「習近平大通り」も登場…「ほとんど中国」街にあふれる中国語の看板 米中対立に揺れるカンボジア

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2024年12月01日 06:00  TBS NEWS DIG

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トランプ大統領の再登板でさらなる激化が予想される米中対立。その最前線の一つである東南アジアの国、カンボジアを訪ねた。そこで見えたのは中国の圧倒的存在感と人々の期待と不安だった。

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中国の目的は何?・・・「習近平大通り」に賛否両論

30年ぶりに訪れたその街は、様変わりしていた。カンボジアの首都、プノンペン。1997年、大学生時代に旅行で訪れたプノンペンは、満足な舗装もされていない埃っぽい道をオートバイや自転車がまばらに行き交う風景が広がっていた。

内戦が終わって6年。疲れた顔をした人々。そして目につくのは女性ばかり。「男性の多くは、内戦で死んでしまった」。そんな女性の言葉が忘れられない。

2024年9月に再訪したプノンペンは高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市に変貌を遂げていた。何より圧倒的な中国の存在感を感じさせる街になっていた。その象徴ともいえるのが7月に開通したばかりのその名も「習近平大通り」だ。全長約50キロ。中国の企業によって作られた。市民に感想を聞いてみると。

カンボジア人男性
Q中国企業が道路を作ることをどう思いますか?
「いいことです。とてもいい道です」
Qカンボジアの道路に中国人の名前がついていることについてどう思いますか?
「中国がお金を払っていますからね」

一方こんな意見も・・・

カンボジア人男性
「助けてくれるのはいいことですが、本当の目的が何なのか、よくわかりませんね。アメリカが支援してくれればもっとアメリカとの結びつきが強くなるのですが」
Q道路に中国の国家主席の名前がついていることをどう思いますか?
「私は反対です。抗議したいですね。受け入れがたいです。道路を作ってくれて感謝していますが、カンボジアの道路なのだからカンボジア人の名前の方がいいでしょう」

中国が建設した道路はほかにもある。プノンペンと南西部の港町シアヌークビルを結ぶ約200キロの高速道路もまた、2022年に中国の支援で作られた。これまで5時間かかっていた道のりを2時間半で結ぶ。しかし、車はほとんど走っていない。料金が高すぎるのだという。料金は片道25ドル。平均月収が250ドルから300ドルといわれるカンボジア市民にとっては、確かに、高い。

高速道路の終点にある港町シアヌークビルは、プノンペン以上に「中国化」が進んでいた。街の中心部には中国語の看板があふれ、中華料理店はもちろん、病院にホテルに電気店、雑貨店、美容院にマッサージ店。ありとあらゆる種類の店が立ち並ぶ。中華料理も「湖南料理」「四川料理」「上海料理」など細分化されている。シアヌークビルにいながら中国全土の料理が食べられそうだ。

1年前、広東省深圳市からシアヌークビルに来たという美容師の男性は「ここで仕事をしている中国人が多いから中国語の看板が多いんだよ。中華料理店も多いし、暮らしやすいね」と話す。

重慶小麺の店を開いて2年だという男性は「中国は不景気だからここで店を開きました。中国人は多いし、ここは中国がカンボジアと協力して発展させた町なんです。将来有望ですよ。どんどん開発が進んでいます。中国語だけで暮らせますし、中国人だけでも数十万人はいるでしょう」。建設業の男性に至っては「ここは中国と同じです」ときっぱり。

この状況、カンボジア人はどう思っているのだろうか。「中国が投資するので、雇用が生まれ、いいことだと思います」「中国人がたくさんくれば、私たちはもっと儲けることができるでしょう」「歓迎します。私たちの国を開発してくれるのですから」。経済がよくなることを期待する声が多かった。

カンボジアに中国からの投資が急増したのは10年ほど前のこと。中国メディアによると2023年の海外からカンボジアへの新規投資の9割が 中国からだった。

「英語よりも中国語の方が重要」高まる中国語学習熱

強まる中国との経済的結びつき。そこにチャンスを見出そうと今、カンボジアでは中国語学習熱が高まっている。プノンペン市内にある学校では4歳から20歳までの約2000人が中国語を学んでいる。学び始めた動機を聞いてみると・・・

男性生徒(15歳)
「中国とは経済的な結びつきが強いので、メリットがあると父に勧められました。中国語を使うチャンスはこれからどんどん増えると思います」

女性生徒(16歳)
「カンボジアとの中国の関係は今後よくなるでしょう。今、カンボジアでは英語よりも中国語の方が重要です。ほとんどの仕事で中国語が必要ですし、中国人の上司も多いです。将来は中国との貿易の仕事に就きたいです」

入学希望者が急増し、教室も、先生の数も足りないのが学校側の悩みだ。

急速に発展するカンボジア。そこに中国マネーが影響しているのは確かなようだ。しかし、その光が強ければ強いほど、影も濃くなる。

廃墟ビルが乱立・・・・中国人が多すぎて「まるでカオス」

言論の自由、特に政府批判が統制されているカンボジア。中国を批判することは結果、中国と親しい関係を築いているカンボジア政府を批判することにつながるため、おおっぴらに中国批判を口にする人は少ない。しかし、聞いていくと徐々に本音を打ち明けてくれた。

ある女性は「あまりに中国人が多すぎてカオスのようです。ここはまるで中国です。彼らは自由にふるまいすぎるし、攻撃的で怖いです。この状態はよくないですが、ほかに選択肢はありません」と嘆いた。公園でくつろいでいたビジネスマンの男性は「中国からの投資は全く歓迎しません。中国人はすべての仕事を奪っていきます。中国の影響力が大きくなることを恐れますが選択肢はありません。どうしたらいいのかわかりません」

人々の懸念は、現実のものになっていた。

シアヌークビルの街で目につくのは、建設途中で放置された、廃墟のようなビル。新型コロナの影響による資金繰りの行き詰まりや中国国内の景気悪化など理由は様々だというが、シアヌークビルだけで、このような「廃墟ビル」は360棟以上に上るという。

カンボジア人男性
「(工事が止まると)経済に影響が出ますし、観光客も減ってしまうと心配です」

もし中国がカンボジアから投資を引き揚げてしまったらどうなるのか?「廃墟ビル」はカンボジアの将来を予見しているようにも見えた。中国商務省によると2024年、カンボジアの中国への債務は39.9億ドル、およそ5800億円に達している。

さらに市民を不安にさせているのが、中国系カジノの存在だ。外国人専用でカンボジア人は立ち入ることはできないという。なかには違法なものもあるといい、犯罪の温床になるのではという懸念も出ている。カジノの近くに住む男性はこんな不安を口にした。「あまりに多くの中国人が来すぎるのが問題です。治安も悪くなりました。中国人は私たちカンボジア人に敬意を払っていません。お金に物を言わせ、態度が傲慢で失礼です」

中国が影響力を増しているのは、経済だけではない。 

進む中国軍の拠点化・・・JNNのカメラが捉えたカンボジアに停泊する中国軍艦

私たちが向かったのは、シアヌークビルからほど近いカンボジア南部にあるリアム海軍基地。そこに2隻の中国軍のコルベット艦が停泊しているのを確認した。

リアム海軍基地は中国の支援によって拡張工事が進められており、アメリカや日本などは中国軍の海外拠点になるのでは、と警戒感を強めている。今年6月にはアメリカのオースティン国防長官がカンボジアを訪れ、直接懸念を伝えている。

港だけではない。先ほどの習近平通りを郊外に向かって走ると、8月に開通したばかりの運河にぶつかる。フナン・テチョ運河。将来的にはプノンペンからタイ湾に面した港まで約180キロに延伸する計画だ。建設の一部を中国企業が請け負っている。運河の入り口ではすでに中国企業の工場が稼働していた。

内陸部と沿岸部をつなぎ、物流コストの削減、産業の活性化の役割が期待される一方で中国海軍による軍事利用を警戒する声がベトナムなど周辺国から上がっている。さきほどのリアム海軍基地は、運河の近くにある。

進む中国軍の拠点化にカンボジア市民の間では米中の軍事対立に巻き込まれるのではないかという不安が広がっている。

カンボジア人男性
「中国との軍事的結びつきが強化されることを恐れています。いつか軍事衝突の発展するのではないかと恐れています」

経済、そして軍事。カンボジアを覆う、中国の影。その影響力はこの国をどこに導いていくのだろうか。

取材後記

中国と地理的にも近く、また経済的結びつきが強い東南アジア。しかし「東南アジア」と一言で言っても、中国との距離感は様々だ。南シナ海の領有権をめぐり激しく中国と争っているフィリピンのような国もあれば、中国に接近するカンボジアのような国もある。中国ともアメリカともつかず離れずの立ち位置を保つインドネシアやベトナムのような国もある。

ただ、いずれの国にとっても「中国とアメリカ、どっちにつくの?」と踏み絵を迫られる状況が一番困るという。トランプ大統領の再登場で再び米中関係に波乱が起きることが予想される。その中で東南アジアの国々はどのような立ち位置でその波を受け止めるのか。東南アジアは、米中関係の今後を占う視点でもある。

文  JNN北京支局 立山芽以子
撮影 JNN北京支局 室谷陽太

このニュースに関するつぶやき

  • そりゃそうだ。前漢や唐や清の最大版図を最終目的だから遅くとも来世紀前半にはミャンマー以東は中国になってると思うが。民族浄化のおまけつきで。
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