
「自分の成果が、正当に評価されていない」――。そう感じて転職を考える若手社員が増えているようだ。パーソルキャリア(東京都港区)が運営する転職サービス「doda」の転職理由ランキング(2025年)で、「個人の成果で評価されない」が前回18位から3位に急上昇した。
年代別で見ると、20代は40.7%と2位にランクインしたのに対し、他の世代ではトップ10圏外だったことから、若手特有の傾向であるとうかがえる。大手企業を中心に初任給の引き上げやベースアップが進む中、なぜ評価への不満が高まっているのか。doda編集長の桜井貴史氏に話を聞いた。
調査は、2024年7月〜2025年6月に転職した人を対象に実施した。転職理由の1位は、5年連続で「給与が低い・昇給が見込めない」(36.6%)、2位は「労働時間に不満」(26.3%)で、前回の4位から順位を上げた。
転職理由の中で、最も順位の変動が大きかったのが、「個人の成果で評価されない」だ。前回の10.9%から22.8%へと倍増し、全35項目で最大の上昇幅を記録。特に、20代だけが突出して高い結果となった背景について、桜井氏は「タイパ(タイムパフォーマンス)志向」というキーワードを挙げる。
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●タイパ世代の「時給換算」思考
今の20代は、学生時代から「スキマバイト」が当たり前の環境で育った世代といえる。桜井氏によると、1時間でどれだけ効率よく稼ぐかという「タイパ志向」が染みついており、月給という概念で働いてきた30〜40代とは、仕事に対する見方が異なるという。
「何か行動するときには情報を調べて、短い時間でどれだけ効率よくパフォーマンスを出せるかという尺度で物事を見ている。ジョブ型雇用の流れも踏まえて、仕事をドライかつ冷静に見ている印象がある」(桜井氏)
一方で、この世代は初任給の引き上げやベースアップの恩恵を比較的受けている。実際、20代の転職理由を見ると「給与が低い・昇給が見込めない」が前回の1位から3位に後退した。
給与の絶対額への不満が薄れた一方で、自分の成果が処遇にどう結びついているかが見えづらいことに不満を抱く、いわば「頑張り損」「働き損」への不満の感度が高まったといえる。
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実際に、dodaのキャリアアドバイザーのもとにも「評価が『S』でも『B』でも昇給額がほぼ同じで、やる気が出ない」「残業して成果を出しても、あまりがんばらない人とのボーナスの差が数万円だけだった」といった声が寄せられるという。
成果主義を掲げる企業に期待して入社したものの、実際は年功序列や横並びだったと感じる若手が、評価への不満を募らせている。
●「褒めても叱れない」という管理職のジレンマ
20代の不満が高まる背景には、企業側の構造的な問題もある。その一つが、「管理職によるフィードバックの機能不全」だ。
「ハラスメントを恐れて厳しいフィードバックができない管理職が増えている。以前なら『ここが足りない』と率直に伝えることで、評価の理由が本人にも伝わっていた。今は3つ褒めて、ようやく1つ指摘できるような状態だ」と、桜井氏は説明する。
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褒められているのに評価が上がらない、という矛盾を感じる若手が多く、「なぜ評価されないのか分からない」という困惑につながっている。さらに、人によっては褒められること自体をプレッシャーに感じるケースもあり、フィードバック自体を控える管理職も少なくない。
桜井氏は「『評価されない』という言葉ではあるが、実態としては『評価が分からない』『伝えられていない』という側面も大きい」と説明する。
加えて、SNSネイティブ世代特有の事情もある。20代は小中学生のころからSNSを通じて、互いに承認し合う環境で育っており、仕事の成果に対しても「承認」を求める傾向が強い。この世代にとって、評価の不透明さは特にストレスになりやすいようだ。
●報酬に明確な「差」をつける。KDDIの事例
こうした若手の不満に対し、評価制度の見直しに動く企業も出てきている。KDDIは2020年、「プロを創り、育てる」をコンセプトに全総合職を対象に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入した。年齢や勤続年数ではなく、成果・挑戦・能力に基づいて報酬を決める仕組みだ。
報酬の「濃淡」を明確にしている点が特徴で、2026年度からは上位約3割の高評価者を対象に特別昇給(平均1万2000円/月)と特別賞与(平均40万8000円/年)を支給するなど、評価による処遇の差を意図的に設けている。
2025年度の実績では、最高評価を獲得した場合、月額換算で約8万5000円の賃上げとなったケースもあるという。
取り組みの成果も表れており、同社が公表したデータによると、若手管理職(40歳未満の管理職)の比率は、制度導入前と比べて約3倍に増加した。新卒の初任給も31万3000円から、博士号取得者は最大37万3000円に設定するなど、専門性を処遇に直結させる設計だ。
前述のキャリアアドバイザーへの相談では「評価が『S』でも『B』でも昇給額が変わらない」という声が多かったが、KDDIのアプローチは、がんばった人には明確に報いるという形で、この「横並び」への不満に正面から応えようとするものだ。
上司との1on1も制度に組み込み、評価の根拠を伝える場を設けている。この点も「評価が分からない」という若手の困惑への対策といえる。
●「損したくない」世代
評価への不満が顕在化した背景には、給与情報の透明化も関係している。SNSや企業口コミサイトにより、同業種・同職種の給与水準を簡単に把握できるようになった。
若い世代は、同僚同士で給与を話し合うことにも抵抗が薄いという。桜井氏は「30〜40代にはあり得なかった話だが、今は『ウチのほうが損だ』という会話が普通にされている」と説明する。上昇志向というよりも「自分が損したくない」という意識が根底にあるようだ。
dodaの調査によると、入社直後の4月に転職サービスに登録する新社会人の数は、2011年比で31倍に増加するなど、転職へのハードルも低下している。評価への不満が「次の職場を探す」という行動に直結しやすい時代になっているようだ。
企業に求められるのは、給与額の引き上げだけではない。「なぜこの評価なのか」を伝える仕組みと、成果が処遇に反映される制度の整備だ。従業員から課題を洗い出したり、1on1研修を実施したり、対応策に動く企業は増えつつあるが、実態としてはリソースに余裕のある大企業が中心で、中小企業では現場任せのケースが多い。
問題は「評価の金額」ではなく、「評価の納得感」にある。AIの普及によって個人間の生産性の差が広がれば、制度の見直しはさらに急務になる。評価制度のアップデートは、人材の獲得と定着の両面で企業の競争力を左右するテーマになりそうだ。
(カワブチカズキ)
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なぜ「S評価でも給料は同じ」なのか 若手の転職理由で3位に急浮上した背景(写真:ITmedia ビジネスオンライン)17

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