情報戦化するテーマパーク 利便性向上のはずが不満の声も、公式アプリが抱える「ジレンマ」

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2025年12月17日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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東京ディズニーリゾートのアプリをめぐるXの投稿が話題になった

 テーマパークなどのアミューズメント施設において、チケット購入からアトラクション予約まで、スマートフォンで入場前の手続きを完了させることが増えてきた。


【なぜ?】情報戦化するテーマパーク 利便性向上のはずが不満の声も、公式アプリが抱える「ジレンマ」とは


 来場者の利便性向上を狙った施策であるにもかかわらず、SNS上では不満の声も多々見られる。なぜ好意的に受け入れられないシーンを多く目にするのだろうか。


●当たり前になりつつある、エンタメ施設の「アプリ活用」 不満の声も


 2025年11月19日、東京ディズニーリゾートのアプリをめぐるXの投稿が6600いいね、1700リポスト、380万インプレッションされ、話題を呼んだ。内容としては、11月15日にアプリで不具合が発生したことに対する補償の有無を東京ディズニーリゾートに問い合わせたものだ。


 回答とされるスクリーンショットでは、システム不具合により一部機能が利用できなかったと謝罪する一方で、約款に基づき、アプリのシステム不具合によるパークチケットなどの代金の返金や代替サービスの提供を行わないという旨が記載されている。


 上記以外にも「ディズニー アプリ」などと検索すると、通常時から「園内でずっとスマホを見なければならない」「操作に戸惑った」といったネガティブな声は多々見られる。


 最近では、アプリ活用を前提にしているテーマパークも少なくない。7月に開業したジャングリア沖縄も、公式Webサイトの事前準備ガイドで、アプリを「当日のパーク体験に必須!」と紹介している。整理券の抽選応募や、アトラクション体験の同意手続は全てアプリで行うため、不可欠な存在となっている。


 振り返れば、今年開催された大阪・関西万博も、スマホ利用が前提となるイベントだった。一応当日来場でも楽しめる体裁は取っていたものの、人気パビリオンはスマホやPCなどでの事前予約が必要。しかも、その予約も開始直後に埋まってしまい、当日ふらっと訪れるような楽しみ方はなかなか難しい状況だった。


●顧客体験の向上につながっている?


 このようにエンタメ施設やイベントでは、いまや事前情報を制した者が、当日の体験を制するような状況になっている。確かに来園者にとって、行列に並ばなくていいのはメリットだ。当日の予定を組みやすくなるのも利点ではある。


 前もって予約さえできていれば、そのルートをたどるだけで、1日を楽しく終えられる。準備段階で多少のストレスがあったとしても、それを上回る興奮や感動を得られるのだ。テーマパーク側としても、「実際に体験してもらえば、きっと楽しんでもらえる」といった思惑は多少なりともあるだろう。


 また、運営サイドには、顧客体験を向上させようとする意図もあると考えられる。待機列に長時間並ぶことで、せっかくの休日が無駄になったと感じた経験を持つ人は多いだろう。そこに対する解決策として、デジタル化による効率性を盛り込むことは合理的な考えだ。


 加えて、コロナ禍もアプリ活用が加速した。感染防止策としてソーシャルディスタンスが当たり前となり、行列を作らないことが「新しい生活様式」となったためだ。感染拡大の収束とともに、かつての人混みは復活しつつあるが、やはりスマホ予約に安心感を覚える利用者も少なくないだろう。


●便利なはずのアプリ導入が「裏目」に出るワケ


 ここまで見てきたように、体験と衛生の両面から、あくまで顧客ファーストの施策として導入されたと考えられるが、現状ではデメリットもそれなりに大きい。運営側が「客のために」と、良かれと思って行っている施策にもかかわらず、裏目に出ているように感じられてしまうのだ。


 その原因として考えられるのが「娯楽体験が一貫していない」という点だ。体験の途中でリアルに引き戻されてしまうのは、世界観を売りにしているテーマパークにとって、本来であれば死活問題だろう。


 例えばチケット購入は、かつて入場ゲートで行うことが主流だった。多くの施設では、最寄り駅からゲートまでの通り道に、キャラクターをあしらったり、関連するデザインにしたりといった装飾を施している。


 そうした空間は、ただの通路でなく「気分を高めるためのムードづくりの場」として機能する。すると、チケット購入という単なる商取引にもかかわらず、1つの体験として成立する。しかし現在のスマホアプリなどのUI(ユーザーインターフェース)では、そうした雰囲気の醸成が、まだ不十分に感じるのだ。


 一度でも現実に引き戻されると、世界観の一貫性が損なわれてしまう。アミューズメント施設の醍醐味(だいごみ)は、非日常を味わえることにある。それが寸断されてしまえば、本来得られるはずだった娯楽体験も薄らいでしまう。


 そう考えると、チケット予約や整理券配布といったアプリ上での事務的な作業についても、ただキャラクターをあしらうだけでなく、世界観を取り込み、「アプリ上の予約操作からエンタメが始まっている」と感じさせるようなトータルコーディネートが重要になる。


 1日中スマホを使いつつ、帰宅まで充電を持たせるためには、別途モバイルバッテリーを用意する必要に迫られる場合もある。これもまた「ここは本当に夢の国なのか」と感じさせる要素だ。そうしたノイズを排除できるほどの、圧倒的な演出が求められるだろう。


 大切なのは、事前の情報戦で利用者を疲弊させないことだ。アトラクションやショーを楽しむ余力がなくなってしまえば、来た意味もなくなってしまう。また、現地で興味を持ったが乗れなかったアトラクションや時間的に見られなかったショーがあったとして、それが「次回また来たくなるモチベーション」につながればいいが、その手前に「予約の壁」が立ちはだかれば、再訪そのものを考え直すかもしれない。


●アプリが抱える「現実に引き戻される」以外のデメリット


 実社会で日常的に使われるツールであるスマホと、アミューズメント体験が密接に関わっている現状では、「現実に引き戻される」ことに加え、「風評の拡散」という運営企業側にとってのリスクも見逃せない。


 スマホを起点とした「情報戦」は、体験への評価が、そのままSNSの風評として流れ出す構造を生む。冒頭で紹介したような、ディズニーアプリの不具合を報告するポストは園内から投稿されたと思われるものも少なくない。常にスマホを手にしているからこそ、気になったことを即座に投稿できる。それがポジティブな内容であればいいが、不平や不満も気軽に拡散できてしまうのだ。


 そして、ひとたびネガティブな投稿が出ると、運営サイドではコントロールできない。SNS炎上の多くは、感情をベースにした投稿がきっかけになる。「理屈が通っているか否か」ではなく、「快か、不快か」の軸で判断されがちなため、負の感情によるポストはバズりやすい。また、そうして付いた風評は、なかなか払しょくできない。


 このように、アミューズメント施設が、その各種手続きを“スマホ頼み”にすることには、あらゆるハードルが存在する。当然ながら、これだけデジタル社会になってなお、「スマホを使わない紙ベースに戻せ」と言うのは時代錯誤だ。


 となれば、ほどよいバランスが重要になるわけだが、そこで大切なのは、利用者を失望させないこと。しっかりと「アプリを使う必然性」や、世界観を損なわない操作性が伝わらない限り、このような来園者とテーマパークのすれ違いは今後も続く。


 SNSで可視化されている不満は、その一例に過ぎない。そのまま放置してしまえば、体験価値そのものよりも、「準備が大変」といった評価を受け、足が遠のく場所になってしまう可能性もあるだろう。


●著者紹介:城戸譲


1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。



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