「おでん」の政権交代? 主戦場はコンビニから外食へ ユニークなお店が続々と生まれる背景

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2024年12月05日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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コンビニおでんを見かける機会が減りつつある(提供:ゲッティイメージズ)

 コンビニの秋冬シーズンにおける代表商品であり、一時は通年でも販売していた「おでん」が、コロナ禍を機に急速に姿を消し、復活の動きが鈍い。東京都心部、特に山手線の内側ではおでんを展開している店が少なく、“絶滅危惧種”になっている。各地の政令指定都市、県庁所在地レベルの街や、それらの近郊の駅前店でも同様の状況であり、現在はロードサイドを中心に販売しているようだ。


【画像】おいしそう! ユニークなお店で支持されてるおでん 鶏だしの骨付き鳥、牛たんわさび、おしゃれな店内、明太バターをのせたはんぺん、水菜チーズなど(全11枚)


 東京都立川市のJR立川駅南口から徒歩1分以内に、3大チェーン(セブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソン)の店舗が計4つある。行ってみると、おでんの販売をしている店はなかった。同駅はJR東日本で14位、1日平均で約15万人(2023年度)の乗車数があるほどの商圏であるにもかかわらず、だ。


 とあるコンビニ店員に聞くと、フランチャイズ(FC)本部はおでんを販売してほしいと望んでいるが、FCオーナーや店長といった現場サイドで渋るケースが多いという。「おでんは難しい商品で、売れる個数より、廃棄する個数が多い日もある。雨が降った日は最悪で、ガテン系のお客さんは仕事がないから来ないし、普段は徒歩や自転車で来る近所の人は出歩かない」と話す。天候など外的要因に左右されるのが不評のようだ。


 特に都心部は、ランチの時間帯は売れるものの夜は需要が減少し、仕込んだおでんがどうしても売れ残ってしまう。特定の人気商品だけでは見栄えが悪く、あれこれ仕込んでいくと、廃棄ロスが増えて利益を圧迫する。駅前の店では、バスや電車で帰宅する人が、においやつゆのこぼれるリスクを嫌がり、おでんを買わない傾向が出ていて、夜はそれが顕著なのだという。朝はそもそも全く売れないそうだ。


 揚げ物ならば、ショーケースになくても、少し待ってもらえれば揚げてすぐ提供できる。ところがおでんは、仕込みに1時間くらいかかってしまうので、そうもいかない。そもそも揚げ物は冷凍で店舗に納品するため、廃棄ロスも少ない。このように、おでん固有の難しい事情があるのだ。


 こうした背景を受け、カウンター周りにあったおでんは、どんどん揚げ物に置き換わっているのである。では、コンビニのおでんを買わなくなった人たちは、どこに行っているのか。


 答えは「外食」である。まだ、大きなうねりにまではなっていないが「おでん屋たけし」「呼炉凪来(コロナギライ)」といった、コロナ禍以降に台頭してきた新興のおでん居酒屋チェーンが、東京都心部などで連日盛況だ。これらはFCを活用して、全国への拡大を始めている。


 また、以前からうどんチェーンの「はなまるうどん」(418店、2024年2月末時点)や、「資さんうどん」(75店、2024年11月末時点)でもおでんを提供している。はなまるうどんに限らず讃岐うどんの専門店は、おでんを提供する店が多い感がある。北九州市出身の資さんうどんは全国展開を目指して、すかいらーくグループにM&Aされたばかりだが、おでんも重要な商品の1つだ。


 外食に需要を奪われつつある、おでん。今回はその商戦の現状を、コンビニと外食の両面からまとめていく。


●苦境のおでん商戦 大手3チェーンはどう考えているのか


 本稿を執筆するに当たり、セブン・ファミマ・ローソンに「今秋冬シーズンにおけるおでんの展開」について質問すると、回答の趣旨は一致していた。いわく「おでんの展開は各店舗の事情による。具体的な店舗数は公表していない」という。


 別に都合が悪いことを隠しているわけではない。コンビニ各社は「おでんをやるかやらないかは、商圏の特性を踏まえて各店が決める。個別の商品に関して、店舗数の公表をしない」という、当たり前のことを述べているに過ぎない。


 コロナ禍で、一時的におでんをほぼ販売しなくなった経緯については、次のような回答があった。


 「あえておでんの展開を自粛していたのではない。お客さまやスタッフの衛生環境への意識が高まったことから、以前までは全店でおでんの展開を推奨していたのが、店舗の選択制へと変更になったことで、展開店舗数が変化した経緯がある」(ファミリーマート)


 「おでんはお客さまの注文を聞いて、鍋から取る販売方法のため、コロナ禍は衛生面を気にされるお客さまもいらっしゃり、販売を控える店舗があった。レジ横でのおでんの展開店舗は減少傾向だ」(ローソン)


 一方「詳細な数字公開は控えさせていただくが、多くの店で実施いただいている」(セブン‐イレブン)との回答もあった。


 さらに、ローソンではコロナ禍に、できたての商品へのニーズが高まったことを受けて、店内のキッチンで調理を行う「まちかど厨房」を拡大。現在は全国の店舗で展開と、おでんと入れ替わるシフトチェンジを行った。


 なおローソンでは、おでんの購入層は男性が4割、女性が6割で、女性がやや多い。時間帯は午後4〜7時によく売れ、お酒、日配総菜、サラダなどを一緒に購入するケースが多いという。


 ファミリーマートでは、主に女性客に支持されている。20代の購入が最も多く、40代、50代の順となっている。3〜4個と複数買いが多く、「ファミチキ」や「おむすび」などと一緒に購入するケースが見られる。


 新たな顧客獲得の工夫として、セブン‐イレブンでは9月から、インバウンドからおでんが好評な点を受けて、メニューボードにローマ字表記を入れた。


●セブンとローソン、人気のおでんは?


 各社のおでんの特徴と、人気の具材はどうか。


 セブン-イレブンは、赤道直下のかつおを未凍結のまま、かつお節に加工してつゆに使用。基本だしをベースに、地域ごとの嗜好に合わせた味を加えている。北海道なら煮干し、関西なら牛と鶏、九州ならあごなどだ。具材の人気は、味しみ大根、味しみたまご、味しみ白滝の順となっている。


 ローソンのつゆは、かつお節だけでなく煮干しに野菜、昆布や焼きあご、あさり、ホタテと風味豊かなさまざまなダシを使用し、食材を香り豊かに引き立てる工夫を行っている。人気の具材はつゆしみ大根、つゆしみたまご、国産手結び白滝など定番のほか、地域限定では関東と東北の一部で出しているちくわぶ、沖縄の沖縄そば、沖縄風テビチ、沖縄厚揚げなどがある。


 ファミリーマートの今年のおでんつゆは、飲み干せるだしをコンセプトにしている。「焼津産かつお節」「枕崎産さば節」「長崎県産イリコ」などの魚介だしに加え、新たに「利尻昆布」のエキスを追加してよりコク深い味わいに仕上げた。全国共通の11品の具材に加えて、地区限定の1品の計12品で構成。売れ筋は大根・たまごの2強に、白滝、厚揚げ、こんにゃくが続いている。


●創作おでんが人気の「おでん屋たけし」


 昨今、コンビニおでんは下火となっており、外食に主戦場が移ってきている。今のところ大々的に展開しているチェーンはないが、じわじわと店舗数を伸ばしている新興のチェーンがいくつかある。


 平日でも満席の店が多く、勢いがあるのは「おでん屋たけし」だ。築地銀だこを運営するホットランドの子会社、オールウェイズ(東京都中央区)が展開しており、1号店は2019年4月、東京・池袋にオープン。都内以外にもFC化で店舗網を拡大し、全国に27店ある(12月2日時点、以下店舗数に関しては同様)。直近では「東北初出店」として、11月28日に仙台国分町店をオープンした。


 商品の特徴は、あごだしと鶏だしの2種類を使用した創作おでんであること。定番の大根やこんにゃく、たまごのような具材だけでなく、季節ごとに旬の食材を使う。「創作性」という点で特筆すべきが「骨付き鶏」だ。ほろほろと崩れるような鶏もも肉の柔らかな食感と、濃厚なだしがよくマッチしている。その他「青竹たこつみれ」は築地銀だこをインスパイアしたような商品で、店で仕込んだつみれを、注文を受けてからあごだしに入れて仕上げている。


 おでんだけでなく、刺身やアルコール類の人気も高い。アルコールメニューは、名物である「出汁割り」など日本酒の他、各種がそろっている。これまでになかった新しいおでん店といったイメージがあり、若者にも人気が高い店だ。


●続々と増えている、ユニークな「おでん居酒屋」


 「炉端とおでん 呼炉凪来(コロナギライ)」は、炉端焼きをはじめ和食全般を扱っている居酒屋だが、おでんがお通しになっている。わずか550円で食べ放題として、大根やこんにゃく、玉子など9種類がある。


 1号店は2022年3月に東京・新宿でオープン。経営はFOOLISH(東京都千代田区)という外食企業だ。その後、FCを導入して店舗数を伸ばしており、全国に17店ある。


 「板前バル」などを展開するCANVAS(東京都千代田区)の子会社、ちょいおでん(同)が運営し、屋台を思わせるカウンターをメインに、高級魚である鱧(ハモ)のだしを使った風変わりなおでんを提供している「ちょいおでん」も人気だ。


 コロッケやガーリックトーストなど、他店ではまず見ない珍しい具材のおでんをそろえている。また、それぞれの具材に110円を足せば、独特なジェノベーゼ、明太バター、ブルーチーズをちょい足ししたおでんを食べられるようにしている。2019年に東京・日本橋の小伝馬町でオープンし、2022年8月にリニューアル。その後、都内4店舗にまで拡大している。


 おでんと寿司を組み合わせた店もある。外食大手である一家ホールディングス(千葉県市川市)のグループ会社、一家ダイニングプロジェクト(同)の「おでんトさかな にのや」だ。あごだしを使ったおでん、刺身などの和食とお酒(特に日本酒)を楽しむ店として人気を博す。


 この他「あて巻き」など創作性の高い寿司メニューとおでんを2枚看板とする「寿司トおでん にのや」を首都圏に続々と出店し、東京・有楽町店など7店がある。11月には「おでんトさかな にのや」の姉妹店として「寿司ト焼きもん にのや はなれ」をオープンするなど、勢いがある。


●“二毛作”のユニークな店舗も


 同じく、おでんと寿司を組み合わせて人気なのが「鮨とおでん &アンド」だ。飲食コンサルティングを主業務とするTEAM SUPER BEST(東京都港区)が経営し、都内に7店を展開している。こちらは、前述の「寿司トおでん」と異なり、あて巻きだけでなく正統派な握り寿司も提供している。同社では「骨付鳥と鶏ダシおでん 歩」という店も、都内に2店展開している。鶏だしおでんは秋冬の提供で、春夏は京味噌もつ煮に入れ替わるというユニークな業態だ。


 紹介した以外にも、屋台をほうふつさとせる狭小な立ち飲み系のおでん居酒屋が、各地の盛り場でどんどん立ち上がっている。おでんは外食でありながらテークアウトも期待できるのが、店内でお酒を飲ませないと営業が成立しない一般の居酒屋よりも有利な点だ。


 居酒屋業界の売り上げは、若者のお酒離れや盛り場に集まる人たちが引ける時間が早くなっていることから、コロナ前の7割程度しか回復していないといわれる。しかし、コンビニが自主的に撤退しているおでんには、このように大きなチャンスが生まれている。本稿で紹介したおでんの外食チェーンは、いずれもコロナ禍の最中または直前に誕生し、成長の曲線を描いている途中であり、伸びしろは大きい。


 中でも抜けているのは「おでん屋たけし」と「呼炉凪来」だが、勝負はこれからだろう。


 このほか、首都圏と静岡県に店舗展開する立ち飲み居酒屋の「かぶら屋」(52店、2024年11月末時点)でもおでんを提供している。静岡おでん風の色が黒い「黒おでん」で、同店の人気商品だ。


 今後、静岡市や姫路市のご当地おでんから、全国チェーンが生まれる可能性もある。


 一方で、コンビニおでんは郊外ロードサイドで根強く残り、外食と商圏を棲み分けるのかもしれない。


 ファミリーマートでは「おでんは前年に対して好調な売れ行き。コンビニでは肌寒い季節に、手軽におでんが買えるので、昼ごはん、晩ごはん、晩酌のつまみにも、おでんがもっとお客さまの身近なものになることを目指して、商品開発していく」(同社・広報)と意欲を見せる。


 いずれにしても、どのチェーンが代表的なブランドになるか、コンビニから外食への“おでん政権交代”の行方をウォッチしていきたい。


(長浜淳之介)



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