一般人が使用するカメラ機材が高性能化していることも大きな要因だという。


 「経験上、どんな動物にも必ず熱烈なファンがいることを知りました。それもファンの多くは子どもたちではなく大人が多い。動物園や水族館は親子連れやカップルの姿を多く目にしますが、それに負けないぐらい高性能カメラを携えた中高年の方もたくさん訪れています」


  来園者が高性能カメラで園内の動物を撮影し、その高画質な写真がSNSに投稿されることで、施設の動物たちの魅力がより多くの人に広まりやすくなり、SNS上で話題になる機会が増えたという。


 「そうした方が熱心に撮影しているのは、ツシマヤマネコ、マヌルネコなどの小型ネコ科。オオヤマネコ、カラカル、ユキヒョウ、チーターなどの中大型ネコ科。コアラやウォンバット、クオッカなどの有袋類。海棲哺乳類ではイルカ、シャチ、シロクマなどが人気者ですね」


◾️マイナー動物にも注目が集まる


  またこれまで国内であまり知られていなかった種類の動物が、その不思議な生態とともに注目を集めるケースも多い。その代表例が「動かない鳥」として話題になったハシビロコウだ。


 「今から15年程前に「動かない鳥」として話題になったハシビロコウは、伊豆シャボテン公園の「ビル」(2020年永眠)や、千葉市動物公園の「しずか」と「じっと」も人気を牽引していましたが、2016年に掛川花鳥園でハシビロコウ界のアイドル的存在「ふたば」の登場が決定打になりました。かわいらしい容姿や飼育スタッフとのほのぼのとしたやり取りで心掴まれる方が続出したようです。ハシビロコウは体の大きさ(身長約120センチ)や顔のつくり(正面顔)、しぐさ(お辞儀)が私たち人間に近いものがあり、ハシビロコウは鳥から、それ以上のキャラクター化した存在になったと感じています」


  2023年にアニメ化された人気漫画『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜』でも、主人公のキャラクタービジュアルはハシビロコウがモチーフになっていることによりアニメファンの注目を集めている。


  コロナ禍を経て、動物園や動物保護施設によるSNS発信が定着。また来園客が使用するカメラの高性能化によって投稿される写真のクオリティが向上。SNS上で話題が絶えず、動物園とファンの間での好循環が生まれ、この流れを背景に、動物たちの魅力を形にした写真集も多くの人に求められるようになったことが、動物写真集が出版業界でも売れ筋商品として注目を集めていると言えるだろう。最後に南幅氏が注目している動物について聞いた。


 「個人的には国内では名古屋の東山動植物園のみで飼育しているラーテル。ラーテルはアフリカ、アラビア半島、インドに生息するイタチ科の動物です。体の大きさはイタチほどの小柄ですが、勇敢でライオンにも向かっていきます。世界一怖い物知らずの動物として、ギネスブックにも登録されています」


(文=リアルサウンドブック編集部)



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  • 同人誌って形でねこǭの写真集出してるカメラマンもいますね♪
    • イイネ!1
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