写真/時事通信社ドジャースの大谷翔平選手が、妻の真美子夫人の出産に合わせて、大リーグの産休に当たる「父親リスト」に入り、現地時間の4月18日から試合を離脱した。翌19日、大谷選手はSNSで長女の誕生を報告。今季初の2試合欠場となるも、20日には試合に復帰し、レンジャーズとの3連戦最終戦に先発出場することに。こうした報道に日本のメディアは連日、「父親の鏡と称賛」「日本の時代遅れ」などを報じているが、違った視点も見えてくる。自身も一児の母で仕事と育児の両立をしている、信州大学特任教授の山口真由氏が、注目を集めるこの制度について見解を示す(以下、山口氏の寄稿)。
◆産休がたった3日で足りるの?
ドジャースは、大谷選手の「父親リスト」入りを発表した。出産に立ち会う選手に最長3日のオフを認めるこの制度は、大谷選手に第一子が誕生したとの朗報と相まっていま称賛の的となっている。
でも逆に私は思う。「産休」が3日だけなんて、プロ野球選手であることと、父親であることの両立は難儀だなと。
家族にとってのハイライトは出産だけではない。例えば、4人の子どもを持つメジャーリーガーの妻は「卒業式、学校行事に練習試合……そういう場面の多くに父親は立ち会えなかった」と語っている。遠征の多い選手たちは、子どもの“はじめて”の瞬間の多くを見逃すのかもしれない。
より重大な事態もある。三男の筋力が低下し、食べることも飲むこともできなくなったとき、心配で1時間しか眠れないまま球場に向かった父のフリーマン選手は、そんな状態でも、試合後に3つの都市を回る遠征に直行せざるをえなかった。プレーオフを目指すドジャースの主力として、多額の報酬と引き換えに、かくも重たい義務を選手は負う。
◆プロ野球選手と家庭の両立の難しさ
ロバーツ監督いわく「感情を切り分けられる」大谷選手でも、野球と家族との間で葛藤することもあるだろう。だけど、野球と家族を分ける必要って本当はないのかも。そばにいられないときでも、フィールドに立つその背中でわが子を導いていけるのだ。
そう、子どもたちは父に憧れ、ときに父と同じ道を歩む。例えば、’21年に大谷選手とホームラン王争いを繰り広げたブルージェイズのゲレーロ・“ジュニア”選手。なぜ“ジュニア”をつけるのかと言えば、同姓同名で同じくメジャーリーガーだった父ゲレーロ・“シニア”選手と区別するためだ。ともにホームランダービーを制したこの強打者親子以外にも、2代ときには3代にわたりメジャーで活躍する例は、実は少なくない。
と言いながらも、野球と家族の両立が難儀な瞬間はそれでもきっとあるのだ。そんなとき、あのスーパーマンですら等身大の横顔を見せるのかもしれない。
【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任