無罪判決確定を祝う支援者の集会で、会場に入る袴田巌さん(中央)=2024年10月、静岡市内 有罪が確定した刑事裁判をやり直す再審制度を巡る動きは活発化している。超党派の議員連盟が今国会中の改正法案提出を目指しており、実現すれば刑事司法の大転換になる。一方、法務省は慎重な検討が必要との立場。識者からは「新たな基準を作っても、きちんと判断できる裁判官がどれくらいいるのか」と裁判官の資質自体を問う声も上がっている。
昨年、静岡一家4人殺害事件で袴田巌さん(88)に無罪が言い渡されたが、再審開始につながる重要証拠が検察から開示されたのは2010年。死刑確定から30年後という遅さだった。検察は静岡地裁の再審開始決定に不服を申し立てて抵抗。決定から再審開始が確定するまでに約9年を要した。
これを受け、超党派議連は再審請求審での証拠開示命令に関する規定や、開始決定に対する検察官の不服申し立て禁止などを盛り込んだ改正案骨子をまとめた。議連のメンバーは今年1月時点で与野党の約370人に上り、広がりを見せる。75年以上改正されていない再審制度の規定を早期に改正し、冤罪(えんざい)被害者の救済につなげたい考えだ。
こうした動きに対し、法務省は2月、法制審議会に再審制度の改正に関する議論を諮問すると明らかにした。法制審での議論には年単位の時間がかかる可能性もあり、どのような内容になるかは見通せない。同省や検察は制度改正に消極的だった経緯もあり、問題を指摘してきた弁護士からは「時間稼ぎではないか」との見方も出ている。
ただ、制度改正が実現しても、再審開始の可否を裁判官が判断することに変わりはない。成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)は「改正は待ったなしだが、証拠があっても裁判官がきちんと判断できないのであれば、独立した第三者機関の設置も考えないといけない」と指摘している。