人気ドラマはどこで撮影しているの? 知られざる「ロケーションビジネス」の世界

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2024年09月07日 09:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「人気ドラマの撮影場所」裏側の秘密

 2024年の人気ドラマといえば? このように聞かれて『不適切にもほどがある』(TBS)、『アンチヒーロー』(TBS)、『虎に翼』(NHK)などを思い浮かべる人が多いかもしれないが、そもそもドラマはどこで撮影されているのか。


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 個人的に気になっているのは、オフィスでのシーンである。知っているビルがでてくると「ココで主人公が演技をしていたのかあ」と思ってしまうし、知らないところだと「ココはどこかな?」とネットで検索することも。そんなことを考えているうちに、ふとこんなことが頭に浮かんできた。


 映画やドラマのロケ誘致をしている会社って、どんな仕事をしているのか――。制作側と施設側の間にはさまった立場になるので、「なんだか大変そう」といったイメージもあるが、気になったのでロケーションビジネスを手掛けているNTTグループのデイ・ナイト(東京都千代田区)に聞いてみた。


 ロケーションビジネスをひとことで言えば、映画、ドラマ、CMなどで使う場所を紹介して、撮影がスムーズに進行するようにサポートすること。お金はどのように回っているのかというと、ごくシンプルである。ビルのオフィスを使用するにあたって、制作側が使用料を支払う。それを施設側とロケーション事業を手掛けている会社とで“折半”するケースが多い。


 制作側がお金を払ってでも、業者に依頼するには理由がある。「台本に書かれているこのシーン、どこかいいところ知らない?」と聞けば、それに適した場所を紹介してくれる。また、施設を運営している会社や自治体との手続きも代行してくれるので、「作品づくりに専念できる」というメリットがある。


 一方、施設側からすれば、使用料が入るだけでなく、撮影された場所の認知が広がり、ファンが集まるというメリットがある。例えば、そのビルに飲食店が入っているとしよう。いわゆる“聖地巡り”の人が増えれば、飲食店の売り上げ増が見込めるというわけだ。


●事業を始めたきっかけは「テナントの退去」


 デイ・ナイトの特徴は、首都圏を中心にオフィスビルを40施設ほど管理しているほか、東京の立川市など自治体とも提携していること。


 これまでどんなドラマを誘致してきたかというと、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)、『東京タラレバ娘』(日本テレビ)、『SUITS/スーツ2』(フジテレビ)、『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日)などである。


 「ほ〜、人気ドラマばかりだなあ」といった声が聞こえてきそうだが、ここで紹介したのはほんの一部だけ。同社が2023年に携わったのは1100本ほど。もちろん、ドラマだけでなく、映画、CM、ミュージックビデオ、写真、YouTubeなど、1日3本ペースで撮影に関わっているのだ。


 それにしても、どういったきっかけでこのビジネスを始めたのか。デイ・ナイトの事業を見ると、ビル管理、イベントホールの運営、飲食店のコンサルティングといった言葉が並んでいる。ロケーション事業はその中のひとつになるわけだが、きっかけは同社が管理する「グランパークタワー」(JR田町駅から徒歩5分ほど)に入っていたテナントが退去したからである。


 なにも使わなければもったいないので、ロケーションを誘致するのはどうか。使用料が入れば、少しでも収益が上がるのではないかと考えたのだ。とはいえ、経験もなければ、知識もない。当時、親会社のNTT都市開発がロケ誘致を手掛けていたので、基本的なことを教えてもらうことに。


 で、結果はどうだったのか。1年目に10本ほどの誘致に成功する。2年目は前年の10倍、3年目は同3.5倍ほどに成長したのだ。景気のいい話を聞くと、同業者はこのようなことを考えるのではないか。「え、そんなにもうかるの? ウチも始めてみようかな」と。しかし、それほど甘い世界ではないようだ。


●事業成長のカギは「2つ」


 デイ・ナイトでロケーション事業を担当する久須美武志さんに聞いたところ、事業成長のカギは「2つ」あるという。1つめは「いい施設を持っているかどうか」である。先ほど紹介したグランパークタワーでいえば、ビルの開口部が広く、クルマ寄せのスペースがある。エントランスは広いし、地下には駐車場もある。屋上にはヘリポートがあって、そこから東京タワーが目に飛び込んでくる。しかもタワーを支える4本足がきれいに見えるのだ。


 こうした条件がそろっているビルは少ないので、「ウチのビルでも映画を撮影してほしい。来てくれないかな?」と訴えても、なかなか誘致が難しい現状があるようだ。


 いいビルを管理していることが「ハード面」だとすると、もう1つの理由は「ソフト面」である。映画やドラマの制作者たちは、いわゆる“業界の人”である。時間に追われているとビルの中を走ることがあるし、遠くの人に指示を出すときに大きな声を出すことも。服装はスラックスにワイシャツではなく、短パンにTシャツである。


 非日常を目にすることによって、嫌悪感を覚えるビジネスパーソンもいる。クレームがでてきてもおかしくない状況の中で、デイ・ナイトはどのような対応をとっているのか。


 ビル側にはビル側のルールがあること、制作側には制作側の働き方があること。このことを双方に説明して、できるだけ摩擦が起きないように取り組んでいるそうだ。それでも想定外のことが起きることもあるので、ロケ現場には必ず担当者を配置していて、なにかあればすぐに対応できるようにしているという。


●ネガティブシーンの撮影場所


 話は変わるが、どういった施設でよく撮影が行われるのか。「新しいビルで、オシャレなスペースが人気なのでは?」と思われたかもしれないが、必ずしもそうではない。例えば、暴走族のメンバーがたくさん集まるシーンがあったとしよう。派手なメークと奇抜な服装をした人がたくさんやって来て、改造したバイクが大きな音をたてる。台本に「ケンカを始める」と書かれていれば、そこで取っ組み合いが始まる。


 オフィスビルの近くでこうした撮影は難しいが、自治体の公的施設で適しているところがある。例えば、クリーンセンター。ゴミの持ち込みや排泄物の処理などを行うので、敷地は広い。また、クルマや人の出入りもそれほど多くはないので、ネガティブなシーンには“適している”ようなのだ。


 ある自治体のクリーンセンターで、残虐な殺しのシーンなどを撮影したところ、制作側から「また、次も」「また、今度も」といった具合に、何度も何度も声がかかったそうだ。となると、その動きが気になるのは、他の自治体である。


 「あそこのクリーンセンターで、なぜ何度も撮影しているの?」となって、調べてみると、業者に依頼してロケ誘致をしていることが分かってきた。「であれば、ウチも」といった流れで、デイ・ナイトに依頼するケースが多いようだ。「基本的に当社から営業をすることはなく、いわゆる口コミをきっかけに『声』がかかることが多いですね」(久須美さん)とのこと。


●最も撮影されたビル


 デイ・ナイトが管理している施設で、最も撮影されているところはどこか。東京・千代田区にある「NTT日比谷ビル」が断トツだそうだ。いや、正確に言うと「だった」である。


 日本電信電話公社(通称:電電公社)が本社を構えていたこともあったが、ビルは1961年に竣工したこともあって、老朽化が進んでいた。2022年、再開発を理由に解体されたことはニュースになっていたので、記憶に残っている人も多いかもしれない。


 NTT日比谷ビルは60年ほど前に建てられたので、お世辞にも「最新」「キレい」といった言葉は出てこない。しかし、である。ロケ現場としては「そこがいい」ようで、このビルで多くの刑事ドラマが撮影された。


 このビジネスをうまく回すカギは、いい施設をどれほど押さえているかである。先述したグランパークタワーのように現代の建物でも、エントランスや屋上などいろいろな場所で撮影できるところはよく使われる。


 一方、大正や昭和の雰囲気が漂う建物も、映画やドラマの台本によく書かれている。公衆電話を設置する台が残っていたり、配管がむき出しになった廊下があったり、外壁が古いタイルのままであったり――。


 ということもあって、歴史を感じられるビルを前にすると「施設探しの担当者は、目をキラキラさせていますね」(久須美さん)


(土肥義則)



このニュースに関するつぶやき

  • どこだっけ渋谷のあの交差点を再現したところがあったな。
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