「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」台湾文化コンテンツ産業の大型展覧会「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」(11月4日〜11月7日)が開催され、最終日の7日、日本の大河ドラマの制作陣を招き、歴史ドラマの制作に関するノウハウを聞くフォーラムが行われた。
登壇者として招かれたのは、大河ドラマ「青天を衝け」、連続テレビ小説(以下、朝ドラ)「あさが来た」ほか、最近では「ひとりでしにたい」も話題になった脚本家の大森美香氏、大河ドラマ「光る君へ」などの内田ゆきチーフプロデューサー、大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」「平清盛」などの倉崎憲チーフプロデューサーの3名。
ソフトパワーによる国際的なプレゼンス向上を目指す台湾にとって、ドラマを通して自国の歴史や実在の人物を語ってきた大河ドラマは一つのモデル。根強いファンを持つ大河ドラマや朝ドラがどのように制作されているのか、司会者や出席者から熱心な質問が繰り出された。
まず司会者から、ドラマとしての娯楽性を保ちながら、実在の人物をモデルにしたキャラクターをどう作り上げていくのかという質問がされた。
倉崎プロデューサーは「あんぱん」を例に挙げ、「モデルとしている人物と、架空の人物が入り混じった作品だった」と説明。「大河ドラマの場合は歴史上の人物をそのままキャラクターにするため、その人物の遺族や関係者に取材を重ねて作り上げていきますが、朝ドラの場合は、モデルにはするけれどもある種フィクション」としたうえで、「その方が人生を通じて何をしてきたのか、何を伝えたいのかという精神性の部分は、取材を通して大事にキャラを作り上げていく」という方針を語った。
大森氏は、「『あさが来た』では、実在の人物は広岡浅子さんなのですが、ドラマでは“白岡あさ”として、あくまでフィクションとして作り上げていきました。実際に広岡浅子さんがタフで前に進んでいく女性だったという事実を守りながら、楽しいお話にするのはどうすればいいのか考えました」と執筆過程を振り返った。一方、渋沢栄一さん本人を主人公にした大河ドラマ「青天を衝け」は、なるべく歴史に忠実に執筆したと回想。「年表づくりに始まり、渋沢栄一財団がたくさんの資料をインターネットでも公開しているので、それを参考にしながら忠実に肉付けしていきました」
歴代の大河ドラマのうち、「光る君へ」は2番目に古い時代を舞台にしている。「分からないことが多いだろうと思っていたのですが、実際には、当時の貴族たちによる文学作品や日記が多く残っていた」と内田プロデューサー。たくさんある参考資料の中から想像力を膨らませていったというが、当時の女性に関する資料は少なかったそうで、紫式部の恋愛軸などは脚本家の大石静氏と共に作っていったと振り返った。
さらに司会者からは、ターゲットとする視聴者と作品のテーマをどう繋げるかという質問が投げかけられた。
内田プロデューサーは、「朝ドラはほとんどの場合、若い女性が主人公。昔の日本が舞台の場合、“家庭にいた女の子が、職業を得て外へ飛び出していく”というストーリーが作りやすいが、現代を舞台にすると、今はインターネットで情報を得ることができるし、やりたいことをやろうと思えばできる。物語を進めるうえで助けになる“枷”が少なくなっているため、難しくなっている」という一方で、「家族の温かみや若者どうしの友情、自分を導いてくれる人への感謝は今も昔も変わらないので、視聴者もそういう部分を見ていきたいのではないか」と指摘。「ドラマチックには作りますが、人の心の中にある温かさみたいなものは、どのシリーズでもプロデューサーや脚本家が大事にしているところ」だという。
倉崎プロデューサーも、台湾、アメリカ、カナダでは、日本での放送直後に字幕をつけて配信する海外直後配信を行っていたことに触れ、「日本の家族を描いているが、普遍的なメッセージ性を持つことが大事」と指摘。題材の選定について、歴史を語ることと娯楽性というギャップを、どうつないでいくかについて問われた際も、「『あんぱん』を制作した時、普遍的なものを探すのが大事だと思っていた。企画の経緯も、やなせたかしさんが書いた『アンパンマンのマーチ』の『なんのために生まれて なにをして生きるのか』という歌詞にあるように、人生100年時代、これからの人生をどう生きていくのか、自分の人生に迷っている人がいるのは、日本に限らずどこの国でも同じだと感じたことがきっかけ」だと明かした。
「2010年以降くらいから、視聴者が何を求めているのかをつかむことがものすごく難しくなっている。例えば、日本では単純なラブストーリーではなかなか受け入れられない実感がある」というのは内田プロデューサー。ラブストーリーというと若い男女を主人公にしがちだが、同性カップルや、恋愛に興味がない人たちを主人公にした作品が制作され始めた流れを受け、「プロデューサーは、ますますアンテナの張り具合が試される」と気を引き締めていた。一方で、視聴者からは家族の話や仲間との連帯といった、ある種の分かりやすさも求められているといい、「なかなか難しい時代には入っている」という実感を吐露していた。
また、NHKの作品が海外でも観られていることについて、出席者から今後やってみたいことや作りたいドラマについて問われると、倉崎プロデューサーからは「日本には、海外に売り込めるプロデューサーが足りていない」という問題提起がなされた。
「一製作者として、当然、自分たちが作った作品を多くの国の方々に観ていただきたい。そのために内容をどうするかという議論もあるが、まず海外に展開していけるプロデューサーが、日本では圧倒的に足りていない。ロサンゼルスに半年間、留学していた時、いろんな国の製作者から『あなたが作った作品はどこで観られるの?」と聞かれるたびに歯がゆかった。『あんぱん』がアメリカでもよく観られていたのは、観られる環境があったからこそ。どうやって、いろんな国で、自分たちが日本で作ったドラマを観てもらえるようなスキームを作っていくのか。若い世代も含めて、海外に展開できるプロデューサー、売り込めるプロデューサーを早期に育成していかなければという危機感は10年前くらいから持っています」
また、質問者からの「ひとりでしにたい」を観ていたというコメントを受けて大森氏は、「台湾や香港や韓国などの映画やドラマを観ていて思うのは、国を越えても感じていることは同じだということ。『ひとりでしにたい』は終活について考える話で、私は非常に日本的な内容かなと思っていたのですが、共通している部分がある。もともと、いろんな国の人たちと一緒に作品を作っていきたいと思っていましたが、今日この場に来て、さらにその思いを強くしました」と語った。
内田プロデューサーからはさらに、日本の作品を海外で観てもらうことについて、「本当に全世界の人に観せたいという意識が、正直まだ追いついていないと思う。例えば、映像の権利といった話なども視野に入れて最初から制作を始めないといけないし、これからの映像作品は、日本だけ、台湾だけで勝負していく時代はとっくに終わっている。そういう状況を、やや厳しい目で見据えていかなければいけないと思っている」と述べた。
TCCFは、台湾文化部のもとに創設された独立行政法人TAICCA(タイカ)主催によって、映画、ドラマ、出版などの分野で台湾と世界の業界関係者のコラボレーションの機会創出を推進するイベント。出席者の中には台湾のプロデューサーや脚本家も多く、トーク終了後もゲスト3名を囲んで意見交換を求める姿が見られた。
(新田理恵)