※画像は生成AIによるイメージですスマホを開くと、子犬が眠そうにあくびをする動画や、猫が箱にすっぽり収まった写真が流れてくる。つい見入ってしまい、「いつか飼えたらいいな」と思ったことがある人は多いのではないでしょうか。
ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」(2025年)によると、日本で飼われている犬は約682万頭、猫は約885万頭と推計されています。犬は、前の年からわずかに増えました。たくさんの家庭で、犬や猫が家族の一員として暮らしています。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、ペットショップの会社に入った動物好きの新人女性の話。面接ではトップの評価だった彼女は、入社初日に退職届を差し出しました。その理由とは?
記事の後半では、犬や猫の命をめぐる数字と、ペットショップに関わる法律のしくみを調べてみました。
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◆動物好きな、期待の新人
関東を中心にペットショップを展開する会社の営業部長を務める中村さん(仮名・42歳)。犬猫はもちろん、少しマニアックなペットも販売している人気のショップです。
中村部長が担当した採用試験の面接で、とても印象に残った高橋未唯さん(仮名・23歳)という学生がいました。彼女は、大学で畜産関係の学部に通う、動物のエキスパートです。
「高橋さんからは、熱意が伝わってきました。私も面接官を長年務めていますが、彼女ほど積極的に質問する学生を初めて見ました。たいていは、給与のことや福利厚生のことがほとんどなのですが、動物ファーストな質問が目立ちました」(中村さん、以下同)
上層部の高橋さんに対する評価はとても高く、面接をトップでクリアし、内定通知が送付されました。
◆入社前からショップを熱心に視察
ある時、中村部長は用事で訪れた都内の店舗で、高橋さんを目撃します。
「店長との打ち合わせが終わってから売り場へ出ると、高橋さんはまだ動物たちを興味深く観察していました。動物が本当に好きなんでしょうね。少し迷いましたが、久しぶりの再会だったので声を掛けました。高橋さんは一瞬不思議そうに私の顔を見ていましたが、すぐに面接官だったことに気づいたらしく、笑顔であいさつしてくれました」
実は、この再会した店舗が高橋さんの配属予定先でした。当然そのことはまだ開示されていませんでしたが。
「高橋さんは店内を注視しながら、入社後のイメージトレーニングをしていたそうです。ノートとペンを持ちながら、いろいろ観察しているようでした。はたから見ていると、明らかに一般客とは雰囲気が違ったので、一応店長に高橋さんの素性は伝えておきました」
◆「質問攻めにあっている」と店長から相談が
ある日、配属予定先の店長から中村部長宛に連絡が入ります。どうやら高橋さんのことについて相談があるとのことでした。
「報告というか相談といった内容で、どうやら高橋さんから質問攻めにあっていて、少し困っている様子でした。その質問というのが、動物たちの健康状態に関する内容で、少し元気のない子を見つけては、どのようなケアをしているのかなど、詳細に聞いてくるそうです」
その報告を受け、中村部長は本部内で情報を共有しました。ある上層部からは「店舗には向かない人材じゃないのか?」などの意見も出たそうですが、面接の際に見た彼女の熱意を信じ、予定通り4月からは店舗配属ということになりました。
◆入社初日に、まさかの退職届を提出
ところが、入社初日にまさかの出来事が起きます。
「店舗に出社するはずの高橋さんが、本部の私を訪ねてきました。彼女は深く頭を下げ、何も言わずに退職届を差し出しました。私はただ事ではないと感じ、彼女を連れて会議室に移動し話を聞くことにしました」
高橋さんはゆっくりと退職理由を語り始めます。ただその表情は面接の時に見せた快活な表情ではなかったといいます。
「店舗にいたゴールデンレトリバーがずっと売れ残り、ある日を境に姿を消したそうです。その際、嬉しくて近くのスタッフに『よかったですね!飼い主さんと出会えて』と声がけした時、『業者に回したよ』と言われたそうなんです。この頃は、スタッフも高橋さんが内定者だと知っていたので、そのような内輪の回答をしたのだと思います。それが原因かもしれません」
◆「業者に回した」……ペット販売の闇
ペットショップで売れ残った犬猫は、「引き取り屋」と呼ばれる業者にお金を払って引き渡されることがあるのです。引き取り屋は、劣悪な環境で犬猫を飼い、遺体を大量に遺棄して逮捕された事件も複数あります。
そもそも、ペットの生体販売にこのような「闇」があることは、動物好きな高橋さんなら、薄々知っていたのでは? でも、自分の就職先でも現実に行われていると知って、ショックを受けたのかもしれません。
◆辞めた気持ちがよくわかる
実は中村部長はもともと店舗出身です。動物好きでこの会社に就職したそうですが、経営陣からの評価が高く営業部長にまで上り詰めました。
「店舗を離れて久しいですが、僕は今でも動物は大好きで、自宅でも犬2匹と猫1匹を飼っています。今回の高橋さんの件、スタッフの前では言及しませんでしたが、とても共感しています。
私も新人の頃は『このワンちゃん、売れ残ったらどうするんだろう』と思ったものでした。営業部に転籍してからは『売上げ第一主義』だったので、いつの間にか私の中では『動物=商品』となっていました。だから、彼女の気持ちはとてもよく分かるんです」
配属初日に出された退職届は、その後会社に受理され、高橋さんの退職は確定したそうです。願わくば、動物のためになるような仕事に就いて、力を発揮してほしいものです。
<文/八木正規>
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◆■犬猫の殺処分は、20年前の約58分の1に
環境省によると、2024年度に全国の自治体が引き取った犬と猫は3万9409頭で、そのうち殺処分されたのは6830頭でした。2004年度には39万4799頭が殺処分されていたので、20年でおよそ58分の1まで減ったことになります。
ただし、この数字に入っているのは、保健所や動物愛護センターなどの自治体に引き取られた犬猫だけです。記事に出てきた「引き取り屋」のような民間の業者に渡った犬猫は、この数字には含まれていません。
◆■売れ残った犬猫は、お店に最後まで責任がある
環境省によると、2012年に動物愛護管理法が改正され、ペットショップなどの業者から犬猫の引き取りを頼まれても、自治体は断ることができるようになりました。あわせて、犬猫を売る業者には、売れなくなった犬猫が最後まで飼われるようにすることが義務づけられています。
つまり、売れ残った犬猫の行き先は、それぞれのお店に任されています。新しい飼い主を探したり、お店で飼い続けたりして、この責任に向き合っているお店もあります。引き取る側の業者にも、新しい飼い主を探すところもあれば、劣悪な環境で犬猫を飼って逮捕されたところもあり、ひとくくりにはできません。
「動物が好き」という同じ気持ちから始まっても、毎日たくさんの命を仕事として扱ううちに、見え方は少しずつ変わっていくのかもしれません。中村部長自身も、いつの間にか「動物=商品」になっていたと打ち明けています。高橋さんは、そんな現場の厳しさに、入社の前にふれてしまったのでしょう。
殺処分が減ったのは、たしかに明るい話です。ただ、その数字には、現場で働く人の迷いや決断までは表れません。夢見た仕事のスタートとなるはずだった日に、高橋さんは退職届を差し出しました。深く頭を下げたときの気持ちは、本人にしかわかりません。好きなことを仕事にしたとき、どこまでなら折り合いをつけられて、どこからは譲れないのか。高橋さんの選択は、そんな問いを私たちにも投げかけているのかもしれません。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営