バク宙失敗で頚髄損傷 「一生歩けない」と医師は告げた 「首から下の感覚がない体」で生きる学生 車椅子で通学、カテーテルで排尿

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2025年05月11日 11:20  まいどなニュース

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旅先での1枚…インスタグラムで車椅子ユーザーが楽しめる場所を積極的に配信しているけーそんさん

「プールに飛び込んだ時や熱中症で転んだ時に頚髄が損傷してしまった人は意外といるので、身近な危険から自分を守るにはまず、神経は傷つくと治らないということを知っておくことが大切だと思います」

【動画】「バク宙失敗の結果がヤバすぎた」…車椅子ユーザーになった経緯をインスタで紹介し話題に

そう話す20歳のけーそんさん(@keison_travel_wheelchair)は19歳の頃、バク宙に失敗して頚髄を損傷。現在は、インスタグラムで車椅子ユーザーが楽しめる場所を積極的に配信している。

バク宙の練習中に頚髄を損傷して「車椅子ユーザー」に

大学入学後、スポーツを始めたことを機にバク宙の練習をするようになった、けーそんさん。練習は専用の施設にて指導者がいる状態で行っていたが、2023年7月、「そろそろ、ひとりでも大丈夫だろう」と思い、自主練習をすることに。

しかし、1回目でバク宙に失敗。自主練習中の出来事だったため、発見されたのは30分後だった。

「首から上しか動きませんでした。発見されるまでの30分間は『やっちゃったな』とか『これは治らないだろうな』と思っていました」

たまたま通りがかった人が救急車を呼んでくれ、けーそんさんは病院へ。すぐに緊急手術を受けた。

頚髄の損傷により、けーそんさんは首から下の運動機能や感覚が失われる「完全麻痺」という状態になり、歩行が困難に。医師から伝えられたのは「一生歩けない」という厳しい現実と、「体の状態が良くなるかは分からないが、リハビリ次第でできるようになることはある」という小さな希望だった。

車椅子生活になって知った「社会の温かさ」

普通に歩ける日常が突然、一変すると絶望する人が大半だろう。だが、けーそんさんは、自分の身に起きたことを素直に受け入れた。

「最初はショックだったけど、自分の場合は自業自得だったので、しょうがないかなと…」

術後は、手術を受けた病院でリハビリに励んだ。まずは行ったのは、電動ベッドを使いながら体を起こすリハビリ。

「ずっとベッドで寝たきりだったので、最初の頃は頭を上げるだけで意識飛んでしまいました」

電動ベッドで体を起こせるようになると、次は食事のリハビリがスタート。初めは看護師さんに食べさせてもらっていたが、徐々に自分で食べられるようになっていった。

2カ月後、けーそんさんはリハビリ専門病院に転院。車椅子からベッドに移乗するなどのリハビリを受けた。また、転院先の病院では同じ障害を持つ人たちと交流でき、より前向きに自身の障害を受け入れられるようになっていった。

「同じ病室には、脊髄を損傷して20年経つ人もいました。そういう人たちの話を聞いていたら、思ったよりもなんとかなるんだなって感じられたんです」

リハビリではADL(※日常生活動作がどれだけ自立してできるかという指標)を意識して食事や移動、着替え、入浴などをできるだけ人の手を借りずに行えるように励んだ。

そうした努力を積み重ねていき、けーそんさんはやがて車椅子に乗れるように。自分はベッドで寝たきりの生活を送るのだろうと思っていたため、車椅子に乗れた時は安堵し、嬉しかったという。

事故から8カ月ほど経った2024年3月に退院し、実際に車椅子での生活が始まると、これまで気づかなかった意外な困難を知る。

「坂道は大変だろうと思っていましたが、実際は雨水が流れるように道路が少し横に斜めになっていることのほうが大変でした」

ただ、その一方で自身が思っていた以上に社会のバリアフリーが進んでいることに驚きもした。旅好きなけーそんさんは浅草寺に行った際、エレベーターで賽銭箱へ行けることに衝撃を受けたという。

また、外出時には人の温かさが身に染みた。東京の上野で坂道を登っていた時には、外国人がごく自然にサポートをしてくれたそう。六本木を訪れた時には、おばあさんが車椅子を押してくれた。

「自分から頼む前に助けてくださることが多くて、ありがたいです。大学には電車で通学していますが、毎朝、駅員さんがスロープを出してくれる。健常の頃は、こんな配慮がなされているなんて知りませんでした」

自力での対処には限界がある「排泄障害」の現実

けーそんさんはリハビリの結果、残存している体の機能を上手く使えるようになり、食事や車椅子の操作などできるようになったが、現在も完全麻痺という状態。一番、付き合い方に悩んでいるのは排泄障害だ。頚髄を損傷すると、脳との経路が断たれて尿意や便意が消失し、排泄障害が起きることがある。

けーそんさんは尿意・便意を感じず、自力での排泄が困難だ。そのため、4時間に1回ほどトイレへ行き、自身で尿道に細い管(尿道カテーテル)を挿して排尿している。

体幹がないため、排便時は寄りかかれる手すりやトイレ横に台がある作りになっている多目的トイレでないと利用できない。

「多目的トイレがなさそうな場所に行く時は尿道カテーテルを挿したままにして、尿を溜めておけるバルーンを持ち歩きます。排便は2日に1回で大丈夫なので、夜に自宅で処方薬などを使って出しています」

だからこそ、社会人の自分を想像した時、排泄の問題をどう解決しようかと悩む。一般企業のトイレはまだ設備が充実していないところが多く、排泄の介助は人に頼みにくいからだ。

「以前、お腹を壊して電車の中で失禁してしまったことがありました。感覚がないので、漏れていたことに気づいたのは、帰宅後。こうなると、ひとりでは処理できないので、どうすればいいのかと考えてしまいます」

そんな不安を抱きつつ、けーそんさんは現在、学生生活を謳歌している。インスタグラムでは、飾らない日常を公開。

自身が車椅子ユーザーになった経緯を伝えた動画は大バズりし、フォロワー数は1週間で1万人になった。インスタのDMには救急搬送してくれた救急隊の人からメッセージが届き、驚いたそうだ。

「びっくりしました。『元気そうでよかった』と言っていただけて…。おかげでここまで回復しました、とお礼を伝えることができました」

自分の発信で、ひとりでも前向きになってくれる人がいたら嬉しい。そう話すけーそんさんはこれからも、SNSやYouTubeで等身大の自分を伝え続けていく。彼の活動や想いに触れると、社会的・心理的バリアフリーの価値を痛感することだろう。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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  • 私もバクちゅうで首から落ちたことがあるが、危険を理解すべき。
    • イイネ!27
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