勢いづく出社回帰 テレワークは消えゆく運命なのか?

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2024年07月05日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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出社回帰でテレワークは消える? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 コロナ禍を機に、テレワークは身近な働き方となりました。その一方で、職場が出社回帰の方針を出す動きも目にするようになりました。週3日は出社などハイブリッドにしているケースもあるものの、コロナ禍で緊急事態宣言が発出されていたころとはガラリと変わり、通勤ラッシュ時の公共交通機関はコロナ前と同じような混雑ぶりです。


【画像で見る】リモートワークの検索割合はコロナ禍を経て倍増


 「出社するのはイヤ」「満員電車はしんどい」――といった声がネット上などで見られる一方で、「無限に作業することになる」「サボりたいだけ」などテレワークに対する否定的な声もあります。


 日常の景色がコロナ前とほとんど見分けがつかなくなっている中、テレワークは消えていくのでしょうか。


●テレワーク=ノンアルコールビール? その心は


 日本生産性本部の「第14回 働く人の意識に関する調査」によると、2024年1月のテレワーク実施率は14.8%。4カ月連続で減少し、調査開始以来、最低となりました。最初の緊急事態宣言が発出された2020年5月の31.5%と比較すると半分以下の数値です。


 コロナ禍が発生し、誰がいつどこで感染するかも分からないパニック状態の中、テレワークへの切り替えには、社員の健康や命を守りつつ、事業を存続させる手段として大きな意義がありました。しかし、強引に切り替えたケースも含めて、多くの職場がテレワークを経験したことによってデメリットも見えるようになりました。


 その最たるものの一つは、社員が職場に集わなくなったことで、その場にいるからこそ得られる臨場感を共有しづらくなり、グルーヴ感(ノリや高揚感)が醸成しづらくなったことです。チームの目標達成を喜び合ったり、難易度の高いプロジェクトに取り組もうと一体感を高めたり、互いにアイデアを出し合って刺激し合ったりしたい時に、社員が同じ場所に集って空間を共有していないと物足りなく感じられがちです。


 リアルタイムに情報を共有するという機能だけを考えるなら、インターネットを介すことで対応は可能だと思います。しかし、映像を通じてスポーツや音楽を楽しむのと、会場に足を運んでその場の空気を体感するのとでは大きな違いがあります。味やのど越しがビールと遜色(そんしょく)ないとしても、ノンアルコールでは酔えないという違いに似ているかもしれません。


 コロナ禍を機にテレワークを経験した結果、改めて全員が同じ場所に集うことの価値を再認識した会社は、社員に出社回帰を求める指示を出したくなることでしょう。会社としては、厳しい競争を勝ち抜いていくために最善の手を打たなければなりません。


●テレワークはこのまま消えていくのか


 確かに、テレワークという働き方は下火になりつつありますが、このまま消えていくかというと、そうとも言えません。根拠となるポイントを5つ挙げたいと思います。


市民権を得たテレワーク


 まず1つ目は、誰もがテレワークのことを“あって当たり前”と思うようになり、働き方の一つとして市民権を得たことです。コロナ禍以前のテレワークは、言葉だけは耳にすることはあったものの、いざ自分自身の就業環境に置き換えてみるとどこか現実味のない働き方でした。


 しかし、実際に自らが体験したり、身近に経験者が増えたことにより、テレワークは手が届く可能性のある働き方へと変わりました。一度現実的な働き方の一つとして認識されると、テレワークを選択できない環境に対して不満を感じる人も増えていくことになります。


一定程度根付いた


 次に、新型コロナウイルスが2類から5類に移行しても一定の範囲でテレワークが根付いていることです。比率が下がってきているとはいえ、継続してテレワークを実施している人たちはいます。中には、NTTグループのようにテレワークを基本にして転勤を廃止する方針を示した会社もあり、職場環境をめぐる風景はコロナ前と一線を画した状態になりました。


採用の成否を左右


 3点目は、テレワークの可否が採用の成否を分ける条件になってきていることです。Indeed Hiring Labによると、2024年5月にIndeed上で行われたリモートワークに関する仕事の検索割合は、コロナ禍前の2019年5月と比較して2.2倍に増えています。


 さらに、日本生産性本部の調査ではテレワーク実施率が最も高かった2020年5月と比較しても1.7倍に増加しており、出社回帰の傾向とは裏腹に、求職者側のテレワークへの関心はむしろ高まっている様子がうかがえます。人口減少が続き、売手市場の傾向が強まる中、テレワークの可否は採用戦略を左右する重要指標となりつつあります。


タスク単位で浸透


 4点目は、タスク単位に分解して考えるとテレワークはさまざまな場面で既に浸透していることです。帝国データバンクが2023年に実施した調査では、対面とのハイブリッドを含めてオンラインで会議を行っている比率は社内会議で32.6%、社外との会議では65.0%に及びます。


 出社回帰が進んでいるとしても、会議の時など個々のタスク単位ではオンラインが使われているケースが珍しくありません。販売職や保育士といったテレワークが難しい職種でも、シフト調整や業務管理などクラウド上で対応可能なタスクはあります。今後、テクノロジーの発展とともに、テレワークタスクはもっと増えていくはずです。


テレワーク不可が生むロス


 最後5点目は、テレワークできない状態がこれまでになかったロスを生むようになったことです。テレワークが現実的に選択可能な働き方となり、テレワークできる環境なら有益に使えるはずの時間が、ロスと見なされるようになってきました。具体的には、勤務中の移動時間や通勤時間などです。


 社内会議であっても、開催場所の階が違ったり、別のビルまで移動しなければならない場合もあります。社外との打ち合わせであれば、公共交通機関などを使っての移動にかなりの時間を要することになります。しかし、ビデオ会議システムを使って事足りる場合、それらに費やされる時間はロスです。その時間を他業務に使ったり残業削減に充てれば、金銭的なメリットが生まれます。


 従来の認識だと、出社前後の通勤時間は勤務時間とは見なされず、給与支払い対象ではありませんでした。しかし、在宅勤務が出来れば通勤時間を生活や副業などの時間に充てて有効に使うことができます。テレワーク不可能な職務を除いて、テレワーク環境を整えない状態が不当な拘束時間を発生させる可能性も否定できないだけに、通勤などに費やす時間が機会損失となり、社員の権利侵害や賠償対象と見なされるケースも出てくるかもしれません。


●出社回帰 vs. テレワークの最適化……生き残るのは


 出社回帰が進んでいるといっても、既に働き手の意識の中や職場内のあらゆる場面においてテレワークは溶け込んでいます。また、テレワークだとリアルの場に集うのと同じようなグルーヴ感は得られないとしても、それがなければならないかどうかについては、職場の考え方によって判断が分かれるところです。中にはテレワーカーのみで事業運営している会社もあります。


 まだ携帯電話もなかった時代には、職場が不在の際に留守番電話に切り替えておいたりすると「機械に応答させるなんて無礼千万だ!」と顧客からおしかりを受けるようなこともありました。しかし、いまではメールやチャットなどで用件を済ませたり、ビデオ会議を用いて打ち合せすることなどへの抵抗感はかなり薄まっています。


 新しいツールの出始めや新しい就業環境へ移行しつつあるころは、これまでの常識にとどまり続けようとする心理的な慣性の法則が働き、変化に抵抗を感じやすくなりがちです。テレワークに関してもまだ、心理的な慣性の法則が働いている可能性があります。


 しかし、今後のさらなる技術発展やテレワーク環境への慣れが進んでいく中で、職場や働き手の認識がこなれていけば、心理的な慣性の法則からは徐々に解放されていくことでしょう。また、再びコロナ禍が想定されるような事態が起きれば、危機管理意識が高まってテレワークの意義が改めて見直されることだってあり得ます。


 そのような場面に遭遇してから動いていては、コロナ禍の教訓を生かしたことにはなりません。最も大切なことは、必要な時に最適な働き方へと自在に切り替えられるよう環境を整えることです。それをしないまま、ただ出社回帰するだけの会社とテレワークの最適化を進める会社の間には、日に日に大きな差が開いていくことになるでしょう。


【筆者:川上敬太郎/ワークスタイル研究家】


このニュースに関するつぶやき

  • てかできる仕事とそうでない仕事があるやん。どっちがええとか悪いの問題ちゃうやろ。テレワークでも外に行かんとあかんこともあるやろうし。
    • イイネ!88
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