●Q&A:これってハラスメント?
職場で起こりがちなケースを基に、ハラスメント問題に詳しい佐藤みのり弁護士が詳しく解説します。
Q: 在宅勤務が可能な職場です。先日、会社のAさんと上司の私が、クライアントとオンラインミーティングをしました。すると、Aさんは「顔出ししたくない」と言います。こうしたケースでは、就業規則を変えることで顔出しを義務化させることは可能ですか?
A: 就業規則の変更までしなくても、クライアントとのオンラインMTGにおいて、カメラをオンにするよう命じることは可能です。
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会社は、従業員に対し、どのような方法で業務を行うか指示することができ、従業員は雇用契約に基づき、会社の指示に従って労務を提供する義務があります。従って在宅勤務におけるオンラインMTGの方法についても、原則として、会社が自由に決めることができます。
コロナ禍を経てリモートワークが浸透する中、「リモートハラスメント(リモハラ)」という言葉も生まれました。リモハラとは、一般に、リモートワーク中になされる不快な言動を指し、働く人々の間では、
・勤務時間中、常にカメラを接続させること
・上下スーツで仕事するよう求めること
・バーチャル背景を禁じ、リアルの背景を写すよう求めること
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なども、リモハラに当たるのではないかとの声があがっています。そして、今回問題となっている「顔出しを必須にしたり、全身を写すよう求めたりすること」も、働く人々が不快に感じやすく、リモハラと言われやすいものの一つです。
●「不快に感じるもの全て」がハラスメントになるわけではない
しかしリモハラに限らず、パワハラなど他のハラスメントでもいえることですが、労働者が不快に感じるあらゆる言動が「違法なハラスメント」になるわけではありません。
会社側の指示に業務上の必要性が認められ、社会通念上相当な範囲であれば「違法なハラスメント」ではなく、会社の裁量として問題なく認められます。
ご質問のケースではクライアントとのオンラインMTGにおける「顔出し」が問題となっています。
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一般に表情はコミュニケーションの重要な要素ですから、リモートワークの場合も相手の顔を見ながら議論する必要性は認められるといえるでしょう。
事務的な連絡のみであれば、音声のみでやりとりしたり、メールなどで済ませたりすることで足りる可能性もありますが、とりわけ社外のクライアントとのMTGであれば、顔を見ながら話す業務上の必要性は高いと考えられます。
また業務時間中に、顔や服装を他人に見られることは通常受け入れるべきことなので、社外のクライアントのMTGにおいてカメラオンを求めることは、社会通念上、相当な範囲の指示であると考えられます。
従ってご質問のケースで、上司がカメラオンを求めることは適切な指示であり違法なリモハラにはならず、従業員は指示に従わなければならないと考えられます。
●就業規則の変更は必要か?
リモートワークが浸透する中、就業規則も変更しなければいけないのではないかと不安に感じている企業もあるかもしれません。
しかし、厚生労働省が公表している「テレワーク モデル就業規則 作成の手引き」によると、「通常勤務とテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます」とあります。
一方で、従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合や、テレワーク勤務の導入に際して新たな労働時間の体制を取り入れる場合などには、就業規則の変更が必要とされています。
もっとも、従業員に指示を出す際、明文の定めがあった方がやりやすいことも考えられます。既存の就業規則の中に、あるいは、新たにテレワーク勤務規程を作成し、テレワーク勤務時の服務規律を定めるのも一つの方法でしょう。
その際は、テレワーク中の業務専念義務、テレワーク勤務時の情報・セキュリティ管理、テレワークの場所などを定めると共に、カメラのオン・オフに関するルールや、画面背景に関するルール、テレワーク中の身だしなみに関するルールなどを加えることも考えられます。
ルールを作成する際は「違法なハラスメント」に当たるか否かにかかわらず、従業員が納得しやすい内容にする視点も大切になるでしょう。
●リモハラが起こらない職場づくりを
リモートワークは、プライベート空間で行われるため、カメラのオン・オフ、画面の背景、身だしなみの問題を含め、従業員からすると不当なプライバシーへの介入だと感じられ、反発を招きやすい面があります。業務上の必要性と従業員側の負担感について慎重に検討することが大切です。
それと同時に、リモハラが起こりにくい職場づくりを目指しましょう。上司や先輩社員などから「リモートだから化粧が手抜き」「近くで見ると老けている」「部屋が散らかっている」「こんな部屋では仕事にならない」などの発言に従業員が苦しめられている事例は存在します。
こうした不当な言動がなされることのないよう、ハラスメント研修を充実させ、気持ちよくリモートワークできる環境を整えましょう。そうすることで、従業員の顔出しに対する抵抗感も和らぐように思います。
●佐藤みのり 弁護士
慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。
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