早稲田大などの研究グループは6日、過剰な免疫反応の元となる細胞を除去したウシの腱(けん)を、膝前十字靱帯(じんたい)を損傷した患者に移植する臨床試験(治験)を始めると発表した。患者本人の別の部位の腱を用いる従来の再建手術と比べ、移植に伴う神経まひや筋力低下のリスクを防ぐことが可能となる。足首や肘損傷などへの応用も期待され、グループは「スポーツ医療の世界で革新を起こせる」と話している。
膝前十字靱帯は、太ももの骨とすねの骨をつなぐ組織で、膝関節を安定させる働きがある。サッカーやバスケットボールといったスポーツの際に損傷することがあり、自然治癒はしないため、患者自身のハムストリング(太もも裏)などの腱を移植する再建手術が必要となる。
研究グループの岩崎清隆・早大教授らは、動物組織に含まれる免疫反応を引き起こす細胞成分を除去し、移植後にヒトの靱帯に置き換わる技術を開発。ほ乳類はたんぱく質などの構造が似ている上、ウシの腱は太さもあるため、ヒトへの移植に適しているという。ヒツジに実施した再建手術では、移植後に靱帯組織が再生。術後3カ月と1年後を比較すると、着実に再生が進んでいた。
膝前十字靱帯の手術を受ける患者は、国内で年約1万9千人と推定され、プロサッカー選手や大相撲力士のけがも多い。岩崎教授は「自身の組織を犠牲にせず、何度損傷しても再建治療ができる機会を提供したい」と話している。