凍らせて→もみほぐして→熱中症を防ぐ 大正製薬「リポビタンアイススラリー」完売が続く

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2024年09月19日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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カラダの内側から冷たい! 大正製薬の商品がヒット

 残暑厳しい9月。店頭には、依然として「熱中症対策」をうたった商品が並んでいる。


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 熱中症対策といえば、屋内ではエアコンで涼しくし、屋外ではハンディファンを使うなど、外部からのアプローチが一般的だ。そんな中、大正製薬は屋内外問わず体の内側からアプローチする熱中症対策を提案している。同社は「リポビタンD」でおなじみの「リポビタン」シリーズの一部で、全国清涼飲料連合会が策定した熱中症対策ガイドラインの塩分濃度に準拠した清涼飲料水や栄養補助食品を販売している。


 中でも珍しいのが、2021年6月に発売された「リポビタンアイススラリーSports」(以下:アイススラリー、希望小売価格194円)。最大の特徴は、冷凍庫から凍らせたものを出し、常温で15分ほど置いてからもみほぐして飲む点だ。また、運動時に汗で失われやすいナトリウムやカリウム、そしてエネルギー生成に必要なクエン酸などを補給できるようにしている。


 フレーバーはハニーレモン風味とりんご風味の2つを用意。暑熱環境下での運動後のコンディション調整だけではなく、仕事時や移動時の熱中症対策アイテムとして販売している。


●深部体温を下げる効果がある流動性の高い氷


 開発のきっかけは、深刻な社会課題になりつつあった熱中症への取り組みを加速させるプロジェクトが始まったことにあった。


 プロジェクトでは熱中症対策に意欲的なスポーツ界の取り組みに注目。国立スポーツ科学センターや、運動生理学が専門で熱中症研究の第一人者である広島大学の長谷川博教授と共同研究を進めてきた。


 共同研究の成果のひとつが、商品名にあるアイススラリーである。アイススラリーとは流動性のある氷のこと。凍ったものをもみほぐすと粒子の小さな氷になり流動性が生まれる。


 開発を担当した商品開発部 主事の山本雅氏はアイススラリーの可能性を次のように話す。


 「アイススラリーに関するこれまでの研究は、深部体温を下げることで熱中症を予防する効果に着目したものが多かったです。しかし、私たちの研究で、運動パフォーマンスの維持、集中力の持続、睡眠の質向上にも寄与することが分かってきました。深部体温を下げることには、生活者に伝えられる多くのメリットがあります」


●容器に求められたもみほぐしやすさ


 大正製薬は清涼飲料水のレシピ設計で豊富な経験とノウハウを持っているが、アイススラリーをつくるにあたっては成分の配合に繊細さが求められ、簡単とはいかなかった。しかも、アイススラリーをつくるのは初めてだったので、不慣れなところもあり、つくった試作はゆうに100パターンを超えた。


 開発では容器の選定もポイントになった。もみほぐしやすいものでないと微細な氷が溶けた成分と均一に混ざらないからである。


 ところで、なぜ凍らせた清涼飲料水をもみほぐせるのか? その理由を山本氏に尋ねてみた。


 「ミネラルなど各種成分の配合量により実現しています。溶け込んでいる成分が多いと凍りにくく、逆に少ないとカチカチに凍ってしまいます」


 氷の結晶と結晶の間にある成分が溶けることで、もみほぐして細かくなった氷が均一に混ざり飲みやすくなる。この状態になって初めてアイススラリーと呼べる状態になるわけである。


 採用した容器は口栓付きの薄い飲料用パウチ。現在のものを選んだポイントは大きさと薄さにあった。当初はゼリー飲料などでよく使われている背が低くて厚みのある口栓付き飲料用パウチの採用を考えていた。しかし、実際に使ってみるともみづらくなかなか溶けなかった。


 「社内で検証したときは『中心部が溶けにくい』という声がすごく多かったです」と振り返る山本氏。現在の容器と同じ条件で比較したとき、溶けるまでに10分ほど長くかかった。結局、容器は量も含めて10パターンほど検証し、現在のものに決めた。


●アイススラリーに関する研究成果を発表


 こうして「リポビタンアイススラリー」は完成し発売に至ったが、1年目の2021年は思ったように売れなかった。年間数十万個は売れると予測していたが、在庫で残った分と返品で戻ってきた分が生産数の半分近くを占めることに。


 「まだアイススラリーの認知が低いため、小売店と商談をしても『何それ?』と反応され、なかなか店頭に並びませんでした。店頭に並ばなければお客さまが手に取る機会はなく、認知は拡大しませんでした」


 こう振り返るのはマーケティング本部ブランドマネジメント1部飲料グループの樋口裕貴氏。メディアで取り上げてもらうべくアプローチしても、なじみが薄いので思ったように取り上げてもらえなかった。


 2022年以降はアイススラリーの認知拡大に注力する。効果的だったのは、研究成果を積極的に発信したことだ。アイススラリーに関する研究成果をプレスリリースで発信し、メディアで広く取り上げてもらうことにつとめた。


 大正製薬が2022年以降に発表したアイススラリーに関する研究成果のプレスリリースは5本。熱中症対策の話題を求めていたメディアが興味を持ち、取り上げてくれることが増えるようになった。


 メディアで取り上げてもらうこと以外では、「Japanドラッグストアショー」や「SPORTEC(スポルテック)」といった展示会への出展、猛暑になった日は天気予報アプリに商品のバナー広告を掲出するといったことにも取り組んだ。


 こうした取り組みが功を奏し、アイススラリーの認知度は徐々に広がった。2021年に比べて猛暑になったことが重なり、2022年は大きく販売を伸ばした。2023年は前年の2倍、2024年も前年の2倍生産したが、いずれもほぼ完売という状況だ。


 2023年については、4月にりんご風味を追加したことも売り上げ拡大に貢献した。


●7000社2万コールのテレアポで法人を開拓


 大正製薬は主な販売チャネルをB2Cとしていたが、2023年以降はB2Bにも注力するようになった。


 建築業や運送業、製造業を中心に、企業の総務部や安全管理部門に直接商品を持って行き実際に飲んでもらう、または建築会社などで実施される安全大会に同社の社員が出向いてアイススラリーが熱中症対策に有効であることをプレゼンしたりすることで、大量のまとめ買いが期待できる法人需要の拡大を目指した。


 2024年だけで7000社2万コールのテレアポを実施し、顧客の開拓を推進している。


 「まだアイススラリーのことを知らない人が多いので、一度飲んでいただけると味や冷感に好感触を持っていただけるケースが多いです」と樋口氏。試飲が購買にどの程度結びつくかのデータは取れていないが、樋口氏の感覚では、試飲した人の7割近くが「良い商品だ」と評価し、「夏場に使ってみよう」と言ってくれているという。


 また、2024年7月に開催された「東京猛暑対策展」(7月24日〜26日)に出展した。来場者のほとんどがまだアイススラリーのことを知らず認知度の低さを痛感することになったが、商談を行って発注の意思を示してくれた人もいたことから、手応えも得ることができた。


 会場では試飲の機会も設けた。原液を入れて撹拌(かくはん)し、試飲用の「リポビタンアイススラリー」をつくるグラニータマシンを見た人から「マシンを売ってほしい」「マシンと原液をセットで売ってほしい」といった想定外の要望も寄せられた。


 大正製薬は今後、B2B向けでは建築業や製造業を対象にした熱中症対策に関連する展示会に出展し、B2C向けでは研究成果の内容を身近に感じられる報道発表を継続して取り組んでいく考え。課題は、認知度の向上を図っていくことだという。


 また、「リポビタン」ブランドに限定することなく、新たな熱中症対策商品のリリースも検討。全社を挙げて社会問題になった熱中症に立ち向かっていく。


(大澤裕司)



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  • 確かにまだ暑い日はあるけれど今頃出す話か?
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