移住当初は根拠ない噂がたったことも…「10世帯の限界集落」に移住した家族にきいた”濃いつながり”の良さ

1

2025年06月11日 09:00  女子SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

女子SPA!

写真
 こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

 地方への移住には、皆さんどんなイメージを持ちますか。「田舎でのびのび暮らせる」「子育てに良い影響がありそう」など、ポジティブなイメージがある一方で、「地元の濃いつながりに入っていけなさそう」といった、ハードルの高さを抱く人も少なくありません。

 今回お話を聞いた近藤さん一家は、2023年に石川県加賀市にあるわずか10世帯の限界集落「今立町」に移住。現在は4歳と1歳の息子さんを育てながら、ご家族で自然体験型の古民家宿「古民家ゆうなぎ」と、乳幼児から小中学生向けの自然学校「かが杜の学び舎ゆうなぎ」の運営、地域コミュニティづくりに取り組んでいます。

 近藤さん一家が移住を考えたキッカケは、「子どもの3歳までをどう過ごすか」を意識してのこと。前回・前々回の記事では、移住の決意や準備についてお話を聞きました。今回は走り出した自然とともにある生活のリアルや、心配ごととして上がりやすい、地域とのつながりについて、夫の裕佑さん、妻のなぎ沙さんに聞いていきます。

◆朝は畑からスタート。自然のサイクルに寄り添う暮らし

 現在の暮らしについて話を聞くと、2人とも「理想的!」といった表現がよく出てきます。まずは、現在はどのような生活リズムなのか、教えてもらいました。

裕佑さん「今の生活リズムは、毎朝6時に起きて、畑で採れた野菜を使って味噌汁を作るところから1日が始まります。7時前くらいに妻と子どもたちが起きてきて、家族そろって朝食を取り、長男を保育園に送ってから、僕は近くの中学校で、午前中だけ支援員の仕事をします」

なぎ沙さん「私は夫と息子を見送ったら、次男と一緒に自宅で宿の掃除や洗濯、宿泊準備をしています。午後になると夫が戻ってくるので、一緒に宿の対応や畑仕事をしたり、DIYをしたり、野草を収穫することもあります。夕方は家族全員でお風呂に入り、夕食、絵本の時間を経て、20時半には子どもたちが就寝。そのあとは夫婦で今後のことを話したり事務をしながら22時ごろに寝ています」

裕佑さん「ここでの生活は、“人間らしい暮らしをしているな”と感じる瞬間が多いです。畑で野菜を育てて食卓に出したり、猟師さんからいただくお肉を食べたり、などです。自然の中を歩いたり、雪かきをして大変さを味わったりと、体を動かしながら生活することになり、『今日も生きたな』と実感できるんです。人類が長く続けてきた“営み”に近い今の生活は、充実感や満足感につながっている気がします」

◆想定外の苦労も。「文化の違い」は対話で少しずつ乗り越える

 こうして話を聞いていると、田舎暮らしの経験がない筆者にも、すごく魅力的に聞こえてきます。ただ、地方移住の悩みのひとつが、「ご近所付き合い」であると聞きます。そのあたりの苦労は、実際のところ、どうだったのでしょう。

裕佑さん「移住当初は、暮らしている方との文化的なギャップはありました。集落には既存のルールや習慣があるので、そこへ入っていく難しさは当初感じていましたね。例えば、限界集落には耕作放棄地も多く、一見草原のように見えるところがあります。でも実際は、公道(農道)や細かく農地などに分かれていたりします。公道をふさぐような土地の使い方(道の近くに木を植えてしまったり)をしたり、他人の土地から採集等を行うことは勝手にしてはならないなど、教えていただいて気づかされることも多かったです。

たまに観光客の方や、他地域の方が、草地に入っていって木の実や野草を採集したり、ふらっと他人の土地に入り込んだりする姿を見かけますが、『自分達もそんな感覚に近かったなぁ』と移住当初を振り返ります。確かに考えてみれば、都会であれば他人の家の庭に入り込んで、勝手に何か採っていくとかはしないと思います。しかし、田舎は柵などもないし、草原や森だったりするのでその辺りの感覚がルーズになってしまう気がします。

地元の人達からすれば先祖代々が大切にしてきた土地ですので、その分管理についても厳格になるのだと思います。正直知らないとわからない公道や共有地があったり、田舎ならではの公共物(水路など)もあるので、『こりゃ外から来た人にはわからないなー』と思う時もあります。

僕たちは普段、観光地などで山を見ても、『この山が誰の物か?』ってあまり考えないですよね。でも、山も道も、“誰のものでもない土地”というのは存在しないと改めて教えてもらいました。実際、山の公図を見た時に、細かく土地が分かれていて、びっしりと番地が並んでいてびっくりしたことがあります。

こうしたわかりづらいルールにわずらわしさを抱く方も居ると思いますが、住み続けていく中で、『なるほどこうなっているのか』と腑に落ちることも増えていきます。同時に、移住したてだと、こうした文化的なギャップや習慣的なギャップ、明文化されていないルールなどをきっかけにすれ違いが生まれ、移住が上手くいかないということは日本のあちこちでありそうなことだなと思いました。本当ならその土地になじめる人でも、移住初期のギャップを乗り越えられず移住を断念するケースも多いだろうなと。

現在までの2年間で、話し合いや日々の会話を重ね、少しずつルールを知っていき、ギャップを埋めていっています。厳格さがある一方、親しくなっていくと、『いくらでも採っていっていいよ!』とお声がけいただいたり、お願いすれば『好きに使っていいよ!』と快諾をいただいたり、親切にしていただけることも多々ありました」

◆根拠のない噂が流れたことも

なぎ沙さん「移住した当時は、この地域の集まりは年に1回の総会しかなく、コミュニケーションがやや少ない印象がありました。私たちも、こうした明文化されていないルールや習慣を知りたかったですし、私たちがやろうとしている事業を理解いただく必要がありましたので、積極的にコミュニケーションの機会を取ろうと図ってきました。

実は宿をやるとなったとき、住民の方に根拠のない噂が流れて、つらい思いをしたこともありました。『政治団体の拠点を作ろうとしているのではないか』、『地域を開発するために行政から送り込まれたのではないか』などです。もちろん私たちにそのような事実はありません。

こうした誤解も、説明する時間をいただいたり、少しずつ地域の方とつながる機会も増える中で、相互理解が進んで解くことができたかなと思います。恐らく住民の方々も、土地にまったく縁のない外部の人が加わるという不安から、根も葉もない噂が広まってしまったのでしょう。少しずつ関係を築いていった結果、宿の開業時には沢山の方からお祝いをいただけるまでに変化していきました」

 近藤さん一家のケースは、それを対話によって解消できたから良かったですが、場合によっては対話ができず、お互いすれ違ったまま不満を抱えたり、移住を断念したりするケースもあるでしょう。

裕佑さん「“地域のつながり”というのは、どこも良い面と難しい面の両方を含んでいると言えます。そんな中で大事な姿勢は、『相手を信じ、理解しようとすること』だと経験を通して感じています。それがギャップを埋めていく大切なことだと思います。僕たちの地域の方々は価値観や表現の仕方などは様々なものの、みなさんとても良い方ばかりですので、こういった姿勢を持つことで人間関係作りが大きく前進しました」

◆限界集落で感じる「つながりの温かさ」

 近藤さん一家の場合は、地域の新たな文化に溶け込む苦労を踏まえても、それを上回る移住の良さを実感しているといいます。具体的に、教えていただきました。

裕佑さん「今の生活は人口が少ないぶん、関係性が濃くなります。『あの家の子だね』と覚えてもらいやすく、地域の人たちが自然に声をかけてくれます。また、地域の人たちは、応援してくれる時はめっちゃ親身になって応援してくれるんですよ。宿の準備の際は、DIYの工具を貸してくれたり、漆喰を一緒に塗ってくれたり、障子を貼ってくれたり、屋根の雪下ろしを教えてくれたり。ここまで一緒に頑張ってくれるのかと、人の温かみを感じましたね。

あとは、親戚が近くに住んでいる方が多いので、その人たちが別の親戚の方を引き合わせてくれることも多いです。そこで新しい何かが生まれることもあります。繋がりをたどっていくと実は親戚同士だった、なんてことがあるのが、地方移住の特徴です。そういう意味では、地方では人のつながりの濃さの分、プラス面も広がりやすいのかなと思います」

なぎ沙さん「この地域は職人さんも多く、宿のオープンのお祝いでは、囲炉裏にかけて鍋などををつるす『自在鉤(じざいかぎ)』という立派な手作りの道具をプレゼントしてくださった方もいました。本当に嬉しくて、こういう出会いや喜びは、移住したからこそだなと感じます」

 地方での繋がりの濃さは、一見窮屈なイメージを抱かれやすいです。しかし近藤さん一家のような、繋がりが温かさや安心感を生み出していることもあります。皆さんはこの話を聞き、どちらの生活が自分にあっていると感じたでしょうか。

【近藤裕佑】
赤ちゃんから楽しめる一棟貸しの宿「古民家ゆうなぎ」・自然体験活動団体「かが杜の学び舎ゆうなぎ」代表。自然体験活動指導者や教員としての経験を活かし、「原点教育(人間の古くからの生活や自然に触れ、これからの生き方を考える教育)」を主軸に自然・文化体験活動を提供する。YouTube:@kont_juniorhighschool_societyでは歴史の講義通しての知識面からの原点教育を試みる。

【近藤なぎ沙】
「古民家ゆうなぎ」「かが杜の学び舎ゆうなぎ」副代表。元学童保育支援員。保育士・幼稚園・小学校教諭免許を活かし「つながる子育て」をモットーに、自然・母親・親子がつながる居場所づくりや、「親子向け里山里海ステイ」の受け入れも構想中。木育インストラクター、おもちゃコンサルタントとしても、木のおもちゃの魅力発信や木育活動を行う。

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518

このニュースに関するつぶやき

  • 噂が老害発想。限界集落、正直そういう封建的対応なら集落が無くなっても仕方ない。自分たちの居心地だけ求めて形成するわけだから自滅も当たり前。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定