佐藤健一さん(仮名・44歳)「客観的に見て、僕のスペックは悪くないはずなんです。でも、出会う女性が次から次へと『あちら側』の人たちばかりで……。もはや僕自身の魂に何か欠陥があるんじゃないかとさえ思い始めています」
そう自虐気味に笑うのは、都内の大手メーカーで働く佐藤健一さん(仮名・44歳)。
◆婚活を始めたハイスぺ40代が出会ったのは…
高校時代にはフランスへの留学を経験し、国内屈指の国立大学から大学院まで進学した、絵に描いたようなインテリだ。大学院生時代、研究職を目指して研究にいそしむも、次第にそのテーマへの興味が薄れ、中退してしまう。そして一時期は燃え尽き症候群となり、フリーター生活を送ったこともあるという。
「少し遠回りしましたが、30歳を前にして学生時代の友人の縁で今の会社に拾われました。遅れを取り戻そうと、30代は死に物狂いで働きました。気づけば年収も1000万円を超え、役職にも就くことができました。でも、ふと周りを見渡せば同期はみんな家庭を持ち、自分だけが取り残されていたんです」
生真面目で温厚。仕事一筋で生きてきた佐藤さんには、女性を見る目を養う時間が圧倒的に不足していた。そんな彼が40代に突入し、本格的な婚活をスタートする。しかし、そこで待ち受けていたのは、特殊なスピリチュアルに傾倒する女性たちだった。
◆IKEAの巨大バッグを抱える「移動式神棚」女子
40歳のとき、佐藤さんは友人の紹介で一人の女性と出会う。30代前半の看護師、Aさんだ。最初の飲み会での印象はとてもよかったという。
「派手さはないけれど、清潔感があって、ニコニコしながらみんなの話を聞いていました。看護師さんという激務のせいか、どこか慈愛に満ちた雰囲気があって、この人なら穏やかな家庭が築けそうだと直感したんです」
トントン拍子に交際がスタートしたが、初デートから佐藤さんにはどうしても気になることがあった。Aさんはいつも、IKEAの巨大な青いビニールバッグをパンパンに膨らませて持ち歩いているのだ。
「仕事終わりだから着替えでも入っているのかな、と思っていました。でも、休日の美術館デートでも、銀座の少し良いレストランでも、彼女はIKEAのビニールバッグを持って現れるんです。さすがに3回目のデートで、『それ、中身は何が入ってるの?』と聞きました」
気になって尋ねると、Aさんはきょとんとした顔で「神棚だけど?」と返した。
驚く佐藤さんを尻目に、彼女はビニールバッグの中から木製の祭壇一式を取り出した。Aさんいわく、これは持ち歩き用の小型のものだという。実は彼女はあるスピリチュアル団体に心酔しており、一日のうち数時間をその神棚の前で過ごしているようだ。
「神棚は高いところに置かなければいけないため、飲食店に入ると、店員さんにお願いして、その店で一番高い棚や鴨居の上に神棚を置くんです。レストランに入ったとき、毎回IKEAのビニールバッグを高いところに置く理由が、そのとき分かりました」
付き合っている間にも、Aさんはどんどんスピリチュアルの世界にハマっていき、会話はいつもその話題に。そこで佐藤さんは歩み寄るつもりで、「その団体の集まりに、僕も一度行っていいかな?」と聞いてみると、即座に拒否された。
「あなたのような一般の人が私たちの聖域に足を踏み入れるなんて、失礼極まりない! 罰が当たるわよ!」
別れ話を切り出そうにも彼女の剣幕に押され、ズルズルと関係が続いていたある日、彼女から突然、「私、オーストラリアのアボリジニーに呼ばれたから、あっちの聖地へ行かないといけないの」と深刻な顔で打ち明けられた。
Aさんはそのままワーキングホリデー制度を利用し、文字通り風のように日本を去っていった。
「後日、気になって彼女のインスタをのぞいてみたんです。神聖な修行でもしているのかと思いきや、オーストラリアのブルーベリー農場で、インド人のオーナーに『給料が安すぎる』『低賃金でこき使われている』と、愚痴を投稿していました。今はビザの関係で年に一度帰国しているらしいですが、もう二度と会いたくないですね……」
◆1本5000円の「超振動水」をぶっかける女
Aさんとの一件で心身ともに疲弊した佐藤さんだったが、職場の同僚(男性)が「その子は例外中の例外。僕なら、もっと地に足のついた女性を紹介できるよ」と合コンを設定してくれた。そこで出会ったのが、Bさん(30代後半)。大手外資系金融機関に勤める、いわゆるバリキャリ女子だ。
論理的で知的。会話のテンポも良く、佐藤さんは「今度こそ、話の通じる相手だ」と確信した。しかし……。
「彼女とディナーに行ったとき、違和感がありました。Bさんは、お店が出してくれる水に一切手をつけず、カバンから自前のペットボトルを取り出して飲むんです。意識高い系の硬水かな? と思って聞いてみると、またあの『当たり前』のようなトーンで返ってきました」
「これ? 超振動水だけど?」
Bさんが持ち歩いているのは、1本5000円もするという謎の飲料水。彼女の説明によると、その水は、一度圧縮した後に除圧することで、一時的に超振動が起こっている状態なのだという。さらに、水は記憶物質であり、この反応によって素粒水という、あらゆる毒素を浄化する物質に変化しているのだとか。
「Bさんは真顔で『この水を飲めば細胞レベルで老廃物が除去されるし、食べ物にかければ農薬が消えるんだよ』と説明してくれました。そして、運ばれてきた僕のメインディッシュの肉料理にも、霧吹きでその水をシュッシュと吹きかけ始めたんです。消毒されている気分でした」
彼女の生活はすべて波動水を中心に回っていた。手を洗うのも、うがいをするのも、その水だった。
「さすがに耐えられなくなって、『悪いけど、その水の理論は僕には理解できないし、ついていけない』と正直に告げました。すると彼女は冷めた目で僕を見て『波動が合わないんだから、しょうがないよね』と一言だけ言いました。それで終わりです」
紹介してくれた同僚に事の顛末を話すと、「えっ、あの子、そんなキャラだったっけ!?」と、腰を抜かさんばかりに驚いていたという。
◆「誠実さ」が怪物を呼び寄せるのか?
なぜ、佐藤さんの周りにはこうも極端な女性たちが集まってしまうのか。取材の最後に、彼は自省を込めてこう分析した。
「多分、僕が聞き上手すぎるんだと思います。理系出身で、まずは相手の主張を最後まで聞いてから考えようとする癖があります。それが、自分の信じていることを全力で肯定してほしいスピリチュアル女子たちにとって、自分たちの歪んだ世界観を経済的にも精神的にも支えてくれる存在に見えてしまうのかもしれません」
条件だけ見れば優良物件のはずの彼だが、その隙のない経歴と誠実さが、スピリチュアル女子たちを引き寄せてしまうようだ。
「普通の感覚を持った女性と、普通に水道水を飲める生活を送りたい」
彼の切実すぎる願いが叶う日は、果たして来るのだろうか。
<取材・文/橋本岬>
【橋本 岬】
IT企業の広報兼フリーライター。元レースクイーン。よく書くテーマはキャリアや女性の働き方など。好きなお酒はレモンサワーです