伊藤園が海外向けに輸出している緑茶関連商品(同社提供) トランプ米政権が発動した相互関税は、日本政府が目指す農林水産物・食品の輸出拡大に冷や水を浴びせかねない。米国は昨年、長らく輸出先のトップ2だった中国、香港を抜いて1位となったばかり。「大谷効果」への期待感や日本食人気が高まっていただけに、業界関係者の衝撃は大きい。日本への24%の上乗せ関税は90日間停止されたが、10%分は適用されたまま。「影響は不透明だ」と困惑が広がる。
2024年の農林水産物・食品の輸出額は、全世界向けで1兆5071億円と過去最高を更新した。中でも米国向けは、前年比17.8%増の2429億円と首位に浮上。米国での日本食レストランの増加などを背景に、日本酒を含むアルコール飲料や緑茶、牛肉、コメ、ホタテ貝といった多くの産品の伸びが顕著な重要市場だ。
「これからというところだった」。八海醸造(新潟県南魚沼市)の担当者はこう声を曇らせる。同社は「伝統的酒造り」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産への登録も追い風に海外展開を積極化。米大リーグのドジャースとパートナーシップ契約を結び、球場では日本酒「八海山」の広告を大々的に打ち出す。欧州向けも注力しているが、米国は最大の輸出先。引き続き同国での展開に取り組むとともに、「米国が厳しければ違う方法も考えなければいけない」と、輸出先の多様化も視野に入れる。
緑茶の米国市場開拓を進めてきた伊藤園は、日本食ブームや健康志向の高まりで販売を増やしてきた。「お〜いお茶」の広告には大谷翔平選手を起用し、認知度を高めている。
緑茶は無税からの関税賦課となるため、価格の引き上げを余儀なくされる可能性もある。担当者は「消費マインドの減少」を懸念。「米国本土での現地生産を含めた柔軟な供給体制の構築を検討している」と話し、状況を注視している。
キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、「代替性がないということを強調して売り込むことが必要になる」と指摘する。食品などには現在は原則一律10%が課されているが、一時停止中の相互関税の税率が再適用されれば、国・地域別に差が生じる恐れがある。品目によっては競争条件が不利になるため、他国の交渉状況の見極めも重要になるとの見方を示した。

八海醸造が海外向けに輸出する日本酒「八海山」(同社提供)