
ボンネットを叩いて、エンジンルームやタイヤ周辺の隙間などに入り込んでいる猫を出す「猫バンバン」は寒い時期に話題となることが多い。だが、実は季節問わず、意識することが大切だ。
【写真】こんなところに!…ボンネットの中で身を潜めていました
サビ猫アビーちゃんは2024年9月、飼い主さん(@aym1457881)が所有する車のボンネットから救出された。
夜通し鳴いていた子猫がいたのは“自家用車のボンネット”
2024年9月26日、飼い主さん宅の庭では一晩中、子猫の鳴き声が響いていた。朝になると鳴き声は聞こえなくなっていたが、夫妻はなんとなくまだ子猫がどこかにいるような気がして、お昼休みに捜索をスタート。
すると、かすかに鳴き声が聞こえたため、YouTubeに投稿されている「猫を呼ぶ動画」を流してみると、元気な「ニャー!」が返ってきた。
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「声を聞いた時は思わず、『生きてた……!』と涙が出てしまいました」
鳴き声の先は、なんとボンネットの中。夫妻は悪戦苦闘しながら、子猫を救い出した。
猫初心者の自分たちに育てられるのか…と悩んだ日々
保護後は、すぐに動物病院へ。様々な検査を受け、ノミ・ダニの駆除薬を処方してもらった。子猫は、生後1カ月半ほど。離乳は済んでいた。
「何かのトラブルで母猫とはぐれてしまったか、少し厳しめな母猫から早めの巣立ちを促されたのかもしれないと、獣医師は言っていました」
偶然にも当時、飼い主さん家族は下のお子さんが小学生になったことを機に「そろそろペットを迎えたいね」と話していたそう。ただ、準備を整えてから迎えたいと考えていたため、保護した子猫のお迎えは悩んだ。
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猫初心者の私たちに育てられるのだろうか。里親を探したほうがいいのでは…。そう心は揺れ動いたが、家族の中で子猫の存在は日に日に大きくなっていった。
そこで、家族は何度も話し合い、子猫のお迎えを決意する。名前は、アビーに決定。獣医師のアドバイスや猫の飼育本、インターネットの情報などを頼りに、手探り状態の育児(猫)が始まった。
初めての猫ライフで「猫が見せる感情の豊かさ」に驚いた
猫と初めて暮らしてみて、飼い主さんがまず驚いたのは感情の豊かさだった。
「嬉しい時は本当に嬉しそうな表情を見せ、悲しみや怒りも全身で伝えてくれる。思っていた以上に、人の言葉をしっかり理解していることにもビックリしました」
アビーちゃんはお子さんが泣いていると駆け寄って顔を舐め、きょうだい喧嘩の時には軽い猫パンチを繰り出して仲裁に入るそう。小さい体ながら、人間のことを理解し、寄りってくれているのだと思うと、飼い主さんは胸が温かくなる。
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また、バリエーション豊富な鳴き声にも飼い主さんは衝撃を受けた。
「プゥプゥ、ママー、カカカッ、ムニャムニャなど、色々あります(笑)」
お迎え当初、アビーちゃんはお子さんたちに従っていたが、半年ほど経った頃から態度が変化。「私のほうがお姉さんなんだから」とでも思っているかのように、お子さんの前で自己主張することが増えたそう。
ただ、飼い主さんのまでは今も甘えん坊のまま。毎晩、お風呂上がりに抱っこをせがみ、顔をペロペロするのが日課だ。その時は、普段はしないフミフミを二の腕にしてくれる。
「これは私だけにする、子猫の頃からの習慣です。アビーなりに『好き』って伝えてくれてるのかもしれません」
一方、旦那さんとアビーちゃんの間には少し距離があるそう。なぜか、アビーちゃんはお迎え当初から旦那さんには塩対応だったのだ。
「でも、最近は少し心を許したのか、お腹の上に乗るようになり、夫は喜んでいます」
自己主張が少なく、「静かな愛」を持つサビ猫に魅力されて
アビーちゃんのようなサビ猫は、全く同じ毛柄の子が1匹もいないと言われている。飼い主さんは、そんな唯一無二の毛色はもちろん、サビ猫の多くに共通する優しくて控えめな性格も愛おしく感じている。
例えば、アビーちゃんはおもちゃが隙間に入り込んで取れなくなっても、鳴かずにじっと待つ。遊びたい気持ちに気づいてもらえない時でも、「ニャー」とおねだりするのは稀だ。
「だから、遊んでよと鳴いた時は急いで駆けつけ、満足するまで相手をします。アビーは、家事中の私が足元に置かれたおもちゃに気づかない時も無言で待つので、気づいたら謝り、慌てて遊びます。そしたら、すごく喜んでくれるんです」
控えめだけれど、深い愛情と信頼をまっすぐ向けてくれるアビーちゃん。その姿を見るたび、サビ猫は「静かな愛」を持つ猫なのだと飼い主さんは感じ、愛しさがより募る。
なお、飼い主さん家族はアビーちゃんを迎えたことで、休日の過ごし方が変わったそうだ。以前は公園やキャンプに行くことが多かったが、今は家で過ごすことが増えたという。
「ただ、昨年はアビーが小さくて外出を控えていた部分もあったので、今後はアビーに負担をかけないようなお留守番のさせ方やレジャーの楽しみ方を考えていきたいです」
アビーちゃんの命を紡いでからというもの、飼い主さん夫妻は車に乗る前やエンジンをかける前には周囲を見渡し、音を立てることが習慣になった。
「我が家の場合は夜から子猫の気配がしていたので発見できましたが、前触れがなかったら猫が入り込んでいることに気づかず、車を発進させていたと思います」
自分たちの経験を通して、猫バンバンの大切さがより広まってほしい。そう願う飼い主さん家族の幸せな今を知ると、季節問わず、猫バンバンを意識していきたくなる。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)