《1日で40回の劇場も》『鬼滅の刃』無限城編 驚異の上映回数に一部で悲鳴…映画業界にもたらすメリットとデメリット【識者が解説】

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2025年07月18日 11:10  web女性自身

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7月18日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座 再来』。大ヒットアニメ『鬼滅の刃』シリーズのクライマックスとなる三部作の第一章で、上映時間は155分という長尺ながらも、今回も超ロケットスタートが予想されている。



一部劇場では、同日深夜0時に“世界最速上映”を実施。チケットは平日深夜の発売だったにもかかわらず、わずか数分で完売する盛り上がりを見せていた。さらにファンを驚かせたのは、桁違いな上映スケジュールだ。



東京の大規模映画館のひとつであるTOHOシネマズ新宿では、公開初日の上映回数がなんと40回にも上った。TOHOシネマズ日比谷とTOHOシネマズ池袋は31回で、系列の異なる映画館でも20〜30回を超える上映が組まれているところがほとんどだった。



公開から1カ月あまりで興行収入56億円を突破した『国宝』や11日に公開されたばかりの『スーパーマン』を圧倒的に上回る上映数に、SNSでも《尋常じゃない》《気合い入りすぎて面白いことになってる》と話題に。



こうした大規模な上映スケジュールは、’20年10月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』でも見受けられた。当時は新型コロナウイルスの影響で大作映画の公開予定日が大幅に延期されたこともあり、ほとんどの大型映画館では“鬼滅一強”となっていた。



だが今回は情勢も異なり、「鬼滅」以外の作品も豊富にあるなかでの大規模な上映スケジュールに。いったいなぜか? 配給側の狙いや、上映回数が多いことのメリットやデメリット、そして観客としてどう向き合うべきなのか、映画ライターのヒナタカさんに解説をしてもらった(以下、カッコ内は全てヒナタカさん)。



「コロナ禍以降、日本だけでなく世界的に、映画作品が“人気シリーズや続編に観客がより集まる傾向”が強まっています。“みんなが観ているから”という理由で作品を選ぶのは健全なことですし、不安定で先が見えない世の中では、せめてエンターテインメントだけでも“間違いない”選択をしたい人が多いのではないでしょうか。だからこそ、ヒットしている映画はさらにヒットする、大ヒットが確定的な映画に上映回数が多く設定されるという流れも、より加速しているのだと思います。しかし、その流れにより大ヒット作とそうではない作品の“格差”をさらに広げてしまうというのも、やはり問題なのかもしれません」



実際に「鬼滅」シリーズのほかにも、『劇場版 呪術廻戦 0』(’21年12月公開)や『すずめの戸締まり』(’22年11月公開)、『劇場版 名探偵コナン 隻眼の残像』(’25年4月公開)といったアニメーション映画は、大規模な上映スケジュールで話題を集めてきた。こうした現象によるメリットについて、ヒナタカさんは言う。



「当然のことですが、作品の上映回数が多ければ多いほど、観たくても観られないという『機会損失』を減らせますし、それでこその記録的な興行収入を目指すというのが、配給側の狙いだと思います。事実、劇場版『鬼滅の刃』や『名探偵コナン』は40回前後の上映回数を用意してもなお、『着席率(座席の数に対するチケット購入枚数)』が他の映画をはるかに上回っています。今回も予約時点で満席に近い回が続出していますから、商業上では真っ当な采配であると納得できます。



また、“時刻表のようなスケジュール”が全面的に否定されているわけではなく、『商売としてはしかたがない』『「鬼滅」や「コナン」には大いに稼いでもらって映画館がうるおってほしい』というような、やや“諦め”や“当然”のニュアンスも含みつつの、肯定的な声もあります。『無限列車編』がコロナ禍での映画館の経営を支えたことも間違いないですし、映画ファンの多くは絶対的に『鬼滅』を敵視しているわけではなく、複雑な感情を持っているのだと思います」





■『コナン』や『鬼滅』の人気は映画業界の将来的な発展に



そのいっぽうで、上映回数が多いことによるデメリットも。ヒナタカさんは「今回の『鬼滅』の上映開始により、“他の映画がほぼ1日1回のみになるほど上映回数を圧迫している”、特に、“IMAX上映がほぼほぼ『鬼滅』独占となった”ことに、嘆きの声があがるのも当然でしょう」と指摘し、こう続ける。



「例えば、IMAX専用カメラで撮影された『F1(R)/エフワン』(6月27日公開)は『IMAXで観るべき』の声が多かったのですが、『鬼滅』の上映開始と共にほぼほぼIMAXの上映が終了しました。1週前に上映開始したばかりの『スーパーマン』もIMAXの上映がなくなったり、あったとしても1回のみになっています。もちろん、それでも『鬼滅』のIMAX上映は予約時点で完全な満席が続出しているため、やはり商業上では妥当な采配とは言えるのですが……。



また、『無限列車編』の時は、コロナ禍での公開であり、ビッグタイトル(特にハリウッド大作)がほとんど供給されていないタイミングだからこそ、時刻表のようなスケジュールも特殊な事例として受け入れられていた印象があります。しかし、その後にも『劇場版 呪術廻戦 0』『すずめの戸締まり』『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』などでも同様のスケジュールが組まれたことで、それらと同時期に公開されていた他の映画を支持する人が、“さすがにやりすぎじゃないか”と反感を覚えるようになってしまったのだと思います」



とはいえ、人気アニメの作品に観客が殺到することは、映画業界にとって将来的にプラスとなる可能性が高いという。



「’25年2月以前の映画館利用率(1年間に映画館で映画を観た割合)は全体の49%(出典:株式会社サンライズ社の独自調査)でした。そのなかで『年1〜2回』映画館を利用している人が最も多く、23.8%だったそうです。そうした“ライト層”は、’25年に映画館で鑑賞する作品を『コナン』と『鬼滅』で“消化”してしまうという見方もできそうですが、個人的には悲観することもないと思います。



なぜなら、『コナン』や『鬼滅』が多くの人を映画館に足を運ばせてくれたのは事実であり、その上映前に他の映画の予告編もたくさん観ていることは確定的で、これからはもっと多くの映画を劇場で観る映画ファンになる可能性もあるからです。



また、現代の子どもや若者にとって、タブレットやスマホで観るYouTubeやショート動画が普段観ている映像であり、劇場に足を運ぶことはおろか、映画そのものをほとんど観ていなかった可能性もあります。そんな現代で『コナン』や『鬼滅』は、大画面や優れた音響はもとより、『みんなで一緒に観る体験』がある映画館という場所の素晴らしさを伝えてくれたともいえるはずです。



やはり、『鬼滅』の上映スケジュールに複雑な感情を覚えたとしても、そこに文句を言っても何も始まりません。他の映画の魅力を誰かに伝えたり、自分もおすすめされた映画を観に行くなどしてこそ、映画業界はもっと盛り上がるでしょう」



“鬼滅ブーム”の再来を予感させる上映スケジュールは、映画業界の発展には欠かせない仕掛けのようだ。

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このニュースに関するつぶやき

  • 賞賛されるべきなのはそこまで上映回数を増やそうという気にさせた作品に仕上げたTVアニメ制作スタッフだと思う。
    • イイネ!11
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