レジ横で「揚げたてドーナツ」を全国展開するセブンイレブンが、“ミスドのライバル”にはならない理由

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2025年02月06日 09:00  日刊SPA!

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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 コンビニ大手セブンイレブンがレジ横ドーナツの強化を図っています。2014年に取り扱いを開始したものの失敗。一度は撤退しましたが、今回は店内で揚げたてを提供するスタイルに一新。それが奏功しています。

◆「揚げたてドーナツ」が提供できるようになった背景

 セブンイレブンは2021年6月に東京都など一部のエリアで「お店で揚げたカレーパン」の販売を開始。2022年12月からは販売網を全国に拡大しました。この商品は2023年に7698万個を販売するヒット商品となります。

 カレーパンは、工場でカレーを生地に包んで冷凍、店舗で揚げるというプロセスを経て提供されています。店舗で揚げるというオペレーションが全国の店舗に広がったことが、揚げたてドーナツの提供の背景にあるのです。

 2014年に提供を開始したレジ横ドーナツは、工場で揚げたものを店舗のガラスケースに並べるというものでした。足元で展開しているドーナツは、揚げたてという付加価値を加えることができたのです。

◆年間通じて売れるうえ、コーヒーとの相性も抜群

 セブンイレブンは揚げたてドーナツの好評を受け、2025年2月までに全国展開する方針を明らかにしています。首都圏の店舗5000店で販売したところ、2週間で240万個を販売しました。

 コンビニのレジ横の商品というと肉まんをイメージしますが、売れ行きが秋から冬に偏ってしまうため、販売する側からすると季節を問わず売れる商品がほしいもの。その点、ドーナツは季節性がなく、150円程度で販売できるために顧客も手を出しやすくヒットの潜在性を持っています。

 しかも、セブンイレブンはコーヒーの販売数が圧倒的。一度目にドーナツ販売を始める直前の2013年、累計販売数は3億杯を突破していました。コーヒーと相性がいいドーナツは、セブンイレブンの収益性を高めるうえで重要なポジションにある商品なのです。

◆2017年に「6万円台」だった菓子類への支出額が8万円に…

 それでは、このコンビニドーナツは専門店であるミスタードーナツの脅威となるのでしょうか? その可能性は低いでしょう。セブンイレブンが狙っているのは、菓子市場の獲得がメインだと考えられるためです。

 総務省の家計調査によると、総世帯の菓子類への年間支出額は2023年が8万1111円でした。2019年は7万2388円。支出額はインフレを背景に急速に高まっているのです。

 2000年から2017年までは6万円台で推移していました。セブンイレブンがドーナツに初めてチャレンジした2014年の支出額と比較をすると、1万2858円(18.8%)も上がっています。

 最近、チョコレートなどの菓子を購入して、がっかりした経験はないでしょうか。金額が高いうえに容量が明らかに減っているためです。不二家の「カントリーマアム」はかつて28枚入りでしたが、今では18枚まで減少しています。価格改定も行っているため、デフレに慣れ切った感覚で手にすると失望感すら漂ってしまうのです。

◆マーケットとして“魅力的”な流通菓子市場

 これは「カントリーマアム」に限ったことではなく、菓子類全般に言えます。

 セブンイレブンのドーナツは150円程度であり、揚げたてが提供されるという特別感があります。食べ応えもあり、菓子感覚で食べるには最適でしょう。

 矢野経済研究所によると、2024年度の流通菓子市場規模の予測は前年度比3.1%増の2兆1689億円。経済の回復とインバウンド需要の盛り上がり、価格改定の影響で増加しています。この市場規模のうち、チョコレートとビスケット類はおよそ3割。市場規模は7000億円を超えるものであり、マーケットとしては魅力的なのです。

◆値上げしても客離れが起きないミスタードーナツ

 専門店のミスタードーナツの業績は堅調を維持しています。

 運営するダスキンの2024年4-9月のフードグループの売上高は前年同期間比20.1%増の311億円でした。2024年9月までで、ミスタードーナツの売上は26か月連続で前年同月を上回っています。上半期の全店売上は15.8%増加。オープンから一定の期間が経過した既存店の売上も13.9%増えています。

 店舗も1017から1030へと堅調に増加しています。

 ミスタードーナツも価格改定を繰り返していますが、もともと120円から150円程度で販売していたため、値上げに強いという特徴があります。コーヒーをおかわり無料で提供するなどサービス力も高く、客離れを起こす様子がありません。

◆セブンイレブンとは競合にならない?

 ミスタードーナツはカフェのほか、自分用のテイクアウト、土産ものとしての利用も見込めます。需要の幅が広いのです。セブンイレブンのドーナツは無目的で購入するケースが大半だと考えられますが、ミスタードーナツはわざわざドーナツを食べるために足を向ける人が中心。利用シーンが異なるために競合にはなりにくいのです。

 ミスタードーナツは、マクドナルドを中心としたファーストフードの市場を奪いに動いている印象を受けます。2024年10月に「台湾風ルーロー麺」を限定販売するなど、麺類の強化を図りました。価格は1杯あたり700円を下回ります。

 マクドナルドは度重なる値上げで割高感が強まりました。客数は堅調に推移しているものの、価格を軸に客を奪う隙を見せているのも確か。ミスタードーナツがファーストフードという新たな市場を獲得できれば、次の成長ステージに移行することができるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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  • セブンイレブンの店揚げドーナツ(2024版)も食べたけど、ミスドの敵じゃないと思ったな。割り切ってる工場製の袋入りドーナツのほうが良いくらいだった
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