
高齢者専門の精神科医である和田秀樹氏の著書『老いの品格 品よく、賢く、おもしろく』では、長年のキャリアで培った強みを活かし、固定観念に縛られずに自分らしく生きるヒントを提示しています。
今回は本書より、職業や収入に対する既成概念を見直し、技術や知識を極めた専門家が相応の対価を受け取る意義について一部抜粋して紹介します。
40年働いてきた「経験」は武器になる
歳をとることで若い人に勝てるのは、経験の多さです。そう言うと、「いや、自分は会社勤めしか経験してこなかったから」と思う人もいるかもしれませんが、会社勤めを40年近くもやっていれば、ほかの人があまり知らないことをいろいろ知ることができます。
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経理ひと筋というと地味な印象ですが、そういう人は意外な経費の使い方の事例など、私などがぜんぜん知らないことをいろいろ知っているでしょう。
「都バス運転手が年収1000万円」の何が悪い?
以前、東京の都バス運転手の平均年収が約740万円で、退職直前には1000万円近くになるケースもあり、民間にくらべて高すぎるとして批判の的になったことがありました。でも、定年まで40年ものあいだ、ほぼ事故も起こさず多くの人の命を預かってきた人が、年収1000万円をもらうことのどこが悪いのか、と私は思います。
この職業ならこれくらいの収入レベルという既成概念は、そろそろとり払われるべきだと思っています。
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アメリカの大都市では、いまチップは15〜25%程度ですので、レストランに4人1組の客がやってきて、日本円で一人1万円ずつ計4万円分の食事をした場合、そのテーブルの給仕を担当するホールスタッフはだいたい8000円のチップをまるごと手にできます。
ソムリエの場合、一つのテーブルで10万円のワインが1本空けば、そのたびに2万円近いチップが得られます。
必然的にソムリエの収入レベルは高く、日常的に高いワインも飲んでいるので、いっそうワインに精通し、ソムリエとしてよりレベルの高い仕事ができるようになります。
日本の場合は、固定給で働いているソムリエがほとんどなので、プライベートでそう頻繁にいいワインの味を覚える機会をもつのは難しいと思います。
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「最高の仕事」なら高い報酬を得てもいい
どんな職業であれ、高いお金を払われている人のほうがいい仕事をするというのは、当然のことでもあります。たとえば、ベビーシッターにしても、アメリカでは優秀なベビーシッターとなれば、日本円で数万円の時給を得ている人はザラだといいます。
日本でも、超富裕層といわれる人たちが、飛び抜けてスキルの高いベビーシッターや家事代行人を破格の時給で雇えば、安心して子供を預けて出かけられたり、完璧な掃除をしてもらえたりと、自分自身にとってもメリットが大きいはずです。
職種を問わず、その仕事を極める人は必ずいるものです。たとえば、日本有数のベッドメイキングの達人という人もいるでしょう。それに見合う対価をその人たちが得られるようになれば、その職種全体のレベルもおのずと上がります。
富裕層がさらに富めば、その富が自然と低所得者層に流れ落ち、経済全体が成長するという「トリクルダウン理論」については、懐疑的な見方が大きくなっていますが、富裕層が法外なお金を払って、いろいろな職種の人を雇うようになったときに、はじめて格差社会の意味が生まれます。
清掃の仕事をしている人が、最高の清掃になれば時給5万円をもらえるかもしれないという夢をもてれば、世の中は変わると思います。
でも、日本の場合はお金持ちがケチであるために、そのようなことは起こらず、あらゆる職業において夢がないのが現状です。お金持ちがお金を使うことで、多少は夢が生まれるといえる職業は、いまのところは料理人くらいでしょう。
「この職業はこういうもの」「この職業の人はこういう人」と決めつけず、職業も人生もいろいろだと考えられる思考の幅をもつことが大事だと思います。
著者:和田 秀樹(精神科医)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、35年近くにわたり高齢者医療の現場に携わっている。
(文:和田 秀樹)

