『ホットスポット』で気付かされた、バカリズム脚本の“本当の凄み”。会話劇や伏線回収、だけじゃない

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2025年02月16日 16:00  女子SPA!

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画像:日本テレビ『ホットスポット』公式サイトより
バカリズム脚本のドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系、日曜よる10時30分〜)が話題です。

主人公は富士山麓にある町のビジネスホテルに勤める、41歳のシングルマザー・遠藤清美(市川実日子)。ひょんなことから“宇宙人”に遭遇した彼女の日常を描く、地元系エイリアン・ヒューマン・コメディです。

脚本家としてのバカリズム氏はこれまで、ドラマ『架空OL日記』で第36回向田邦子賞、『ブラッシュアップライフ』で第32回橋田賞、東京ドラマアウォード2023脚本賞などを受賞。バカリズム氏が生み出す独特な物語の特徴を分析しながら、ドラマ『ホットスポット』の魅力に迫りたいと思います。

※この記事には、『ホットスポット』第5話までと、第6話予告のネタバレを含みます。

◆思ってた宇宙人と全然違う……細かすぎる「宇宙人の設定」

まず着目したいのは、コント師としての顔ももつバカリズム氏らしさが光る「設定」について。

本作では、主人公・清美の同僚・高橋さん(角田晃広)が“宇宙人”という特殊な設定になっています。しかも、どこにでもいそうな中年男性が宇宙人だという斜め上の設定は、実にバカリズム氏らしい。そしてこれこそが本ドラマの面白みなのですが、宇宙人の設定がやたらと細かいのです。

例えば、高橋さんがもつ宇宙人の能力は、あくまで人間が元々持っている能力を引き上げるだけ。そして、能力を使うと副作用が起こるのですが、彼が勤務するホテルの温泉に浸かると回復します。こんな設定、バカリズム氏以外に誰が思いつくでしょうか?!

しかも使う能力によって副作用は変わり「頭脳系の能力を使うとハゲる」と高橋さんが告白したときは、吹き出しそうになりました。特殊な上に設定があまりに緻密で、視聴者それぞれが抱いていたであろう“宇宙人像”をことごとく裏切ってくる。ここに面白みが光ります。そして、「この設定だと、他の登場人物の中にも宇宙人がいるのでは?!」と、どんどん作品に惹きこまれていくのです。

◆14分続いた“おしゃべり”に驚き。ハイレベルな「脱力系会話劇」

本作は独特な設定に加えて、物語が主に「会話劇」で展開していくところも特徴的。ほぼずっーと誰かと誰かが会話をしています。しかも、ただただ駄弁(だべ)っているという脱力系の会話。なかでも、清美と幼馴染のはっち(鈴木杏)とみなぷー(平岩紙)、そして高橋さんの4人によって繰り広げられる会話劇は圧巻です。ただ駄弁っているだけなのに、全く飽きません。しかも長尺。

例えば第3話では、途中で清美の同級生・あやにゃん(木南晴夏)も参加しますが、約14分間にわたって同じカフェ、同じテーブルで会話を繰り広げました。ごはんを食べながら他愛もない会話をするのみで、回想シーンで場面が変わるようなことも一切なし。それを、視聴者に飽きさせることなく展開するのは、どう考えても難易度が高いことのはずです。

台詞の中身はもちろんですが、テンポや間合い、トーンなど、自然に見せる高い演技力が求められることも間違いありません。だからこそ、バカリズム氏の作品に出演する俳優陣は実力派ばかり。ハイレベルな演技合戦を楽しめることも、大きな魅力といえるでしょう。

◆「細かすぎる・小さすぎる伏線の回収」が妙にクセになる

そして8割方が他愛もない内容に思える会話劇なのに、毎話きちんと伏線が回収されていることも話題です。

例えば第4話。高橋さんが「頭脳系の能力は使いたくない」と言えば、宿泊客の忘れ物を届けたり、電動自転車で逃走するコンビニ強盗犯にカラーボールを命中させたりと、やたら「肉体系の能力」を酷使する展開に。また「自力でガンプラ造りが得意」と言えば、最後はカラーボールで汚れてしまった電動自転車を「塗装し直す」ことに。このように見事な伏線回収が毎話楽しめます。

しかし、筆者が特にバカリズム作品らしさを感じるのは少し違うところ。何気ない会話のなかに「伏線」というには弱すぎるボールが散りばめられており、それらをも細かく拾っている点です。

例えば第2話の冒頭で、清美ははっち・みなぷーと「40歳を過ぎると記憶力が落ちる」と駄弁っています。アラフォーの筆者は「分かる分かる! そんな会話ばっかりしてる!」と共感して観ていました。すると、その後も「記憶力が落ちる」ネタが随所に、本当に細かく、登場します。みなぷーが高橋さんに「記憶力が落ちているから治して」と相談したり、清美が娘に頼まれた買い物を忘れたり、スーパーの買い物で家の冷蔵庫の“在庫状況”を正しく思い出せなかったり。

会話から浮き彫りになるそれぞれのキャラや日常が、話をまたいでもきちんと地続きで描かれているのです。そんな細かすぎる小さすぎる伏線回収が妙にクセになってしまい、リピート視聴してしまう人も多いのではないでしょうか。

◆交差する「本音と建前」のリアリティに共感しかない

最後に触れたいのが、登場人物たちの人物造形のリアリティについて。宇宙人・高橋さんの設定はともかく、ほとんどのキャラクターが「どこにでもいそう」「職場にいそう」「友人にいそう」な“普通の人”です。その一人ひとりの凄まじいほどのリアルさが、会話劇の下地になっている……これこそが、バカリズム脚本の真骨頂!

そしてキャラ設定はもちろんですが、リアリティを感じさせる仕掛けは、会話の合間に挟まれている“本音”にあると筆者は考えます。例えば第4話で高橋さんと夜勤をしていた清美は、何度か彼にイラッとする。しかし“建前”の会話ではもちろん伝えません。あくまで心の声で「○○する彼にイラッとした」と語るのです。このような本音と建前の分かりやすい対比表現が秀逸で、キャラクターのリアリティを引き上げています。

◆「お酒がほぼ出てこない」ことの意外な効果

この物語がほぼ“お酒なし”で展開することも、リアリティの醸成に関係しているかもしれません。

ドラマでは一般的に、友人と会うシーンの舞台に居酒屋やバーなどを設定しがちですが、バカリズム氏の作品では少ないように思います。お酒がなくても盛り上がれる、関係の深さを描きたいのかもしれません。シラフの状態で語り合う言葉には、“建前”も含めた人となりがとても濃くにじみ出ています。

ただ2月16日放送の第6話では、清美の同級生・のんちゃん(MEGUMI)がママをしているスナック「のん」が舞台となりそうなので、新たな仕掛けがあるのかもしれません。それはそれで楽しみ!

◆あの人もあの人も、実は宇宙人なんじゃないの?

ちなみに考察とまではいきませんが、筆者の今後予想を少し。

実は清美たちが暮らす町には宇宙人がいっぱいいて、レジが異様に速いスーパーの小久保さん(中島ひろ子)や、宇宙人説が浮上したホテルの同僚・小野寺くん(白石隼也)も実は宇宙人だった説。そしてホテルに長期滞在している宿泊客・村上さん(小日向文世)は、宇宙人を研究している人か、実は宇宙人の長(おさ)的な存在?! など。

こんな風に、緻密な考察というよりは今後を妄想しながら毎週楽しんでいます。皆さんは、どんな展開を考えていますか?
<文/鈴木まこと>

【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201

このニュースに関するつぶやき

  • バカリズムの脚本で面白いのは先ず設定が面白い。あと軽妙なセリフのやり取り
    • イイネ!4
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