事故で亡くなった大村武生さんの幼少期の写真を眺める父勝生さん=8月4日、東京都千代田区 高齢タクシー運転手によるひき逃げ事件で死亡した会社員大村武生さん=当時(49)=の父勝生さん(81)は、自宅のある広島県から20回以上、東京都豊島区の現場に足を運び、タクシーに乗って視界を確認したという。判決を前に取材に応じ、「自慢の息子だった。被告はプロの運転手なのに、なぜ逃げたのか」と憤りをあらわにした。
武生さんは勝生さんの一人息子で、大学時代は2人で旅行に行くなど仲の良い親子だった。大学卒業後は勝生さんが勤めていた排水処理関係の会社で15年ほど現場経験を積み、大手企業に入社。下水道管理や電気工事など30以上の資格を取得し、事故の約半年前からは事務所長として福井県に単身赴任していた。
広島県内の自宅には月に一度帰り、勝生さんや母、妻、2人の子どもと食事に出掛けた。2023年の大みそかも家族で食卓を囲んだが、翌日の能登半島地震を受けて急きょ帰任。「被害はなかった」と短く電話で話したのが勝生さんとの最後の会話となった。
24年1月13日朝に事故の知らせを受けた勝生さんは、武生さんの妻と共に新幹線で都内の警察署に駆け付けた。「武生らしい優しい顔だったが、警察官に止められ首から下は見られなかった。かわいそうでたまらなかった」
勝生さんは「誰しも事故を起こす可能性はあるが、救護措置をすれば助かることもある。タクシー運転手が客を優先して逃げるなんて、あってはならない」と訴えた。