
取材・文:木川誠子 撮影:大嶋千尋 編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部
日本のフェムテックを象徴する生理カテゴリーには、生理管理アプリやオンラインピル処方、吸水ショーツなどのサービス・アイテムが存在しています。これらはどちらかというと生理を快適にするためのもの。
そして今、PMSや生理痛といった生理にまつわる不調の改善につながるのではないかと、生理を可視化するためのアイテム、経血検査キット『reanne kit(リアンネキット)』の開発が進んでいます。その開発を行う株式会社asaiの代表 浅井しなのさん自身も、生理痛に悩まされた女性のひとりです。
■日常生活が送れないほどの生理痛の経験が起業につながる
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――株式会社asaiを立ち上げるに至った経緯を教えてください。
もともと悩みを解決できる仕事をしたいという考えを持っていました。私は特に生理痛に悩まされていたこともあり、東京薬科大学の生命科学部在学中から創業までフェムテック領域のスタートアップ4社でインターンを経験しました。就職活動を始めた大学3年生の時にコロナ禍になってしまい、企業の採用活動が半年間ほどストップ。いろいろ考えることもあり、その期間は自然と自分自身と向き合うことが増えました。
改めて自分のモチベーションがどこに向いているのかを考えた時、「自分がひどく悩まされてきた生理の悩みを解決できる仕事に就きたい」と思い、就職はせず起業することにしました。
――生理痛に悩まされたとのことですが、具体的にはどのような感じでしたか?
私の場合、小学4年生で初潮を迎えてから徐々に生理痛が重くなっていき、中学生の頃は部活中に倒れることもありましたし、あまりの痛みに痙攣を起こすようにもなりました。家族の中でも私だけが重たくて、誰に相談すればいいのか、どう解決したらいいのかもわからない状況だったんです。大学生になる頃には毎月保健室に運ばれるようになるくらい、生理痛はどんどんひどくなっていきました。
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そんな中で、大学3年生の時、保健室の先生から「あまりにもひどいから一度病院に行った方がいい」と言われたことがきっかけで、子宮腺筋症によって生理痛がひどくなっていたことがわかりました。その2〜3年後には子宮内膜症も見つかって、「もっと早く病院に行きたかった」と思ったくらいです。
――それは病院に行くハードルがあったということですか?
実は、最初に行った病院で「生理痛ごときで来ないでください」と言われてしまったんです。お産も行っている大きな病院だったこともあって、「こっちも忙しいんです」と言われてしまい、すごくショックでした。トラウマにもなりかけたのですが、「トラウマになっても生理痛は改善しない!」と思って他の病院に行ってみたところ、きちんと検査をしてくれて子宮腺筋症が見つかりました。
――ご自身の経験は現在開発中の経血検査キット『reanne kit(リアンネキット)』のアイデアにつながっていると思いますが、どのような経緯で開発に至りましたか?
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生理にまつわる不調は、生理痛や過多月経などがありますが、自分の痛みがどの程度なのか、自分の経血量が多いのか少ないのかなど、他の人と比較することができないので、異常に気づきにくいものです。
自分の生理状態を知って、いつもと違うと思ったら婦人科を受診する行動がとれるのはいいことですが、その一方で自分の生理状態を知るためにも客観的な視点は必要だとも感じます。そのためには生理を可視化する必要があると考えたことが、開発を始めるきっかけになりました。
■経血に含まれている子宮内の組織成分を分析
――生理管理アプリで記録することも客観的に知る方法だと思います。経血に着目したのはなぜですか?
アプリは生理開始日や生理痛の有無などを記録することはできますが、その痛みは問題ないのか、その経血量は正常なのかを自己判断することは難しいと思います。客観的に判断できる方法はないかと考えた時に、経血量や色、塊が出てきた場合などから健康状態や婦人科系疾患の可能性を知ることはできないかなと考えたところから始まりました。
――一般的な健康診断でも血液検査があることを考えると、経血からわかることもありそうですね。
医療現場では、6〜7割は疾患の診断材料として血液が活用されています。経血には、血液に加えて子宮内の組織が含まれているので、婦人科系疾患をはじめ、生理にまつわる不調を可視化できるのではないかと考えました。
現在は、経血に含まれている成分の解析・分析を進めているところです。
――自分で検査ができるキットとしての展開を予定されていますが、具体的な検査方法を教えてください。
妊娠検査薬のような専用のスティックを経血に押し当てることで検査ができます。経血を染み込ませるとスティックにバーコードのような線が出てきますので、専用アプリである『reanne app(リアンネアプリ)』で読み取ることで結果を確認できます。いつも使っている生理用品が受け止めた経血を使用するので、検査自体は身体に負担はかかりませんし、経血をどこかに郵送する必要もありません。
将来的には、アプリ上で健康状態が確認でき、過去と今の情報を比較や経過観察ができるところを目指しています。
――そのためには、ビッグデータと言いますか、データの蓄積が重要になりそうだと想像します。
まさに経血のデータが鍵になりますし、科学的・医学的エビデンスも大事だと考えているので、現在は大学研究機関との共同研究で解析を進めています。
また、生理に対する考え方や婦人科を受診していない女性が多い現状のアップデートが必要だと思い、開発を進めると同時に企業や学校で生理の研修も行っています。EMS機器で生理痛がどんなものなのか、人工経血を使ってドロッと出てくる感じを男性、女性に体験いただいています。
女性にとっても、自分の生理痛をはじめとした生理の状態を他の人と比較することで可視化につながります。生理の研修を通して、自分と自分の生理と向き合うきっかけ、婦人科に行くきっかけを作りたいと思っています。
■自分の生理を知って、適切な対策や治療につなげていく
――研修を始めた当初から現在までで変化した企業の反応や届いた質問の内容などで、印象に残っていることはありますか?
普段から疑問に思っていたけど誰にも聞けなかったからと、「CMで見かけるようになった低用量ピルはどういうものですか?」と男性から質問をいただいたこともありますし、人工経血の体験をした男性からは、「これまで2〜3時間という長時間の会議の休憩は2〜3分だったけど、5〜10分としっかり確保するようになりました」というお話も伺いました。
研修を受けていただいても、聞いた内容を整理する時間も必要で、すぐ行動に移せないこともあると思います。その一方で、休憩時間の確保など、すぐに対応できるところから行動しているケースも増えてきていると感じています。
――日本では、2020年がフェムテック元年と言われ、株式会社asaiはその翌年の2021年に創業されています。そこから数年が経過して、どんな変化を実感していますか?
私たちの事業は生理という言葉を使わないと説明ができませんが、創業当初は取引先の男性担当者は「女性のあれ」とか、生理とは言わずにお話しされることもありました。でも今は、生理という言葉でお話しされているシーンが増えたと感じています。
また、創業当初はTikTokライブを頻繁に行っていたのですが、その時に男子高校生が「学びに来ました」「生理の理解を深めたいけど、どこに聞いたらいいかわからなくて」と、積極的に参加してくれていた印象があります。今の高校生や大学生は、モテる男性の条件に【生理の理解があるか】というのがあるみたいです。
――生理の知識は男性も持っていたほうがいいと思っているということですね。
学びやすい環境、話しやすい環境になるのはいいですよね。ただ、全員がオープンに話さなくてはいけないとなるのは避けたいです。私自身も自分の生理の状況を誰彼構わず話しているかというとそうでもないので、同じように思っている人もいると思います。話したくない場合は話さなくてもいいという前提はありながら、誰に相談していいか分からない、この痛みをどう解決したらいいか分からないと思った時に相談できる環境は作っていきたいです。
そのきっかけのひとつとして、生理が可視化できる経血検査キット『reanne kit(リアンネキット)』があります。自分の生理と向き合いながら、適切な医療に繋げるところまでを見据えて取り組んでいます。
――医療の視点から見ても、これまでなかった経血から検査ができるというのは治療の可能性を広げることにつながりますよね。
医師の先生方とお話をしていても、婦人科系疾患の診察の難しさを感じています。それは、その初期症状が「月経痛」などの主観的な症状だからです。『reanne kit(リアンネキット)』が生理の状態を可視化することで、この課題にアプローチできるのではと考えています。
私たちは適切な医療に繋げるところを重要視しているという点においても、『reanne kit(リアンネキット)』は医療機関を通して届けていくこと、医療現場で使用できるレベルを目指しています。そのためには科学的・医学的エビデンスも大事になりますので、引き続き大学や医師との協力体制を築きながら、課題解決に取り組んでいきます。
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