街頭演説する参院選の候補者にスマートフォンなどを向ける聴衆=13日、東京都千代田区 SNSの普及に伴い、選挙の在り方が大きく変わりつつある。演説の様子は動画や写真で瞬時に拡散。個性的なキャラクターを身近に感じ、不安や苦しさ、おかしさといった気持ちを重ね合わせる有権者も少なくない。20日投開票の参院選でも、アイドルのように政治家を応援し、他の人にもお勧めする「推し活」が熱を帯びている。
◇とがった言葉に
「一緒に写真を撮って、ネットに上げてください。コメントを頂ければうれしいです」。参院選公示日の3日夕、東京のJR秋葉原駅前。れいわ新選組の山本太郎代表がバンドの生演奏をバックに呼び掛けると、スマートフォンを手にした人々が長蛇の列をつくった。
その一人、都内に住む派遣社員の50代男性は山本氏について「彼はとがったことを言うけど、強い言葉を向けるのは強い相手に対してだけ。弱い人にはとがらない」と語る。
応援を始めたきっかけは、れいわ結党の2019年にユーチューブで見た1本の動画。ある自民党議員が「生活保護は生きるか死ぬかのレベルの人がもらうもの」と発言したのに対し、山本氏が「生活保護は困ったときに誰しもが受けられる大切な制度。胸を張って受けなきゃいけない」と切り返したのが新鮮に映った。
作詞家を目指して20代で上京し、柔軟な働き方を求めて派遣社員に。交通事故に遭い、4カ月入院した経験もある。「誰もがいつ弱い立場に置かれるか分からない。山本さんがとがっているのは、彼も同じことが分かっているから」だと思う。
動画はほぼ毎日、野球のナイターを見る感覚で視聴する。感想はX(旧ツイッター)に書き込む。「誰かがいいなと思ってくれれば、一歩になる。きょうの(秋葉原の)こともXで共有したい」と笑顔を見せた。
◇「魅力」に触れて
「候補者は有権者に鍛えられる。声を届けてもらいたい。選挙は熱伝導です」。5日夜、全国4カ所の遊説を終えた国民民主党の玉木雄一郎代表が、ユーチューブのライブ配信でこう呼び掛けた。玉木氏によれば、約6200人が視聴した。
この日の午後、千葉県市川市での玉木氏の街頭演説に足を運んだ「ファン」の夫婦に話を聴いた。
会社員の夫(42)は新型コロナウイルス禍の緊急事態宣言下の20年、在宅勤務中にふと目にした動画が契機。政治や政局の面白さを知り、「人間としての魅力」も感じた。夫に勧められた看護師の妻(44)は、街頭で玉木氏にじかに話を聞いてもらい、「推すようになった」と明かした。
手軽に見られるショート動画で引きつけられた人もいる。大手スーパー販売員の男性(23)の一推しは、国民民主の榛葉賀津也幹事長の「おやじギャグ」。仕事から帰ると毎日スマホを見るといい、「堅苦しくない発信の仕方が僕らの世代にも受けている」と語った。
日曜日の13日、7歳の子を持つ会社員の女性(42)はある女性候補の街頭演説に足を運んだ。SNSや動画に触れるのは1日2〜3時間。推しの決め手は、いじめ問題を訴えていることだ。
政治家の大声の演説は気おされるので苦手。この候補は笑顔が印象的なのも応援する理由という。大勢の聴衆の中でも目立つようにと、党のグッズを高く掲げた。「顔を直接見たら、まぶしすぎて言葉が出なかった」。