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キリンビール(東京都中野区)が2024年4月に発売した「キリンビール 晴れ風」(以下、晴れ風)が好調だ。17年ぶりに誕生したスタンダードビールの新ブランドで、7月には年間販売目標を300万ケースから550万ケースに上方修正(大びん換算)。12月現在、その9割に相当する500万ケースを突破している。
10月下旬に発売した「歳暮ギフトセット」にも晴れ風がラインアップに加わり、こちらも好調に推移しているという。
なぜ、予想を上回る勢いで売れているのか。開発時にこだわったポイントや同社が分析するヒットの要因、今後の戦略などをマーケティング部ビール類カテゴリー戦略担当の向井優夏氏に聞いた。
●「一番搾り」「ラガービール」に続く人気ブランドを目指して
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アルコール飲料は2023年10月に2回目の酒税法改正が行われ、2026年にはビール、発泡酒、新ジャンルの税率が一本化。今後、ビール系飲料の価格差は埋まっていくことが予想されている。
こうした動きを受け、各社の需要獲得競争は活発化。ビール類のカテゴリシフトが起こる可能性もあり、中でも価格面で発泡酒や第3のビールにやや劣勢だった従来のビールに注目が集まっている。
同社は「キリン一番搾り生ビール」(以下、一番搾り)や本場ドイツの味を再現した「キリンラガービール」(以下、ラガービール)に続く人気ビールをつくろうと画策。約1年半の歳月を経て、晴れ風を発売した。
●発売ギリギリまでこだわったポイント
消費者の価値観は時代とともに変化している。例えば、一番搾りを発売した約35年前とは異なるものになっている。晴れ風は今後10年〜20年を見据えたときに、長く楽しんでもらえるブランドにしたいと考えたようだ。
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企画時には「長く続くブランド」という方針のみが決まっている状況から、ゼロベースでスタート。消費者はどんなビールを求めているのか、一番搾りやラガービールに続くブランドになるために必要なことは何か、などを若手メンバーも中心となって思考した。
「世の中にはおいしいビールがあふれているため、味だけでなくネーミングやパッケージデザイン、CMなど、顧客とのコミュニケーション面も紆余曲折ありながら細部までこだわってつくり込んだ」
開発過程では晴れやかなイメージを体現することも検討しつつ、白を基調にしたパッケージデザインや現代らしい手書き風のロゴなども案に出ていた。事前の顧客調査で「目新しいものや奇抜すぎるものだと逆に手が伸びない、失敗しそうなイメージを抱く」といった声もあり、新しさも取り入れながらキリンビールとしての信頼感がある現在の形に落ち着いたという。
発売の4〜5カ月前に商品自体はできていたが、パッケージやプロモーション面の調整などはかなりギリギリまで詰めていたようだ。
●ビール好き以外にも手に取ってもらうために
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中身の味についても、試行錯誤を重ねた。晴れ風はいまビールを飲んでいない層にも受け入れられる商品にするため、なぜビールを選ばないのかを調査した。すると苦味や重みが飲みづらさにつながっていることが分かった。
「ビールらしい満足感と飲み応えも残しつつ、飲みづらいと感じる苦味や重みをゼロにすることは難しい。試飲を何度も重ね、王道でありながら新しい味わいを感じるものに近づけていった」
こうして誕生したのが「ビールとしてのうまみや飲みごたえ」と「飲みやすさ」を両立させ、“ビールのきれいな味”が感じられるバランスの良い味わいだった。
●晴れ風ヒットの要因
冒頭でも触れた通り、晴れ風は上方修正後の年間販売目標も達成を見込んでいる。
歳暮ギフトセットについても好調だ。新商品のため、社内からは「一番搾りとセットになった詰め合わせのみにすべき」という声もあったが、晴れ風単品での販売も行っている。ギフトセットは、購入者も「失敗したくない」という心理が働くため新商品は選ばれにくい傾向があるが、晴れ風については単品でも売れている。
なぜここまで好調なのか。向井氏は要因として(1)味わい、(2)「晴れ風ACTION」、(3)夏の新コミュニケーションの3点を挙げた。
味わいについては、晴れ風の特徴である「ビールとしてのうまみや飲みごたえ」がありながら「飲みやすい」新しいおいしさが評価されている。ビールを普段飲む人はもちろん、近年ビール類を飲んでいなかった人からの購入も多いようだ。
「新商品なので初回は気になって購入してもらえても、味わいが受け入れられなければ、リピート購入にはつながらない。晴れ風はビールをあまり飲まない層のリピート率も高いことが分かってきた。また、年代にかかわらず最近ビール以外を楽しんでいた人にも手にとってもらっている」
2つ目の晴れ風ACTIONとは、「ビールを飲む喜びを広げてくれた『日本の風物詩』を守り、そこに集まる人々の笑顔を未来につなげていきたい」といった思いから、晴れ風の売り上げの一部を活用して、継承の危機にある地域の桜や花火などへ恩返しする活動のことだ。
晴れ風を購入すると350ミリリットル1缶につき0.5円、500ミリリットル1缶につき0.8円が自動的に寄付される。缶の裏に印字されたQRコードから専用サイトにアクセスすると、1日1回0.5円分の「晴れ風コイン」が無料で付与され、応援したい自治体を選んで寄付できる。
晴れ風のプロジェクト推進には20〜30代の若手社員を抜てきしており、キリンビール社員としてのDNAを持ちつつも、発想がまだ凝り固まっていない点を期待した。晴れ風ACTIONについては「開発途中でおいしさ以外にどのような価値を提供できるか検討し、調査も踏まえながら決定した」そうだ。
こうした取り組みはSNSでも反響があり、「桜を守る活動を応援したい」「毎日楽しく参加している」など好意的な声が多数届いたという。ビール自体の味に興味がなかった人にも、新しい体験価値を提供できた。と、一定の手応えを感じているようだ。
●好評のプロモーション、今後の戦略は
夏の最盛期には、人気タレントを起用した大規模なプロモーションを展開。テレビCMはCM総合研究所実施の「CM好感度調査」アルコール業類で7月、8月度に連続1位を獲得するなど、高評価を得た。
夏の爽やかな雰囲気の中で「晴れ風」を楽しむ様子を描き、晴れ風ACTIONについてもあらためて紹介したことで、これまでビールを飲んでいなかった人も含めた幅広い層に訴求できたようだ。
販売好調を受けて、5〜6月には緊急で感謝の意を伝えるプロモーションも展開。「当初予定していなかったものも、消費者の反応を見ながらスピーディーにつくり上げていった」
今後については、「一番搾りなどの定番ブランドと比較すると認知率の面でもまだ伸びしろがある。来年以降も多くの場所で顧客と接点を持つことで1人でも多くの人に『晴れ風』を知ってもらい、手にとってもらえるよう工夫しながら展開していきたい」
また「晴れ風は知っていても、晴れ風ACTIONは知らない人もまだまだいる。長期的に取り組み、協力の和を広げていきたい」とのことだ。販売数はもちろん、晴れ風ACTIONの反響も含めて2025年以降の展開にも注目したい。
(熊谷ショウコ)
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