バズれば人生変わると思ってた　人気漫画家の幽霊の力で描いた漫画は万バズしたけれど…虚しさと無気力を経て気づいた「描く意味」【漫画】

SNSで多くの人から注目されることを「バズる」と言いますが、1度くらいは経験してみたいと思っている人は少なくないでしょう。創作漫画をX（旧Twitter）に投稿している東山わかるさんによる『絶対にバズりたい女の話』は、漫画家志望のOLが元人気漫画家の幽霊と出会う様子を描いた作品です。Xに同作がポストされると、2000以上の「いいね」や多くのコメントが寄せられています。

【漫画】「これ以上続ければキミは死ぬ」万バズの“代償”は…『絶対にバズりたい女の話』全編を読む

主人公は、非正規雇用を転々としつつ合間にコツコツと漫画を描いている「木村サエコ」。彼女が描く漫画はSNSに投稿しても鳴かず飛ばずで、心の中の「めちゃくちゃバズりたい」「承認されたい」という願望が日に日に大きくなっていました。

ある日の夜、“バズりさえすれば全部うまくいく”と意気込んで漫画を描いていると、急に横から「『バズ』ってそんなにスゴイの？」という声が。そこには頭に三角の布を巻きつけた男性の幽霊がおり、この幽霊を見たサエコは驚くと共に絶叫するのでした。それでも冷静でいた幽霊は自己紹介を始め、さらに生前は人気漫画家だったことも明かします。そして驚かせたお詫びとして、サエコの漫画をバズらせる約束を交わすのでした。

その後、幽霊はサエコの体に憑依し、サエコが寝てる間に漫画を描いてSNSに投稿。一部始終が夢だと思ったサエコは寝坊して会社に遅刻し、疲労感を覚えながらも迎えた昼休憩でSNSを眺めると、自身のアカウントに描いた覚えない漫画が。しかも、その漫画には1.3万もの「いいね」が寄せられていました。

帰宅後、幽霊が出迎えてくれて、先日の取り引きが夢でないことを自覚したサエコは、“万バズ”の喜びを噛みしめたのでした。しかしバズったものの日常に変化が訪れないことに不満を覚え、再び漫画の制作を幽霊に頼みます。その後、サエコは何度も幽霊の力を頼り続けた結果、ついに出版社から連載を依頼されることに。当然、幽霊に頼みますが、幽霊は「これ以上 続ければ キミは死ぬ」と忠告するのでした。

というのも死者が生きている人に取り憑けば、生気を吸い取ることになり、何度も憑依されたサエコの体は限界を迎えていました。さらに幽霊はサエコの元から立ち去ることを伝え、最後に「サエコさんの作品にはサエコさんの良さが溢れてる」と告げます。

その後、サエコは無気力になって会社を連日休むなか、とある編集者から届いたメールによって幽霊が「橘レイジ」という漫画家だったことが判明します。そしてレイジが生前に描いた漫画を読んだサエコは感銘を受け、涙を流しながら「バズらなくても意味がなくても漫画が描きたい」と心の底から思うのでした。

以降は自分の力だけで漫画を描き、賞の佳作に入選したサエコ。喜びに浸っていると、横に「受賞おめでとう」と称賛するレイジの姿が。レイジは、この世に心残りがあるらしくて成仏できないといいます。

久しぶりに再会したサエコは、レイジの心残りを一緒に探す代わりに「アタシに漫画の描き方を教えてください」と頼みます。そして、最後に「あの世に行くまではアタシのそばにいて」と気持ちを打ち明けると、レイジは「了解」「契約成立」と応えるのでした。

読者からは「素敵な話すぎて…続編を描いてほしい」「クライマックスが泣けた」などの声が。そこで作者である東山わかるさんに、同作を描いたきっかけについて話を聞きました。

“万バズ”よりも大切にしているものとは？

―同作を描いたきっかけを教えてください。

当時、漫画のオンラインスクールで半年ほど勉強していたのですが、その課題のひとつとして描いたのがきっかけです。はじめは冒頭8ページしかなかったんですが、後に卒業制作として最後まで描き上げました。

―同作の中で特にお気に入りの場面があれば、理由と一緒にぜひお聞かせください。

気に入っているシーンはいろいろあるんですが、ひとつだけと言われたら、主人公が「漫画が描きたい」と心から願うシーンです。自分の物語には、まだ続きがある。生きて夢を追うんだと主人公が決意するこのシーンは、わたし自身が描きながら思わず涙してしまうくらいに気持ちが乗りました。

―東山さんも作中の木村サエコのように“万バズ”を達成したいという気持ちは強いのでしょうか？

多くの読者に見てもらいたい、楽しんでもらいたいという気持ちは強いと思います。それが結果として「バズ」という形で現れたりもします。それは大変ありがたくもあるし、嬉しくもあります。

ですが、万バズの達成そのものを目標にしてしまうと漫画を描くことが苦しくなり、楽しめなくなるのではないかとも思っています。いつまでも初心を忘れず、自分の心に正直に、読者の気持ちに寄り添う作品づくりをしていきたいと思っています。

―読者にメッセージをお願いいたします。

わたしの漫画を読んでくださってありがとうございます。みなさまからいただくいいねやコメント、感想は本当に励みになっています。この作品の続きをはじめ、以前課題として描いた別の作品の続きも少しずつ描いていこうと思っています。もう少し時間がかかりますが、待っててもらえると嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします。

（海川 まこと／漫画収集家）

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