ビクターはなぜ“今”強いのか 小野朗社長に聞くサカナクション、M!LK快進撃の背景

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2026年06月26日 12:10  オリコンニュース

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ビクターエンタテインメント代表取締役社長の小野朗氏
 昨年6月19日付でビクターエンタテインメントの代表取締役社長に就任した小野朗氏は、入社以来、音楽の現場とともに歩んできた。東北地方のエリアプロモーターを皮切りに、スピードスターレコーズの宣伝・制作部門でさまざまなアーティストを担当。2010年からは同レーベルのレーベル長として、その舵取りを担ってきた。「宣伝マンであるという気持ちをずっと持ち続けてきた」と入社からの32年間を振り返る小野氏が、来年創立100周年を迎える老舗メーカーで成し遂げたいこととは。サカナクション、M!LKと立て続けにヒットが生まれている背景も聞いた。

【写真】来年創立100周年を迎えるビクターを率いる小野朗社長

■「自分だったらどう宣伝するか」宣伝マンの視点を経営の強みに

――1994年に大学を卒業後、ビクターエンタテインメントに入社されましたが、入社までの経緯をお聞かせください。

【小野】4歳の頃から高3までピアノを習っていて、高校時代からはバンドも始めて、大学生になってからはバンドをやりつつPAのアルバイトをするなど音楽しかやってこなかったので、当たり前のように音楽に携わる仕事に就こうと考えるようになっていました。レコード会社はイメージとして一番音楽に関われるかなと思って志望したのですが、なんとか入り込めてよかったです(笑)。

――入社後は東北地方のエリアプロモーターとして東北6県を担当され、1996年からはスピードスターレコーズの宣伝・制作部門でプロモーションに携わり、その後2006年からはサザンオールスターズを担当。2010年にはスピードスターのレーベル長に就任されました。入社後32年を振り返っていかがですか?

【小野】基本的にほとんどスピードスターに関わっていて、ずっと宣伝をやっていたので、自分としては宣伝マンであるという意識を常に持ち続けてきました。ですから今でも、ライブに行っても、映画を観ても、つい自分だったらどう宣伝するかと考えてしまうんです。それがもう癖になっているというか、染み付いているようなところがあると思いますね。会社を代表するという新しい立場になって、アーティストたちに貢献できることはプラスオンされると思いますが、やはり宣伝マンであったことは僕の強みですし、これまで同様、アーティストの立場を理解しようとする目線をずっと持ち続けていたいと思っています。

――社長就任の話を受けたときの率直なお気持ちは?

【小野】当時は取締役でしたが、役員として会社の経営を考えなければいけない比率が増えてきたことを実感しているところでしたので、これからより一層、会社を経営面でどのように強化していくか、新たな取り組みにも挑んでいくべきだということを考えました。弊社のような規模の会社が業界内で存在感を示すためには、やはりチャレンジしていく意識がないとシュリンクするだけだと思っています。目標を高く持たなければ今以上にはいけませんから、全社員に「チャレンジ精神をしっかり持とう」と伝えています。

――一方、来年100周年を迎える老舗として、守るべきものや変えたくない企業風土についてはどのようにお考えですか?

【小野】ビクターエンタテインメントの一番の強みは「アーティストファーストで、クリエイティブファーストで、お客様ファーストであること」だと思っています。コアなバリューをしっかり持っていないと会社の良さは失われていくし、これからの時代、立ち行かなくなるのではないかと思いますので、そこは忘れないようにするべきだと社員たちにも話しています。

――昨年10月と今年4月に組織改編をされましたが、どのような点に注力されたのでしょう。

【小野】いくつもある部署がそれぞれどういう役割を担っているかを明確にし、それらがどのように連携して会社を構成しているかがイメージできるよう、また、その中で自分がどこを担っているのかということを全社員にわかってもらえるような組織作りと図式化を意識しました。組織が乱立していると、悪い言い方をすると、セクショナリズムといいますか、うちの部だけがよければいいとなりがちですし、これまで若干、そういうきらいもあったかなと思うので、どの部署も全社のために動いているのだということを、少し時間をかけてでも理解してもらえるようにしたいなと考えています。

■M!LK、サカナクションの快進撃に見る“チャンスをつかむ力”

――現在のアーティストのラインナップに関してはどのように感じていらっしゃいますか?

【小野】ジャンルも年齢も幅広いですし、たとえ自分で楽曲を作っていなくてもクリエイティブがしっかりしているアーティストや、長いスパンで評価を受ける時間経過に強いアーティストなど、ロスターはとてもバラエティに富んでいると思います。それは先ほど申し上げた弊社の強みが反映されてのことだと思っています。

――最近のトピックスとしては、M!LKの大ブレイクがあげられます。2014年に結成、2021年に御社からメジャーデビューし、昨年「イイじゃん」がSNSで火がついてNHK紅白歌合戦に初出場。今年に入ってからも勢いが加速し、「爆裂愛してる」「好きすぎて滅!」がオリコン週間ストリーミングランキングで3週連続1・2位を独占(5/4付〜5/18付)。『MUSIC AWARDS JAPAN』でも主要6部門にノミネートされるなど絶好調です(注:取材は授賞式前。授賞式では5冠受賞)。

【小野】まずは個々のメンバーが頑張ったこと、事務所のスターダストプロモーションさんが独自の確かなノウハウで育ててきたこと、そして、弊社のクリエイティブ・宣伝チームもそこに同じ熱量で並走できたことが大きかったと思います。SNSで非常にこまめにいろいろな企画を立ててファンを増やし、7年目でメジャーデビューするときに弊社を選んでいただいたわけですが、メンバーの向上心としっかりとした土台がなければヒットには結びつけられません。強固な土台があったうえで、クリエイティブチームが良い作品を生み、SNSでのキャッチーな広がりからメンバーの努力の積み重ねで、冠レギュラー番組を持つことができたり、紅白初出場に結び付けられた。着実に段階を経て、絶妙なタイミングでのブレイクだったと思います。大小の差はあれ、チャンスは絶対誰にでも来ます。そのチャンスをつかめるかどうか、タイミングや運を引き寄せられるかどうかは、やはり日々の努力次第だと思います。

――もうひとつ直近の大きな話題としては、サカナクションが14年前にリリースしたシングル「夜の踊り子」が海外発のミームを発端に日本でも爆発的に拡散され、オリコン週間ストリーミングランキングで3週連続1位(5/25付〜6/8付)を獲得したことが挙げられます。過去曲が新たに発見されるサブスク時代ならではの可能性についてはどうとらえられていますか?

【小野】今の時代、過去曲が発見されるチャンスは数多くありますが、オリコンの週間ランキングで1位を獲るところまでいけるというのは、やはり発売当時にメンバーはじめ、スタッフも含めてかなり綿密に良い楽曲とその背景を作り上げたからだと思います。単にバズるだけではなく、強度のある質の高い音楽がしっかりと表に出てくるというのは非常にいいことだと思いますし、カタログ資産が豊富にある弊社としては、今後それらをどのように活用していくかを考えていく必要があるとも思っています。

――サカナクションは旧譜のみならず、昨年には約3年ぶりの新曲「怪獣」がヒットし、紅白に12年ぶりとなる出場を果たしました。『MUSIC AWARDS JAPAN』でも主要6部門をはじめ、多数ノミネートされています(注:授賞式ではサカナクション単独で4冠、スタッフ4冠で最多8冠獲得)。

【小野】本当に、昨年、新曲「怪獣」が各種音楽チャートを席巻する大ヒットとなったあとに、過去曲「夜の踊り子」が掘り起こされたということで、“サカナクション恐るべし!”ですよね。素晴らしいバンドだなと再認識しました。業界関係者からも「すごく勇気づけられた」という声をいただいたのですが、彼らのように真摯に、長く音楽に向き合っているアーティストがストリーミング市場でこれだけの存在感を示せたというのは、我々だけでなく、業界に携わる多くの人たちに勇気を与えるような意味のあることだったのではないかと思います。

――小野社長はサザンオールスターズを担当されてきましたが、長く活躍できるアーティストに必要な要素は何だと思われますか?

【小野】そのときそのときで真摯に取り組み、固有のストロングポイントをしっかり持ちつつ、時代にアジャストしながらも、変わらない部分と変わる部分を使い分けられるアーティストが強いのではないかと思います。長く売れているアーティストと話していると、今の時代をすごく冷静に見ていて、その中で自分ができることはさらに進化させ、できないことやこれは自分がやってもカッコ悪いと思うことはやらない、そういう判断ができる人が多い気がします。

■グローバル展開、契約形態、AI…変化する時代にレコード会社が示す価値

――昨今、J-POPのグローバル化推進の動きが活発化しています。御社のグローバル展開についてはいかがお考えですか?

【小野】海外のフェスやイベントに呼ばれたり、ワンマンライブのリクエストをいただいたりすることはけっこう増えていますが、それだけでは広がりがないということが僕らもわかってきました。今後はただ出演させてもらうだけでなく、具体的に何かを仕掛けていく必要がある時期に来ていると考えています。

 手始めにインドネシアのフェスに協賛するのですが、できれば2年ないし3年でビクターならではの独自の海外展開のノウハウを築いていくことを目標にしたいと思っています。そのためにはインフラを整えることも必要です。せっかく存在を知ってもらえて検索されても言語がわからなければ離れてしまうこともありますので、YouTubeの多言語化やWikipediaの外国語対策などインフラ整備も海外展開と共に注力する方針です。

――現在の音楽業界を取り巻く環境としては個人でも制作・配信が可能なことが挙げられますが、メジャーに所属する意味はどう提示していきたいですか?

【小野】配信は便利ですが、配信しただけではリーチしないものはしませんので、そこにはやはり戦略が必要だと思います。その点で、やはりノウハウを持っているメジャーとして手伝えることはたくさんあるということを提示していきたいです。ただ、これからの時代はアーティストとレコード会社の契約形態は変わっていく必要があるとも考えています。従来型の専属契約はレコード会社にとってはメリットがある一方で、アーティストにとっては自由度が低いため、自分だけでやったほうがいいと思う人が現れるのは当たり前です。僕らはお手伝いできることがこれだけあるということを提示して、お互いが協力し合うことによって生まれる価値をどうしたら最大化できるか、そしてどうシェアするか。そういう考え方に基づいた契約に今後は変えていかなければいけないし、そのためには僕らも柔軟な提案ができるよう考え方を変えていかなければいけないと思っています。

――AIやテクノロジーの進化によって、音楽制作環境も変化していくかと思いますが、今後、人間のクリエイティビティの価値はどう変わっていくと思われますか?

【小野】AIは非常にホットな話題ですが、時代をしっかり見ているアーティストと話すと、これからはAIをどうやって楽しく面白く使っていくかという視点を必ず持っています。デジタルが出てきたときに、人間の演奏は不要になるのかといった議論がありましたが、今、そんなこと考える人はいませんよね。それと同じで、AIに人間の仕事が取って代わられるということではなく、どういうふうにAIを自分のクリエイティブに取り入れるか。そう考えたほうが楽しいと思いますし、実際そうなっていくと思いますね。

■100周年目前の老舗が描く次の一手 北九州から始まる地域レーベル構想

――5月には、来年の創立100周年に向けた新グループ理念「Good Music, Good Culture−エンタテインメントで時代を切り拓き、文化と社会に貢献する−」のもと、国内初の“地域特化型レーベル”プロジェクトを始動され、第1弾として北九州市とのタッグで「STEELING SOUND」レーベルを立ち上げられました。その狙いをお聞かせください。

【小野】エンタメの力を使って、特定の地域の課題を解決するお手伝いができたらと考えたことがきっかけでした。第1弾となる北九州市は、プロジェクトのスタッフの出身地であり、シーナ&ロケッツのシーナや先輩スタッフにも出身者が多かったことから、飛び込みで話をさせていただいたところ、市としても音楽で街おこしができないかを考えていたということで、共創することとなりました。そこで北九州市の若者たちの話を聞いたところ、地元にいたいけれど、音楽を本気でやっていくには本当に東京に出ていく必要はあるのかといった問題意識を持っている人が多くいることに気づき、そんな彼らが地元にいたまま音楽活動ができる体制を作れたらと考えました。北九州にいながら音楽活動を続けるミュージシャンやクリエイターを支援し、北九州を、この土地ならではの音楽を発信する街にできたらと思っています。

――今後、プロジェクトは全国に広げていく予定ですか。

【小野】ある地域から「地元に残っている優れた伝統芸能をどうにか活性化できないか」という課題があると聞き、僕らのほうでどのようなお手伝いができるかを、提案しているところです。地域それぞれの課題があり、考え方や傾向に違いがあると思いますので、地域ごとにお手伝いできることがあればやらせていただきたいと考えています。イギリスにはリバプールサウンド、マンチェスターサウンド、ブリストルサウンドなど異なる色を持った音楽の街がありますが、日本もいずれそんな感じになると楽しいなと思っています。

――音楽が持つ力は今、福祉、教育など多岐にわたる分野からも活用・推進されていますが、「文化と社会に貢献する」ことを企業理念に掲げている御社としてはやはり注力すべき取り組みのひとつなのですね。

【小野】レコード会社の仕事は、有望な才能を発掘し、その人と一緒にいいものを作り出し、皆さんにお届けするのが基本で一番大事なことです。ただこれからは、そうしてできあがった音楽や僕らが持っているノウハウは違う分野でも活用していくべきだと思い、例えば食や健康産業など他業種と一緒にできることはないかと考えているところです。「文化と社会に貢献する」ことはもちろんですが、他業種とのコラボでレコード会社の役割が拡張されれば、音楽業界全体もまた活性化するのではないかと思いますので、新たな可能性も探っていきたいと考えています。

――最後に、5月に策定した新グループ理念「Good Music, Good Culture−エンタテインメントで時代を切り拓き、文化と社会に貢献する−」に込めた思いをお聞かせください。

【小野】創立100周年に向けて策定した理念ですが、めちゃくちゃシンプルな言葉だけに強いワードだと思っています。この言葉を正面から言い切って、実現することが僕らのやるべきこと。新しい役割も含めて、このシンプルな言葉に基づいた結果がしっかり出せるよう、全社一丸となって取り組みたいと思っています。

取材・文/河上いつ子
撮影/上野留加

小野 朗(おの・あきら)氏
ビクターエンタテインメント 代表取締役社長
1994年ビクターエンタテインメント株式会社入社。スピードスターレコーズ長、タイシタレーベル長、制作本部長を歴任し2023年に取締役就任。2025年より現職

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  • デビュー当時の、新しい学校のリーダーズもビクターからCDをリリースしていましたね。
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