※画像はイメージです 最近「人生100年時代」という言葉をよく耳にします。厚生労働省の調査によると、2040年には女性の平均寿命が89.63歳、男性が83.27歳になると予測されています。
100歳にはまだ達しないものの、現実味を帯びてきています。今回は、そんな現役世代のシニア男性が引き起こしたエピソードをご紹介します。
◆脱サラして夫婦で始めたパン屋
10年間勤務した製パン会社を辞め、1年間都内の人気パン屋で修行を重ねた伊藤さん(仮名・36歳)。。保育士だった妻と共に、念願のパン屋をオープンしました。
「正直、脱サラすることには非常に慎重でした。製パン会社では責任あるポジションにあり、収入にも満足していました。しかし、妻と久しぶりに都内のレストランで食事をした帰りに、偶然通りかかった人気のパン屋に出会ったのです。
その1週間後には、パン屋のオーナーに『修行させてください』と直接お願いしたところ、熱意が伝わったのか、たまたま人手が必要だったのかは分かりませんが、快く受け入れてもらいました」
そんな経緯を話してくれた伊藤さん。歯ごたえの良いパン生地と、豊富な種類のパンが人気を呼び、順調なスタートを切ったそうです。
◆毎日たくさんパンを買っていく老人
SNSなどでの評判の影響もあり、人気のパンが店頭に並ぶ午前中には、店の前に行列ができるほどの賑わいを見せていました。
「おかげさまで、毎日忙しい日々が続いています。特に土曜日と日曜日は、開店と同時に常連のお客様が並んでくださり、パン屋としての喜びを感じています。客層は老若男女さまざまですが、古い住宅地に位置しているためか、年齢層はやや高めです」
そのような中、開店と同時に並び、全種類のパンを購入する白髪の高齢者がいたそうです。
「70歳代くらいの、身なりの整ったダンディな男性が、雨の日でも必ず開店前に並び、毎回数千円分のパンを購入して帰ります。レジを担当している妻と楽しそうに会話している姿が印象的でした。おそらく、家族全員の分を買いに来ているのだと思います」
◆花束持参で妻にまさかの告白
ある日、レジの方が騒がしいことに気づいた伊藤さんは、パン作りの手を休めて様子を見に行ったそうです。
「レジには、いつものダンディな男性がいて、妻と何やらもめている様子でした。近づくと、その男性は妻に花束を手渡していました。妻は丁寧に受け取れない旨を伝えていたようですが、なかなか諦めようとしませんでした。
レジに並ぶ他のお客様も心配そうに見守る中、私が割って入り『申し訳ありませんが、受け取れませんので、お帰りください』と伝えたところ、急に激怒したのです」
一瞬にして店内は修羅場と化しました。伊藤さんは、なんとか高齢者をなだめようと必死に声をかけ続けましたが、収まる気配は全くありません。
◆キレまくる老人に身の危険を感じ110番
「一体いくら使ったと思っているんだ!雨の日も風の日も、私は毎日通って大金を使っているんだぞ!私の気持ちを踏みにじるとは何事だ!」
男性はさらに声を荒げ、自分の杖を振り回し始めました。周囲のパンを次々と床に落とし、大声で叫び続けていました。
「他のお客様にもご迷惑をおかけしていたし、このままではお店が潰れてしまうと思い、110番しました。すぐに警察官が駆けつけ、その男性は連行されましたが、パトカーに乗るまで大声でわめいていました」
後日、警察から連絡を受けた伊藤さんによると、その男性は奥様に一目惚れし、日々その思いが強くなり、少しでも振り向いてもらおうと毎日パンを購入していたとのことです。
「私も、自分の対応が良くなかったと反省していますが、改めて高齢者との接し方には慎重になるべきだと学びました」
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営