白黒求める社会にあらがう=英ダガー賞の王谷晶さん
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2025年07月04日 15:01 時事通信社

「人間に大事なのは曖昧さで、白黒つけたがる社会に物語で抵抗する」―。日本人作家として初めて英国推理作家協会のダガー賞翻訳部門の栄冠に輝いた王谷晶さん(44)は、受賞作「ババヤガの夜」に込めた思いを語る。
若い頃は職を転々とし、警備員やコールセンターのオペレーター、工場勤務などを経験した。「2時間働いて単行本を1冊買えるかどうか…」。大事なお金と時間を使うのが読書だと、身に染みて感じる。
それだけに、創作者としての気構えは確かだ。「映画の絵コンテのように、頭の中に場面を作ってカメラのアングルを変えていく」「大きなうそを1個つくために、99個の小さなリアリティーを突き詰める」―。そうしたこだわりは受賞作にも貫かれている。
暴力が趣味の新道依子が、図らずも暴力団会長の娘を護衛することになるドタバタ劇だ。「問題が起こると、考える暇もなく白黒どちらにつくか求められる」社会に違和感があり、「自分や他人の曖昧な部分を確認することで、もう少しましな世の中に変わるはず」という思いを物語に込めた。
ダガー賞は、海外ミステリーが好きだった祖父の影響で幼少期から知っていた。「まさか自分が取るとは夢にも思わず」。何作家かとよく聞かれるが、「エンタメなのか純文学なのか。一貫したテーマを決めないのが自分らしいのかも」。今後も曖昧さを大事に、執筆に取り組む構えだ。
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