今週の連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合)は第8週「さよなら糸島 ただいま神戸」を放送中。結(橋本環奈)、聖人(北村有起哉)、愛子(麻生久美子)は糸島を後にし、神戸へと帰ってきた。12年ぶりに神戸の街に足を踏み入れた結に、フラッシュバックを心配した聖人と愛子がくりかえし「大丈夫?」と声をかける姿が印象的だった。
【写真】太極軒の店主を演じる堀内正美は神戸で長年ボランティア活動に携わる
震災前に計画が進められていた商店街のアーケードが完成し、表面上はすっかり復興したかのように見える街並。しかし、愛娘の真紀(大島美優)を失った渡辺(緒方直人)をはじめ、人々の心の奥底にある喪失感と哀しみはなくなるはずもない。中華料理店「太極軒」の店主夫妻が、笑顔で餃子をつつく結、聖人、愛子を見つめながら浮かべていた安堵の表情が、この街の人々が乗り越えてきたものの大きさを物語っているようだった。
太極軒の店主・明石を演じる堀内正美、米田家の隣人・美佐江役のキムラ緑子、街の復興のために奔走する市役所職員・若林を演じる新納慎也、結が通う栄養専門学校の担任・桜庭役の相武紗季、結と同じ班の佳純役の平祐奈、第21回で被災者たちに塩むすびを配る三浦雅美を演じた安藤千代子など、『おむすび』のキャスト陣には阪神・淡路大震災で大きな被害に遭った兵庫県出身の俳優が多い。その理由について、制作統括の宇佐川隆史さんに聞いた。
「あの日」の“手触り”を持っている方々に演じていただきたかった
宇佐川さんは「もちろん単純に兵庫県ご出身だからという理由だけで選んでいるわけではないのですが」と前置きした上で、こう語る。
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「被災地であり、支え合いながら復興を遂げてきた地元の方々の力、思いというものは大切にしています。近過去である平成を描くにあたっては、俳優部の皆さんの生きてきた歴史や、皆さんの記憶が色濃く残る時代が重なります。その『実感』を、十分に活かしていただけているのではないかと思いますし、今回大切にしたいと思っているところです。『1995年の1月17日に私は何をしていたか』という『手触り』を持っている方々に、できれば演じていただきたいという思いはありました」
兵庫県出身キャストは「自分が演じるからには」という気持ちで撮影に臨んだ
出演オファーをした際の兵庫県出身のキャストたちの反応をたずねると、
「もちろん皆さんそれぞれに違う体験、違う思いを持っていらっしゃいますが、『自分が演じるからには』という気持ちで撮影に臨んでくださっているのが伝わります。美佐江を演じるキムラ緑子さんは、当時震災の中心地にいたわけではないので『私が演じていいのでしょうか』とおっしゃっていて、役をオファーした当時から葛藤を抱えていらっしゃいました。それでも皆さんは、この物語の舞台である神戸での震災の記憶を伝えたいという思いは受け取ってくださって、それぞれにご自身の記憶も交えながら演じていただいています」
と、宇佐川さんは感慨深げに語った。多くの兵庫ゆかりのキャストの力も借りて、今後も丁寧に描かれていく「神戸の人々の心の復興」を見守りたい。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)
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