※イメージです(以下、同じ) 普通に暮らしていたはずなのに、気づいたときには自分自身や身近な家族が借金まみれになっていた――。そしてその原因が、ホストにハマる“ホス狂い”や自分を犠牲にして恋愛対象者を最優先にしてしまうことだとわかったとき、どうすれば脱却できるのでしょうか。
依存症治療に30年以上携わり、家族でも「公費負担制度」を使えば安価に相談可能な制度を自身の病院に導入するなど、本人・家族からの相談に日々耳を傾ける医療法人社団 祐和会「大石クリニック」の院長・大石雅之先生に話を聞きました。
大石先生は多くのメディアでホス狂いなど依存症についての取材に応えるほか、運営する4か所のグループホーム(回復施設)も活用しながら患者それぞれが治療に専念できる環境を提供しています。
前回の取材では、ホス狂いや恋愛依存症などに陥り、日常生活が破綻してしまう人たちのメカニズムについても話を聞いています。
◆ホス狂いや恋愛依存症に気づくタイミング
――メディアで報道されているイメージもありますが、ホス狂いや自分を犠牲にして恋愛対象者を最優先にしてしまう恋愛依存症の人たちは、返しきれないぐらいの借金が発覚したり売春で逮捕されたりして、自分自身が抱える問題に気づく印象です。実際はどうですか?
大石先生:ホス狂いや恋愛依存症などで日常生活が破綻してしまうほど重症の場合、ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害、性嗜好障害や強迫的性行動症などの疾患を抱えていて、本人や家族などは疾患に気づいていないことがほとんど。そして視野の狭さや興味・行動に偏りがあるといった疾患の特徴から、ホストや恋愛対象者と自分だけの世界に入り込んでしまい、大きな問題に発展するまで自らが置かれている状況に気づきにくいことが多いです。
当院など精神科を受診するときには、「ホストといっしょにいるために借金をするようになり、お金が足りなくなって昼の仕事を辞めて風俗で働いたり売春したりしてお金を貢ぐようになった。でも、ホストからの要求は大きくなるし、売掛金(ツケ)もどんどん溜まっていくので生活が困窮し、最終的に払えなくなった」という状況の人も少なくない。そして診断を受けてはじめて、自身の疾患に気づくというケースも多いのです。
――疾患を抱えていない場合は、早い段階でホス狂いや恋愛依存症に陥っていることに気づくこともあるということでしょうか?
大石先生:はい。早い段階で気づくことが多いです。その場合はスマホを解約して、相手からも自分からも連絡が取れない状態を作ることで抜け出せるケースもあります。依存症は「やめたい」という気持ちと「やめたくない」という気持ちが短時間で変化する病気のため、治療を受けたいと思ったときに受診したり、同じ問題を抱える患者さま同士で話したりすることも大切です。そのため当院では、初診でも電話でご相談いただければ即日初診で対応します(※予約枠が空いている場合のみ。まずはお電話下さい)。また、自立支援医療制度を利用すれば1回500円程度で参加できるミーティングも実施しています。
◆本人を説得すると高確率で亀裂が入る
――自分で気付けないとなると、家族などまわりの身近な人が先に気づくことが多そうですよね……。家族がもしそうなったら、ショックを受けるとともに、強引にでもどうにかしたいと考えると思います。
大石先生:そうですよね。でも家族が強引に介入すると、本人は「私はただ、〇〇(ホストや恋愛対象者の名前)を好きなだけ」「いっしょにいたいだけ」などと拒絶し、引き離そうとすればするほど反発してしまうケースも多いんです。そうなると、本人との関係性に亀裂が入ってしまう確率が高くなります。
――周囲が引き離そうとすればするほど反発するというのは、してしまいそうですね…。
大石先生:そうそう。そういった心理状態に輪をかけてしまうのが、疾患の特徴です。疾患を抱えている人は、「いまの状態や借金を続ければどうなるか?」ということを想像できないことも多いので、少し先の生活や自分の心配よりも“いまの気持ち”や“いまの心地よさ”を優先してしまう。
それなのに周囲がホストや恋愛対象と引き離そうとすると、本人がまわりとの連絡を絶ったり、家出したりすることも少なくありません。こうなってしまうと、最悪。本人は孤立してしまい、ホストや恋愛対象者との世界がすべてになってしまいます。
◆ホス狂いなど当事者が孤独になるとヤバイ理由
――救おうとする言動が当人との軋轢を生むというのは、やるせないですね。でも、どうすれば?
大石先生:悪いホストや恋愛対象者は、本人が孤立する状況を望んでいます。そのほうが、自分の言うことを聞かせやすい、コントロールしやすいですから。そういう状況を作らないためにも、本人の言動を否定せず、見守ることが大切です。
――否定せずに本人を見守っていたら、問題が大きくなりそうです……。
大石先生:ときには親御さんの財布からお金を持って行ってしまうことがあるかもしれませんし、我が子が風俗で働いていることを知ってショックを受けることもあるかもしれません。それは親御さんにとって、とてもつらく悲しく苦しいことです。でも、グッと我慢。「言動を否定せず見守る」という対応は遠回りのように感じると思いますが、こういった方法でホストや恋愛対象者との縁を切ることに成功したケースも多いです。
◆家族ができることや相談・治療に利用できる制度など
――家族などまわりの人たちは、「いつまでこの状態が続くのか」とすごく不安になると思うのですが、忍耐強く見守ることが最善の策なのですね。
大石先生:まわりが否定しない。本人にとって、自分の言動を否定されない、自分の居場所や帰れる場所があるということはとても大事なことです。疾患の影響で、先のことよりも“いま”を優先してしまうとはいえ、ふと「このままでいいのかな?」と感じるときがある。そのときにまわりが、怒らず否定せず話を聞いて受け入れていくことで、状況が改善することも多いです。
――う〜ん……。家族など身近な人にとって、じっと耐えているだけというのはしんどいかもしれませんね。それに、本人にかける言葉選びも難しそうです。
大石先生:本当は、本人が治療に来てくれるのがいちばん。でも、まわりが本人に「治療に行きなさい」と言って診察に来てくれる人は、すごく少ないです。相談に来ても1〜2回でやめてしまうなど本人が診察や治療に足が向かないことも多いので、そういった場合には家族の方が精神科などの医療機関に相談することをおすすめします。
◆相談・治療に利用できる制度や社会復帰までの流れ
――家族だけでも相談できるのですね。費用はどれぐらいかかりますか?
大石先生:家族だけでも相談できますし、家族だけの相談の場合でも健康保険や公費負担制度の利用も可能です。ただ、家族相談の費用は各クリニックによって異なりますし、自費の場合もあります。公費負担制度を利用した場合の例として、当院だと1回約700円。また、全国どこからでも可能なweb相談という方法もあります。
――公費負担制度について詳しく教えてください
大石先生:精神科の通院患者さんを対象に、国や都道府県、そして指定都市が通院医療の90%を公費で負担する自立支援医療公費負担制度のことです。申請には3〜4週間ほどかかる自立支援診断書が必要となりますが、申請することで通常3割の患者さん負担が1割の負担となり、各家庭の収入によって1か月の自己負担上限額が決まるなど相談や治療にかかる費用を抑えることができます。
――本人だけでなく、家族が相談する場合にも健康保険や公費負担制度が利用できるというのは覚えておきたいですね。あと、相談から社会復帰までの流れも知っておきたいです。
大石先生:人によってそれぞれです。軽度の人であれば、同じ問題を抱える患者さん同士で体験したことを話したり聞いたりすることで共感し、励まし合い、問題行動をやめ続けるモチベーションとなるミーティングが有効です。ミーティングはこれまでの学生生活や仕事をこなしながら、2〜3回ぐらい参加して通常の生活に戻る人もいます。
◆破産・生活保護・グループホームでの治療など
――では、生活が破綻してしまったなど深刻な人はどうですか?
大石先生:場合によっては自治体や弁護士などとも連携しながら、破産や生活保護の手続きなどを並行して進め、ホストや恋愛対象者との縁を断ち切るためにグループホーム(回復施設)へ入居して治療をする場合もあります。
――大石クリニックのグループホームには、部屋にお風呂やトイレが付いた完全個室型の施設もあるのですね。こういった回復施設に入ったあとは、どのような治療を受けますか?
大石先生:たとえば、症状の再発防止に科学的効果が認められている認知行動療法に基づき作成したテキストを使った「集団認知行動療法」があります。ほかにも、自分の認知や感情、身体の感覚を受け入れ、自分の中で起きていることを客観的に眺められるよう導く「マインドフルネス認知療法」など。ほかにもさまざまありますが、患者さまによって治療法が異なります。違和感や心配事がある方はまず、ご相談いただければと思います。
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もし、ご自身や家族など身近な人が、ホストや恋愛対象者への依存が原因で苦しんでいると気づいたら、驚きやショックを受けるかもしれません。けれど気づいた段階で適切な治療を受けることで、いまの状況から抜け出せる可能性も十分にあるといえるでしょう。
【大石雅之】
厚生労働省より「依存症専門指定医療機関」や「通院医療機関」として指定を受けているほか、神奈川県警察より「ストーカー加害者の精神医学的治療等指定医」としての委嘱も受けている医療機関、医療法人社団 祐和会「大石クリニック」の院長。依存症治療に30年以上携わり、多くの依存症患者と向き合う日々を送っている。
<取材・文/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意。