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ソフトバンクは、米スタートアップのBrain Technologiesが開発したAIスマホ「Natural AI Phone」を4月24日に発売する。AIエージェントをOSのカーネルレベルに組み込み、ユーザーがアプリを直接操作することなく目的を達成できるのが特徴だ。ユーザーの嗜好(しこう)を学習する機能も備えており、パーソナライズした情報を提供する。
Brain Technologiesが開発したスマホを発売するのは世界初。ソフトバンクとは、国内で1年の独占契約を結んでいるという。メーカーとして実績のないスマホをここまで大々的に取り扱うのは異例で、実験的な取り組みといえそうだ。では、この端末は一般的なスマホとはどこが違うのか。また、ソフトバンクはなぜAIスマホを投入するのか。取材から見えてきた両社の狙いを解説していく。
●「アプリを開く」常識を覆す、OSカーネル直結のAIエージェント
Natural AI Phoneは、その名の通り、自然な操作性を目指して開発されたAIスマホだ。Brain TechnologiesのCEO、ジェリー・ユー氏は、今のスマホの根本が「(初代iPhoneが登場してから)19年間、まったく変わっていない」と語る。実際、エコシステムの中心はアプリで、「開いてボタンを押すと何かが起こる」(同)という大枠は変わっていない。むしろ、時間がたったことで、まずアプリを開くという作法がユーザーの中にも根付いてしまっている。
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一方で、ユーザー自身の行動が、1つのアプリに収まることはまれだ。ユー氏が「夕食に行くという単純なことの中にも文脈が存在する」というように、友人を誘うためにLINEでメッセージをやりとりしたり、食べログのようなアプリで飲食店を探したり、さらにはそこに行くためにUberやGoなどのアプリを開いてタクシーを手配したりと、さまざまなアプリの機能を理解したユーザー自身がアプリを呼び出している。
何らかの行動を起こす際に、「アプリ単位で物事を考えるわけではない」(同)――Natural AI Phoneは、こうしたコンセプトで開発されたスマホだ。具体的には、専用キーでエージェントAIを呼び出し、それに命令することで必要な操作を代わりに行ってくれる。例えば、「新しいXiaomiの毛玉取り機がほしい」というと、AIはAmazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングなどを横断的に調べて、該当するものをカートに入れてくれる。
また、「LINEで〇〇さんにメッセージを送りたい」というと、LINEを呼び出し、該当する人を選んだ上でメッセージが送信される。側面の「AI Button」をダブルクリックすると、画面を読み取り、ユーザー自身の嗜好を学習し、結果にそれを反映してくれる。こうした蓄積を踏まえることで、AIとのより自然なやりとりが可能になる。
現時点で自動的な操作に対応しているのは、「Gmail」「Googleマップ」「Googleカレンダー」「YouTube」「LINE」「食べログ」「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」の10アプリと少ないが、今後、数は順次拡大していく予定だという。LINEや食べログ、楽天市場など、日本市場ならではのアプリが利用できるのは、ソフトバンクからの要望に応えたためだ。
ソフトバンクのコンシューマ事業統括 プロダクト本部 本部長の足立泰明氏によると、「日本には特有のサービスもあるし、ソフトバンクグループにもサービスがある。必要とされるサービスを優先するよう優先順位を変更してもらったり、どのようなサービスかをご説明して納得して対応していただいたりした」という。また、おサイフケータイなど、ハードウェアとして必要な要件もソフトバンクから提示し、「ここまでのスペックだったら出せるということで対応してもらった」(同)。
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●AIのスピード感を取り入れた開発体制、なぜスマホなのか
キャリア側が仕様を策定し、メーカーがそれに沿う形で機能を実装するというは他のスマホでも一般的な流れだが、Natural AI Phoneの開発では、考え方を変えた部分もあったという。足立氏は、「AIの発展のスピードは速く、われわれキャリアも考え方を変えないと追い付けない」としながら、次のように語る。
「われわれが検証しないと出せない、というスタンスを取り続けていると出せない。Android(スマホ)として成立するところはちゃんと見たが、AIはBrain Technologiesが提供している部分。新機能を入れることは知っておく必要があるが、ストップをかけるようなことはなるべくしないようにした」
とはいえ、Brain Technologiesは一般的なスマホメーカーではなく、AIの技術に特化した会社。ユーザーインタフェースやAIエージェントを組み込むことは得意だが、ハードウェアの開発経験は乏しい。Natural AI Phoneも、「Appleのような、世界的に有名な端末を製造しているパートナーがいる。そことタッグを組むことで、このスマホを開発している」(ユー氏)という。
もっとも、エージェント的なAIを組み込んだOSを開発したければ、スマホというハードウェアまで手掛ける必要はないようにも思える。既存のメーカーとタッグを組み、技術を採用してもらうビジネスモデルもありうる選択肢だ。あえてスマホまで開発したのは、「少なくとも初めて提供するNatural AI Phoneは、われわれが全てをコントロールしたらこうなるということを披露したかったから」(同)だという。OSレベルの深いカスタマイズを行い、理想を実現するには、自社でスマホを開発するのが最も近道だったことがうかがえる。
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スマホという形にこだわったのは、ディスプレイを備え、タッチパネルで操作できることが必要だったからという。海外では、音声操作を中心にしたピン型のAI端末も出ているが、鳴かず飛ばずのまま消えてしまっているものが多い。
人間は「目で見た方が、早く把握するのが簡単」(同)だ。ユー氏は、「しゃべることで深く、自然な言語でインプットすることはできるが、視覚であれば、パッと見ただけで判断できる」としながら、次のような例を挙げる。
「タクシーを予約する場合の、UberやGOの利用を考えると、音声は役立つこともあるがそうでないこともある。もしUberから『〇〇通りにいるので、そこでお待ちください』と言われたとしても、それを視覚化することができず、ドライバーがどこにいるのかも判断できない。しかし、地図を一目見れば、自分が正確にどこにいればよいのかが分かり、確信を持つことができる。だから、視覚とタッチの自然の組み合わせで、何がいいのかを考えた」
●スマホのトレンドをいち早く取り入れるソフトバンク、GoogleやAppleにどう対抗する?
では、ソフトバンクがNatural AI Phoneを独占販売する狙いはどこにあるのか。同モデルのターゲットは、「基本的に、イノベーター層かアーリーアダプター層だと思っている」(足立氏)という。先進的な機能や端末にいち早く飛びつくユーザーが、想定しているユーザー像だ。足立氏は、「AIエージェントにどのような使い方があるのか、われわれもユーザーも学び、それをフィードバックしていただきたい」とも述べており、実験的な位置付けであることがうかがえる。
販売台数の見込みも、「売れ筋のものと比べると少ない」としており、「チャレンジングな商品であることは社内や営業幹部にも説明している」(同)という。一方で、狙いはサブ機ではなく、メインのスマホとして使う1台になることだ。足立氏は、「まず使っていただかないと、(AIエージェントの)よさが分からない部分がある。新しい製品がお好きな方に買っていただき、メイン機として使えるかどうかをぜひ試してもらいたい」と話す。新規やMNPの実質価格を2年間月額1円にしているのも、こうした意気込みの表れといえる。
実際、エージェント的なAIを搭載するのがスマホのトレンドになりつつあるのは事実だ。中国では、ZTEがTikTokでおなじみのByteDanceと提携し、AIエージェントを搭載した「nubia M153」を発売。3月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC26 Barcelonaにも出展し、話題を集めた。また、米スタートアップのAGIは、AIがアプリの操作を代行するアプリを出展。同社はQualcommと提携し、デバイス上での処理を向上させていくほか、メーカーにも採用を求めているという。
また、Brain Technologies自身も、2024年のMWCで独ドイツテレコムとNatural AIのコンセプトを披露している。ソフトバンクも、いち早くこうした流れに乗ったというわけだ。AIが利用するサービスを決めるとなると、アプリのエコシステムが大きく転換する可能性もある。そのときに備え、グループ企業のLINEヤフーも交えて準備を進めているとの見方もできる。
もっとも、GoogleやAppleといったプラットフォーマーも同じ方向を目指している。Googleとサムスン電子は、「Galaxy S26」シリーズにアプリをバーチャルウィンドウで自動操作する機能をβ版として搭載。現在は英語と韓国語のみだが、一部アプリを、自然言語の命令だけで操作できるようにした。
MWCで取材したGoogleのAndroid Platform&Pixel Softwareのバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、シーン・チャウ氏は「次期Androidでは単なるOSから『Intelligent System』のようなものへの移行に焦点を当てている」と語っており、Androidの中でこうした機能が拡大していく可能性は高い。投入が大幅に遅れているが、Appleが進化させようとしているSiriも、アプリをまたがって動作するという意味ではエージェント的な機能といえる。
ユー氏は、「(Googleなどの)ハイパースケーラーは、多くの場合、エコシステムを構築して収益を上げているので、その維持管理が必要になる。イノベーションのジレンマで、既存のアプリのエコシステムに(エージェント的なAIを)載せることはできない」と見ているという。同社には「負の遺産」(同)がないというだけに、いち早く機能をアップデートし、対応サービスを拡大することで違いを打ち出していく必要がありそうだ。
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AIスマホ独占販売、SBの狙い(写真:ITmedia Mobile)27

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