ノーベル賞の授賞式で、メダルと賞状を受け取る京都大学の本庶佑特別教授(中央左)=2018年12月、スウェーデン・ストックホルム 今年のノーベル生理学・医学賞受賞が決まった大阪大の坂口志文特任教授のほかにも、免疫機能に関連する研究で優れた業績を挙げた日本人研究者は多く、得意分野と見られてきた。過去には免疫で重要な役割を果たすさまざまな抗体を遺伝子が作り出す仕組みを解明した利根川進さん、がん免疫療法を開発した本庶佑さんが同賞を受賞。他にも、世界的に権威ある賞の受賞歴や論文の注目度などから「有力候補」と目されながら、海外のライバルたちが受賞したケースもあった。
いずれも阪大学長を務めた岸本忠三さんと平野俊夫さんは、体内で免疫応答や炎症を調節するたんぱく質「インターロイキン6(IL―6)」を1986年に解明。がんの増殖への関与が分かったほか、自己免疫疾患の一つ、関節リウマチの治療薬開発にもつながった。
IL―6は新型コロナウイルス感染拡大でも再び注目された。岸本さんらは、重症患者の血液中でIL―6濃度が上昇することにより、血液凝固を促すたんぱく質「PAI―1」が多く産出されることを発見。肺などの臓器で血栓ができて血管を傷つけ、重症化につながることを見いだした。
阪大の審良静男特任教授は、免疫システムのうち多くの生物に生まれながら備わっている「自然免疫」を研究。自然免疫の細胞表面にあるたんぱく質「TLR」が病原体の構成成分を感知して、病原体を記憶する「獲得免疫」に信号を送って活性化させる仕組みなどを次々と解明した。
審良さんの研究は、注目度の指標となる論文の引用数がトップクラスで、医学などの分野で世界的な権威のある賞も数々受賞した。ノーベル賞でも「最有力候補」と目されていたが、2011年のノーベル生理学・医学賞は、TLRに関する発見で米仏の研究者3人に授与された。
審良さんは発表当日、「尊敬すべき科学者であり、長年しのぎを削ってきたライバル。受賞を心よりお祝いする」とのコメントを出した。
坂口さんは受賞決定後の取材で、阪大をはじめとした日本の免疫研究の強みについて「最初に(研究を)やる人がいて、それを見て次の人が『あのレベルの仕事をしないと認められない』と頑張って、また次の人が、というスタイルで伝統がつくられてきたのではないか」と指摘。「免疫に関しては、その雰囲気が今も阪大の中にある」と話した。