限定公開( 17 )
松屋フーズホールディングス(以下、松屋フーズ)は7月30日、ラーメン激戦区の新宿・小滝橋通りに、新業態のラーメン専門店「松太郎」をオープンした。ベーシックな醤油ラーメンや塩ラーメンを、680円という手ごろな価格で提供している。
【画像】「松太郎」の店内、680円のラーメン、おにぎり、ギョーザ、冷麺、メニュー(計6枚)
同社は2017年8月に中華業態「松軒中華食堂」の1号店を都内に開業し、現在は首都圏を中心に9店舗を展開している。「ヘルシーかつ本格的な中華メニューを、手軽な価格で日常的に利用できる中華食堂」を掲げ、醤油ラーメンやギョーザなどをリーズナブルな価格で提供し、ちょい飲みにも対応する。「餃子の王将」と「日高屋」の中間くらいの価格帯だ。また、日高屋よりもメニュー数が多い。近所にあると便利な町中華をチェーン化したような業態だ。
今回オープンした松太郎は、松軒中華食堂から派生し、ラーメンに特化することで、より狭いスペースでも展開できるようにした新しい業態だ。
なぜ、松屋フーズはラーメンに注力するのか。本稿ではその理由を探っていきたい。
|
|
●松太郎の特徴は?
松太郎は、昔懐かしい屋台を思わせるシンプルなラーメンを提供する店だ。
主力の「醤油ラーメン」には、厳選した4種類の醤油をブレンドした特製ダレを使用し、あっさりとした味わいに仕上げている。「塩ラーメン」は、塩や昆布エキスにこだわり、隠し味として海鮮だしを加えた。麺は北海道産の小麦を使った中細ストレートで、富士山の麓にある自社工場で研究を重ね、小麦の香りとコシを引き出している。
松太郎では、松軒中華食堂にはない新たなメニューとして、鮭と青唐辛子みその2種類のおにぎりも提供している。都心では1杯1000円を超えるラーメンも珍しくないが、松太郎ではラーメンとおにぎりを合わせても800円台に収まる。しかも、おにぎりには軽やかな口当たりで冷めてもおいしい青森県産のコメ「まっしぐら」を、のりは有明海産を使用するこだわりようだ。
ラーメンのトッピングやギョーザ、キムチなどのサイドメニューも取りそろえている。ビールやハイボールなどのアルコールもあるが、全体的にメニューは簡素で、調理経験の浅いアルバイトでも厨房を回せるよう工夫されている。
|
|
松軒中華食堂が町中華としてさまざまな料理を提供するのに対し、松太郎はラーメンに絞った、よりシンプルな業態といえるだろう。
●実際の「松太郎」の様子は?
松太郎の1号店は、新宿小滝橋通りと新宿税務署通り・職安通りの交差点から歩いて1分ほどの場所にあり、JRの最寄り駅は大久保駅だ。
店の間口は狭いが奥行きがあり、壁沿いにカウンター席がずらりと並ぶ。席はパーティションで仕切られた“おひとり様”利用に特化した作りで、内外装は町家風の雰囲気だ。
筆者は醤油ラーメンと2種類のおにぎり、ギョーザ3個を注文した。醤油ラーメンは松軒中華食堂のものと見た目はよく似ている。しかし、実際に食べてみると、松太郎の方がスープのうまみが強くて味わいが深く、より専門店らしい印象を受けた。
|
|
松軒中華食堂の醤油ラーメンにはよりシンプルな良さがあり、どちらを取るかは、個人の好みの問題と思われた。冷麺も、松太郎の方が松軒中華食堂よりスープの味に深みがあり、味玉も半個から1個に増量されていた。
松屋フーズに松太郎と松軒中華食堂のラーメンが同一かどうかを問い合わせたところ、回答は得られなかった。ただ、筆者としては、かえしやスープの方向性は似ているものの、醤油の配合や食材に違いがあると感じられた。どちらも「あっさり感があるものの、飽きのこない味わい」が共通点でありながら、松太郎の方がややプレミアム感が強い印象を受けた。
●松屋フーズがラーメンに力を入れる理由とは
松屋フーズがラーメンに情熱を注ぐのには理由がある。
実は、同社の原点は中華飯店だ。1966年に創業者の瓦葺利夫氏(現会長)が練馬区で「松屋」を開業したが、店は軌道に乗らず、1969年に閉店している。
その一方で、吉野家の味に感銘を受けて牛丼の魅力に目覚め、独自に改良を重ねて1968年に牛めし「松屋」1号店をオープン。牛丼業態で成功を収め、近年はとんかつ「松のや」が順調に拡大。他にもカレーやすし、ステーキなど、多角化を進めた松屋フーズの動向は常に注目されてきた。
こうした複数の外食産業での経験を積み重ねた今なら、中華での“リベンジ”が果たせると判断したのだろう。
新宿・小滝橋通りは、「創始 麺屋武蔵」「龍の家」「ラーメン二郎」「蒙古タンメン中本」「クマちゃんラーメン」「一蘭」など、強豪がひしめくラーメンの聖地だ。ここで勝ち抜くことができれば、松太郎も全国区となれる可能性がある。
●ラーメンと牛丼の決定的な違い
昨今、牛丼各社がラーメン業態の強化に動いている。その背景には、コロナ禍からの経済回復期に起きた「ミートショック」(飼料高騰などにより食肉価格が高騰する現象)に加え、昨年からのコメ価格の急騰がある。主原料である牛肉とコメの仕入れ価格が高止まりし、経営環境は一段と厳しさを増している。
そこで白羽の矢が立ったのがラーメンである。小麦を使った麺や豚肉のチャーシュー、スープに使う豚骨や鶏ガラ、煮干しや醤油などの原材料は、コメや牛肉に比べれば比較的安定した価格で調達できる。また、牛丼が「500円の壁」を超えるのに苦労する一方で、ラーメンは「1000円の壁」とされ、価格設定に2倍の余裕がある。牛丼各社にとって、ラーメンは原価にしばられずに手間をかけられる業態であり、海外での人気も高いことから、市場規模においても牛丼を上回る。
ライバルの吉野家は、牛丼やセルフうどんの「はなまる」に続く第3の成長エンジンとしてラーメンを強化。既にラーメン界のカリスマ・前島司氏が率いる「せたが屋」を傘下に収めている。また、今夏は吉野家で初となる麺メニュー「牛玉スタミナまぜそば」も提供した。すき家を有するゼンショーグループも「伝丸」などのラーメンチェーンを持ち、中華食堂業態「天下一」も展開し始めた。「はま寿司」で提供されるラーメンの完成度も高く、回転ずしと組み合わせる形で市場拡大を狙っている。
一方の松屋フーズは、松屋で回鍋肉定食やハンバーグ担々麺、松のやで油淋鶏定食を提供している。どこか“中華づいている”印象で、創業時に中華でつまずいたリベンジをしようという意欲もうかがえる。
牛丼各社がラーメン業態に乗り出す中で、松屋フーズが松太郎と松軒中華食堂をどう使い分け、成長を描くのか。そして、創業時の“リベンジ”を果たせるのかに注目したい。
(長浜淳之介)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。