写真―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
自腹でtvk(テレビ神奈川)の放送枠を買い、制作費も全額出資で大暴れ。大きな反響を呼び、ついに地元静岡のSBS(静岡放送)からオファーが届き冠番組の放送が開始した!
そこにはR-1ぐらんぷり王者のエキセントリックな芸風とは違う、“誇張”されていない冷静なお笑いの美学があった。
◆どこの局でもやらせてもらえないなら放送枠を買うしかない
「シュ〜!」
テンガロンハットに、黒いプロレスパンツ一枚で、“誇張しすぎた”モノマネで爆笑をかっさらう。キワモノのピン芸人に見られがちだが、「自分は天才型ではないから……」と戦略的にキャリアを積み上げてきたと明かす。
御年50歳、己の宿命を悟る「知命」の境地に達した男が、現代お笑いに対する率直な気持ちを語った。
――自腹で放送枠を買い、制作費も全額出資した『提供ハリウッドザコシショウ』が1月2日、tvk(テレビ神奈川)で放送されました。芸人自身がスポンサーになるのは異例です。
ハリウッドザコシショウ(以下、ザコシ):いまのテレビの限界を突き詰めてみたかったんです。局側からすれば「もうやめてくれ……」と思う内容もあったと思いますけど(笑)
――誇張モノマネはもちろん、ドラムを叩き喚き散らす「東京喚き倶楽部」や、全裸で布一枚の前でジャンプする「ふるっちゃおダンシング」など……。地上波でやっていいのか?と思う企画ばかりでした。
ザコシ:どこのテレビ局もやらせてくれないから、自腹を切るしかなかったんです。費用は……高級外車1台分くらいかな〜(苦笑)
僕、お金の使い道が特にないんです。ほかの芸人みたいに車や高級腕時計を買わないし、結婚しているからオネーチャンにも興味がなくって。
自宅のスタジオの設備ぐらいかな? だから番組購入につぎ込みました。
◆古き良き昭和のテレビを意識
――昨年11月から、地元・静岡のSBS(静岡放送)で、冠番組『冠ザコシの冠冠大冠』がスタートしました。
ザコシ:地元局で冠番組を持つのは長年の夢だったので、50歳で実現できてうれしかったです。小さい頃、『一人ごっつ』や『東京イエローページ』とかを観ていて、「こんな番組がやりたい!」とずっと思っていたので。
いま、仕事の中で一番全力投球しています。
――某番組のパロディコント「お金の虎」をはじめ、過去のヒット番組を再現したような、古き良き昭和のテレビの雰囲気が伝わってきます。
ザコシ:当時の雰囲気は、すごく意識しています。昔は受け入れられた内容も、いまはコンプラがうるさくて、やれないことも多い。
でも、冠番組ということで、あえて「え、こんなことをテレビでやっちゃっていいの?」と驚かれるような内容を心がけています。
◆自由度の高いネットよりもテレビを選んだワケ
――また、ザコシさんは「HIKAKINより早くYouTube配信を始めた男」として知られていますが、自由度の高いネットより、なぜテレビの冠番組に憧れを?
ザコシ:一番影響力のあるメディアは、いまだにテレビだと思うんです。ネット人気は世代が限定的だったりすることが多く、テレビは認知度の幅が広いと実感しています。
だからテレビに出続けたいし、冠番組を持ちたかった。自分がYouTubeを始めたのも、tvkで番組枠を買い取ったのも、「万が一、冠番組が始まった場合、きちんと対応できるように」という予行演習の気持ちが強い。
お金はかかりましたが、気づきは多かった。それだけに思い入れは強いので、いま一番の目標はこの番組のレギュラー化です。
月1でも、隔週でも週1でもいいので、絶やさず続けていきたい。地方局は自社制作のバラエティ番組はそこまで多くないので、この番組をきっかけにSBS(静岡放送)がお笑い番組を作るようになったらいいなと思います。
◆冠番組の反響はエゴサでチェック
――冠番組の反響はどうですか。
ザコシ:反応はいいですよ。 あくまで、ネットのエゴサーチにおける反応ですけど(笑)。
――エゴサをするんですね。
ザコシ:気がつけば、毎日やっているんじゃないかな……。
以前、電気グルーヴの石野卓球さんに、「この仕事では、他人からどう見られているかがブレてしまうと致命的。自己プロデュースのために、絶対にエゴサーチをやったほうがいい」と言われたんです。しっかり評判を分析して、自分の行動をチューニングしています。
――アンチのコメントを見ると、心が折れたりしないですか?
ザコシ:当然ムカつくことも多いし、「嫌なら観るな!」と思うこともあります。でも、表立って抗議はしない。たま〜に、ライブのネタとして「こんなやつがいた!」と使わせてもらうこともありますが(笑)
◆一度だけ、芸人をやめようと思ったことがある
――R‐1王者など地位を確立しましたが、下積み時代はつらくなかったですか?
ザコシ:いやー、売れてないときは、そりゃつらかったですよ。そんなとき支えてくれたのが、当時恋人だった僕の妻です。いまだに思い出すのが、彼女がよくのり弁を買ってきてくれたこと。
腹を減らして家に帰ったとき、目の前に食べ物がある環境は本当にありがたかった。
結婚してもお笑いを捨てる気は絶対になかったので、「今後も芸人は続けるからね」と意思確認はしましたけど。
――芸人をやめようと思ったことは?
ザコシ:一度だけあります。コンビ活動を休止して、ピン芸人になったばかりの頃……、お笑いへの取り組み方がわからなくなり、何を思ったか「漫画家になろう!」と、出版社に漫画の持ち込みに行ったんです。でも、全く引っかからなかった(笑)
「明日から何を目指そう……」と迷ったとき、自分ができることを箇条書きにしてみました。「10年間続けてやめたお笑い」「漫画家」「就職する」といった選択肢を書き出したなかで、ブレイクする可能性が一番高いのは、「お笑い」だなって。
そこで、お笑いをもう一度イチから真面目に勉強するようになって、人生が変わりました。
◆「本当にやりたいお笑い」でないことはお客さんにもバレる
――確率論で選んだ、と。
ザコシ:僕、結構戦略的なんです(笑)。昔、ビジネス誌でこの戦略について取材されたこともあります。その記事をケンコバに読まれて、めちゃくちゃいじられましたけど。
でも、思いません? 僕がケンコバと同じようなボケをしても、ネタをやっても、絶対にウケないし、彼には勝てない。
だから自分の強みを生かし、自分が好きなお笑いで勝てる戦略を考え続けた結果、いまがあると思います。
――勝つには“好きなお笑い”であることも重要だと。
ザコシ:その通りです。実際、自分が本当にやりたいと思っている“体重の乗ったお笑い”をやらないと、お客さんにもすぐバレます。
「あ、ザコシ、このネタを楽しんでやってないな」って。最近の若い芸人は学歴が高くて頭もいいから、論理的に突き詰めたネタが多い印象がある。
そのお笑いが好きで勝負しているなら問題ないけれど、ただ売れるための“やりたくないネタ”は続かないし、うまく表現できないだろうから結果、つまらない。
僕はキャイ〜ンさんや錦鯉みたいなキャラが濃い漫才師が好きだから、余計そう思うのかもしれませんが、キャラ重視の漫才師が増えたらもっと面白いのにな、と思います。
◆お笑いの障害になるものは徹底排除
――発言がストイックですね。
ザコシ:いや〜、恥ずかしいな(笑)。でも、僕は、一生お笑いがやりたいんです。だから、徹底的に分析するし、戦略も立てる。
日頃から、お笑いを続ける上で障害になる要素は、全部つぶします。たとえば、自動車事故を起こしたらこの仕事ができなくなる可能性があるから、自分では運転しない。移動はいつもタクシーです。
あと、最近は珍棒で問題を起こす人も増えているじゃないですか。不祥事でお笑いができなくなったら本当に困るので、僕は女性がいる飲み会には行きません。
その覚悟で、お笑いをやっていますから。
――生涯現役と。
ザコシ:芸人は一生続けたいですが、10年後はもうヨボヨボですよ。いまですら、会話の途中で反応が遅れたり、固有名詞が出ずに「あれ」「これ」「それ」しか言えなかったりするので、衰えを感じます……。
20年後? 仮に生きていたとしても、頭が回らず、つまらなくなっていて、お笑いはやめさせられているかも。そうなる前に、お笑いでやりたいことは全部やっておきたいです。
【Hollywood-Zakoshisyoh】
1974年生まれ。静岡県清水市(現・静岡市清水区)出身。『R-1ぐらんぷり2016』優勝。’21〜’24年にかけて、同大会審査員を4年連続で務める。SBS(静岡放送)『冠ザコシの冠冠大冠』、YouTubeチャンネル「ザコシの動画でポン!」などネット上でも多数活躍中
取材・文/藤村はるな 撮影/尾藤能暢
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―