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あの人は仕事ができる。それは間違いない。でも、あの人の下では働きたくない――。
卓越した実績を引っ提げて管理職に昇進した人物のチームから、なぜか人が次々と辞めていく。多くの企業で繰り返されるこの光景は、上司個人の資質の問題として片付けられがちだが、現実にはもっと構造的な理由がある。
●退職者の半数は「本当の理由」を言わずに去る
エン・ジャパンが2024年に約5000人を対象に実施した調査によれば、退職者の半数以上が「会社に伝えなかった本当の退職理由がある」と回答し、その理由のトップは「人間関係が悪い」、伝えなかった理由の最多は「話しても理解してもらえないと思ったから」だ。
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そもそも、辞めると決めれば、もうその職場の問題は自分の問題ではなくなる。そのため部下は、上司との対話を諦めて去る場合が多い。当の上司は自分が原因だと知らないまま、同じ振る舞いを続ける。その結果、特定の部署の離職率だけが高いという「謎現象」が続く。
この代償はバカにならない。採用コストや育成コスト、周囲の士気低下まで含めれば、1人の早期離職が企業に与える損失は数百万円規模に達するからだ。
●部下が辞めていく上司、3つの典型パターン
実は、実務能力の高いプレーヤーが上司になった途端に陥る機能不全には、典型的な3つのパターンがある。
実務独占型
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部下の進捗に少しでも遅れが見えると「自分がやった方が早い」と業務を取り上げてしまう。短期的には効率的だが、部下は失敗から学ぶ機会を奪われ、指示待ち人材と化す。
成功体験押し付け型
自力で困難を乗り越えてきた上司ほど、自分の水準を「当たり前」と設定し、その水準に達しない部下にいら立つ。「俺と同じようにやるべきだ」という、再現性の低い精神論に終始する。
プレイング偏重型
プレイングマネジャーの場合、自らの数字や専門性の維持を優先し、育成や進捗管理といったマネジメント業務を事実上放棄する。マネジメントへの苦手意識からプレーヤー業務を優先してしまうケースもあれば、業務過多でマネジメント業務まで手が回らないケースも少なくない。
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いずれの機能不全も「マネジメント業務」の重要性やそのノウハウを理解せず、ろくに実践しないことで起きる。あいさつや承認、傾聴といった関係性構築につながる対人業務を「非生産的な雑務」と判断してしまう。逆に、特定の部下だけを一面的な要素で評価してしまい、不公平感をまん延させるケースもある。
管理職がマネジメント業務の優先度を下げることは部下の心理的安全性を損なうことになり、離職の可能性を徐々に高める。
マネジャー業務は「昇進」ではなく「別職種への転職」
優秀なプレーヤーが管理職になると「スキルの非連続性」という事実が見落とされがちだ。
経営学者ロバート・カッツが1955年に提唱した「カッツモデル」によれば、現場層に求められるのは業務遂行のためのテクニカルスキルだが、プレーヤーから管理職への移行期には、テクニカルスキルから対人関係を担うヒューマンスキルへと求められる重心がシフトし、さらに上の階層では大局を捉えるコンセプチュアルスキルが必要になる。
つまり、プレーヤーから管理職へ移行することは、昇進というより「これまで育ててきたプレーヤーとしての武器を封印し、扱ったことのない武器で戦う、別職種への転職」に近い。
部下が辞めていく現象は、上司個人の資質の問題とは別に、全く異なるスキルを何の訓練もなく突然求めるという、企業の人事制度が抱える構造的な課題に起因している。
●「管理職にならなければ年収が上がらない」 優秀な技術者の不幸
この構造は、特に技術職として評価されて管理職になった場合、企業にとっても本人にとっても不幸な結果を招きやすい。
高い専門性を有した技術者は、その技術力に誇りを持ち、高め続けたいと考える人が多い。しかし、管理職にならない限り年収が上がらないから、という理由でマネジャーになれば、本人にとっては、それまで専門業務にあてていた時間を調整業務や部下のケアなどで奪われることになる。
さらにマネジメントは未経験であるために、業務に手間取ることも増えるだろう。結果的にマネジメントはうまく機能せず、部下は辞めていく。やがて本人も、管理職業務に時間と労力を取られている働き方に見切りをつけ、本来の技術職に専念したいと自ら会社を去る。企業は優秀な技術者とマネジメント機能を同時に失うことになる。
●企業が打つべき2つの手
企業がまず検討すべきは、役割の分離だ。特に技術職などにおいては、評価や育成を担う「エンジニアリングマネジャー」と、技術判断に専念する「テックリード」を分ける。
さらに、マネジャーにならなくても同等の年収が得られる、「スペシャリスト」としての役職・ミッションも整えておくべきだ。そうすれば、優秀な技術者が管理職になったら辞めるという負の循環は少なくなるだろう。
また、マネジャーになった後、マネジャーとしての適性がなければ不名誉な降格ではなく、名誉ある移行としてプレーヤーに戻れる制度も検討すべきだ。
次に、登用時の「アンラーニング(学びほぐし)」を検討すべきだ。プレーヤーとマネジャーは「ほぼ別職種への転職」であるという現実を明示し、正解のない対人課題に向き合う必要性に加え、その基礎を学んでもらう。
優秀なプレーヤーは、そのポジションに適性があったのであり、それはマネジャーの適性とは全く別物だ。管理職に課題を抱えがちな組織は、まず自社の制度そのものが「機能不全の上司」を生み出していないかを検証すべきである。制度を見直すことこそが、優秀な社員たちを、そして管理職本人をも守る道でもある。
著者プロフィール:村上 ゆかり
コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。
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