原発再稼働「賛成」多数の裏に国民の「悩み」　毎日新聞世論調査

　賛成41％、反対29％――原発の再稼働を進めることについて、毎日新聞の世論調査で尋ねたところ、賛成が反対を大きく上回った。一見、原発への理解が広がり、再稼働を進める環境が整ってきているようだが、賛否の理由についての自由記述を分析すると、経済的な側面と安全性への疑念の間で悩む国民の姿が浮かんだ。

　調査は3月15、16日、スマートフォンを対象とした調査方式「dサーベイ」で実施した。NTTドコモのdポイントクラブ会員を対象としたアンケートサービスを利用。全国の18歳以上約7000万人から調査対象者を無作為抽出し、2047人から有効回答を得た。原発再稼働を進めることについての質問では、「賛成」「反対」「わからない」を選択肢から選んでもらったうえで、その理由を自由に書いてもらった。

最も多い賛成理由は「電気代」

　賛成の理由で最も多かったのは電気代に関してだ。「電気代が上がりすぎて原発なしでは苦しい」（20代女性）「電気代が高くなりすぎ。安くなるなら再稼働すべきだ」（50代男性）などの意見が並び、「電気料金の高騰は家計を圧迫しています」（70代男性）といった厳しい現状を訴える声もあった。物価高の中、電気代を抑えたいという要望は大きい。

　これに加え、「電気代が安くなり、経済が上向く」（50代女性）といった経済活動への影響を指摘するものもあった。

　また、「まずは温暖化対策が先決」（30代男性）「二酸化炭素を出さない電力をたくさん増やすべきだ」（50代女性）など、脱炭素の観点から必要性を訴える意見も。「夏場の電力不足を補うことができる」（20代男性）「ベース電源になり得るのは再生エネルギーではなく原子力発電だから」（50代男性）など、電力の安定供給への期待もあった。

目立つ「条件付き賛成」

　中でも目立ったのが「条件付き賛成」だ。「災害による事故を防ぐ措置を講じてから」（20代男性）「原発でないと電力が賄えないだろう。ただし、絶対的安全の保証は必須」（50代男性）「安全さえ確保できれば、安く電力を供給してほしい」（60代女性）「安全対策をきっちりやることを前提に」（70代男性）など、「安全性が十分なら」という前提の書き込みが相次いだ。

　このほか、「原子力以外で電気を賄う方法が今のところ他にない」（20代女性）「直ちに代替できるエネルギーがない」（30代男性）などの消極的な賛成も多くあり、「原子力は危険だが、他に手だてがないのでやむを得ない」（60代女性）という考えがにじむ。

　反対の理由は、「事故があったときのリスクが取り返しのつかないレベルになる」（50代男性）「日本は地震が多いので反対」（70代女性）など安全への懸念や、「核のごみをどうするのか」（70代女性）「廃棄物の場所が決まっていない」（70代男性）など放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないことを問題視する声が多数を占めた。

　ただ、反対理由の方でも「電気料金を考えると賛成かなとも思いますが、対策をしっかりしてもらわないと危険だから反対」（40代女性）といった「迷い」が散見された。

30％が「わからない」

　この質問で特徴的だったのは、「わからない」が30％に上ったことだ。「わからない」を選んだ回答者からは「原子力発電にもメリットがあるが、また震災が起きたときのことを考えると不安」（20代女性）「エネルギーとしては必要だと思うが、安全性や環境を考えるとどちらとも言えない」（40代女性）「電気代が下がるのはうれしいが、災害があった時が恐ろしい」（60代女性）といった意見が寄せられた。

割れる賛否、変動する賛否

　原発再稼働への賛否は、性別・年代で違いが表れた。男性が賛成56％、反対26％だったのに対し、女性は賛成27％、反対32％と賛否が逆転。年代別では、賛成が18〜29歳で49％▽30代で46％▽40代で45％▽50代で42％▽60代で36％▽70歳以上で32％――と高齢層ほど少ない傾向だった。60代では反対が35％と賛否が拮抗（きっこう）し、70歳以上では反対が44％と賛否が逆転している。これは、経済的側面と安全面のどちらを優先するか、性別や年代によって違うからだろう。

　調査手法が今回と異なるので単純比較はできないが、2022年5月の調査（賛成47％、反対30％）、23年3月の調査（賛成49％、反対37％）では賛成が反対を上回っていたが、24年3月の調査では賛成36％、反対45％と賛否が逆転した。同年1月の能登半島地震で原発の安全性への懸念が意識されたからだとみられ、今後も災害など安全性が脅かされる事態が起きたとき、賛否が変動する可能性がある。

　50代女性は「安全には留意して続けてほしい気持ちと、地震が発生すると怖い気持ちがある」と書いた。原子力政策を議論していくには、賛否の数字の裏にある国民の安全性への懸念を読み解く必要があるのではないか。【野原大輔、大隈慎吾】