限定公開( 2 )
米ウォルト・ディズニー・カンパニーが展開する動画配信サービスDisney+(ディズニープラス)が好調だ。エンターテインメント業界向けにデータを提供するGEM Partnersの調査によると、「欧米アニメ・映画」で最も視聴されている定額制動画配信サービスで、Disney+が1位を獲得した。
同社は『アナと雪の女王』シリーズ、『トイ・ストーリー』シリーズなど、他サービスでは視聴できないディズニー・アニメ―ション作品やピクサー作品を多数そろえていることが強みと分析している。
映画の興行収入も好調だ。ウォルト・ディズニーによると、2024年に世界で公開された映画の年間興行収入のうち、上位4作品中3作品をウォルト・ディズニー・スタジオの作品が占めたという。『インサイド・ヘッド2』『デッドプール&ウルヴァリン』『モアナと伝説の海2』の3作品が入っていて、全世界での年間興行収入は54億6000万ドルを達成した。
これらの作品のうち『インサイド・ヘッド2』と『デッドプール&ウルヴァリン』はDisney+で2024年11月から国内での配信が始まっている。今後は、2024年12月に劇場公開し、現在でも上映が続いている『モアナと伝説の海2』などの劇場作品の配信も予定していて、Disney+にとって追い風になる見通しだ。
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好調の要因について、ウォルト・ディズニー・ジャパンのキャロル・チョイ社長は、2024年11月にシンガポールで開催した「ディズニー・コンテンツ・ショーケース APAC 2024」でこう話している。
●アニメだけでなく実写も好調なDisney+ 理由は?
「2023年、Disney+で公開された米国国外からのオリジナル作品の中で、トップ15に入ったもののうち9作品が韓国作品でした。韓国のアクションドラマ『殺し屋たちの店』は、アジア太平洋地域でDisney+史上最も視聴されたシリーズになっています。また、日本のアニメ作品も人気で、『東京リベンジャーズ』の聖夜決戦編や、鳥山明原作の『SAND LAND : THE SERIES』も、日本国内だけでなくアジア太平洋地域全体で好調です」(チョイ社長)
2025年以降も日本のアニメ作品の扱いを拡大する予定で、2022年にDisney+と戦略的協業の拡大を発表した講談社の作品をはじめ、多くの漫画作品を原作とした映像作品の展開を予定している。
アニメだけでなく、実写作品も成果を挙げた。例えばウォルト・ディズニーは、漫画家の二宮正明による日本の漫画作品『ガンニバル』を、2022年12月に実写ドラマ化した。Disney+で独占配信された作品ではあったものの、主演の柳楽優弥が、アジア地域における優れた業績や貢献を表彰する「アジアエクセレンスアワード」を2023年に受賞。作品自体も好調で、続編であるシーズン2の製作が決定し、2025年3月19日からの配信が決まっている。
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こうしたアジアをはじめとした各地域の作品や俳優を、グローバル市場に引き上げるのが、Disney+を通じたウォルト・ディズニーの狙いだ。
「われわれのコンテンツ戦略では、引き続き世界中に眠っている才能ある作品や人材を集めて、焦点を当てることを狙いとしています。日本においては、日本の実写作品とアニメのラインアップを補完するため、日本テレビとSTARTO ENTERTAINMENTと協業し、日本のトップタレントを世界中へ紹介する共通目標があります」(チョイ社長)
●エミー賞で主演男優賞日本人初受賞に導いた『SHOGUN 将軍』の成功
チョイ社長が言うように、日本という「世界の一地域に眠る」タレントを、世界的権威のある賞の受賞に結び付けた作品がある。2024年2月からDisney+で独占配信しているドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』だ。
同作は、米国の小説家・ジェームズ・クラベルの1975年の小説『SHOGUN』を原作にしたもので、安土桃山時代の日本を舞台にしている。登場人物は架空名になっているものの、主人公が徳川家康の役回りを演じるなど、史実に基づいた武将が登場するといった設定だ。
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ウォルト・ディズニー製作の作品で、Disney+を通じて全世界に配信された。米国製作のドラマでありながら、多くのセリフが日本語なのが特徴で、真田広之、アンナ・サワイ、浅野忠信、平岳大、二階堂ふみといった日本人俳優が多数出演している。
『SHOGUN将軍』は、初回エピソードの世界配信開始から6日間で900万回再生を記録。2024年9月の第76回エミー賞では作品賞と、主演の真田広之が主演男優賞、アンナ・サワイが主演女優賞を日本人で初めて受賞した。2025年1月の第82回ゴールデングローブ賞でも、テレビドラマ部門の作品賞を受賞したほか、真田広之が主演男優賞、アンナ・サワイが主演女優賞、浅野忠信が助演男優賞を受賞した。
日本人男性俳優がゴールデングローブ賞を受賞したのは史上初のことだ。そしてこれはまさに、ウォルト・ディズニーのコンテンツ戦略が奏功していることを意味する。
助演男優賞を受賞した浅野忠信は、『SHOGUN 将軍』ゴールデングローブ賞4冠受賞記念に開いた1月13日の会見で、「(主演とプロデューサーを務めた)真田さんという強い核があったからこそ、チームワークとしてうまくいったのではないか」と述べた。
真田は、2003年の映画『ラスト サムライ』に出演したことを契機にハリウッドに進出。同作の経験から、ハリウッドで正しい日本人像を描く活動に20年以上携わってきた。真田にとって『SHOGUN 将軍』はその集大成となる作品であり 、その「核」があったからこそ、チームとして『SHOGUN 将軍』が成功したと浅野は振り返る。
●決算で初の部門全体「黒字化」
Disney+のこうした成果は、決算にも着実に表れている。ウォルト・ディズニーが2024年11月に発表した2024年7〜9月期決算は、売上高が前年同期比6%増の225億7400万ドル(約3兆5000億円)、純利益が74%増の4億6000万ドルとなった。
冒頭のヒット作に恵まれて映画部門が好調だったことに加え、動画配信部門は2四半期連続の営業黒字となっている。
Disney+やHulu、スポーツ専門チャンネル「ESPN+」も含めた7〜9月期の動画配信部門の売上高は、前年同期比13%増の62億9600万ドルとなった。営業損益は3億2100万ドルの黒字で、前年同期の3億8700万ドルの赤字から黒字転換している。2019年のDisney+開始以降、2024年4〜6月期で初めて部門全体を黒字化させた形だ。
日本人初のエミー賞やゴールデングローブ賞受賞をはじめ、世界的にみるとDisney+の戦略は奏功している。一方、動画配信の国内市場はまだこれからで、先述したGEM Partners2023年の国内市場シェアによると、Disney+は8.9%で5位だった 。一方で契約者の顧客満足度は高く、2024年のオリコンの調査ではNetflixに次ぐ2位となっている 。同調査でDisney+は、2021年と2022年が1位、2023年は2位だった。
消費者を一度契約させることさえできれば、Disney+は市場位置以上のポテンシャルがあるといえる。2024年の成功を受け、Disney+がどこまで成長できるのか注目だ。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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