人工透析患者に特有の腎がんが発症する仕組みを分子レベルで解明したと、国立がん研究センターなどの研究チームが21日発表した。人工透析が長期化した多くの患者の腎臓にできる袋状の「後天性嚢胞(のうほう)腎」を詳しく調べた結果、尿を作る「近位尿細管」の細胞が増殖して嚢胞となり、がんの起点になることが分かったという。
これまでは、嚢胞がどのように生じ、がんまで進むのかは明らかになっていなかった。
研究チームは、透析後に腎がんを発症した患者と非透析患者計101人の腎組織を分析。透析患者の嚢胞では、周囲の細胞から分泌される「肝細胞増殖因子(HGF)」が近位尿細管細胞を刺激し増殖を促していた。この結果、近位尿細管細胞は遺伝子異常を蓄積しながら増殖して嚢胞となり、がんへと進んでいた。
長期の透析では腎臓が慢性的に傷むため、近位尿細管細胞の異常増殖を招きやすいという。
また、透析患者に見られる腎がんでは、一般的な腎がんで現れる遺伝子異常がほとんど確認されなかった。透析特有の環境が、異なるタイプのがんを生み出している可能性があるという。
研究チームの間野博行・同センター理事長は「嚢胞腎がある患者でも、がん化する割合は数%だ。症例をさらに蓄積し、透析患者でどのような治療が可能か、臨床医の先生方と考えていきたい」と話している。