業績不振が続くサマンサタバサに“復活”の兆し 激動の歩みとその現在地

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2025年05月16日 11:21  Fashionsnap.com

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左:サマンサタバサ「スマートワン」、右:サマンサベガ「フラッフィ」コレクション

Image by: FASHIONSNAP
 業績不振が続くサマンサタバサジャパンリミテッドに、復調の兆しが見えている。2000年代に巻き起こした一大ブームとブランド成長から一転、近年は売上低迷に苦しみ、2017年から2024年2月期まで8期連続の赤字を記録するなど、厳しい状況が続いている。しかし、2024年に新代表取締役社長CEOに就任した古屋幸二氏が進める営業赤字解消を目指した「2ヶ年計画」は着実に効果を見せており、前年対比で赤字幅は減少しているという。  長きにわたる不調からの脱却を目指して、同社はどのような道筋を描いているのか。主力ブランド「サマンサタバサ(Samantha Thavasa)」をはじめとした各ブランドの方向性の見直しから、組織改変、海外戦略、韓国企画の逆輸入まで、復活に向けた道筋とは。

一大ブームから連続赤字へ、激動の歩み
 サマンサタバサジャパンリミテッドは、寺田和正氏が1994年に創業。若年層の女性をターゲットにしたフェミニンなデザインのバッグやアクセサリーが人気を博し、国内で店舗数を拡大した後、2006年に初の海外路面店をニューヨークのマディソンアヴェニューに出店したのを皮切りに、積極的に海外にも進出した。ミランダ・カー(Miranda Kerr)やサラ・シュナイダー(Sarah Snyder)、ソフィア・リッチー(Sofia Richie)といった海外のセレブリティや、“赤文字系”雑誌の人気モデルであった蛯原友里などを起用した大々的なプロモーションで話題を集め、2000年代には10〜20代の女性を中心に絶大な人気を誇るバッグブランドとなった。
 しかし、2010年代に入ると徐々に業績に翳りが見え始め、2020年2月期から2023年2月期まで4期連続で営業損失、経常損失を計上し、2017年2月期から2024年2月期まで8期連続で当期純損失を計上。2022年下半期以降は、固定資産の売却や、コナカを引受先とする18億円のA種種類株式の発行と減資、同社への度重なる運転資金の追加借入、従業員への冬季賞与の不支給など、さまざまなスキームを試したものの大きな効果は得られず、2024年に上場廃止しコナカの完全子会社となった。
 その間、2019年に創業者の寺田氏が代表取締役社長CEOを退任し、藤田雅章氏が引き継いだ後、コナカ専務取締役の門田剛氏、社外取締役だった米田幸正氏、コナカ代表取締役社長CEOの湖中謙介氏と数年のうちに次々とトップが交代。2024年5月にコナカの完全子会社化に伴い古屋氏が就任するという、激動の道のりを歩んできた。
 そのような厳しい状況の中でも、「社内にはブランド愛に溢れる生え抜き社員が多く、常に空気は前向きでモチベーションは高かった」と古屋氏。一方で、強いリーダーシップを持った創業者による“感性経営”で成功してきた会社であった分、業績が低迷し寺田氏が離れて以降、ブランドの方向性や戦略が迷走。世間のブランド認識と社内の感覚とのギャップなども生まれてしまっていたという。
社長就任後着手した、復活のための“地ならし”
◆ブランド整理と方向性の見直し
 社長就任後、古屋氏がまず着手したのは、ブランドの整理と方向性の見直しだ。売上全盛期時代に多角化したブランドや事業が全て中途半端な状態になっていたことから、ゴルフやメンズ事業を終了。主力の「サマンサタバサ」、若年層向けの「サマンサベガ(SAMANTHAVEGA)」、財布など小物が中心の「サマンサタバサプチチョイス(Samantha Thavasa Petit Choice)」、ジュエリーの「サマンサティアラ(Samantha Tiara)」の4ブランドに絞り、各ブランドのアイデンティティや商品MDの方向性を明確化したという。

 メインラインのサマンサタバサは、2000年代の全盛期にブランドに付いた顧客が年齢を重ねたことから、近年は主要購買層が40〜50代と上昇。それを受け、「アッパー層向けデザインのアイテムを増やしたり、年金受給者世代向けの媒体に広告を出稿したりと、本来のブランドターゲットと実際のブランディングにずれが生じてしまっていた」と、古屋氏は当時を振り返る。他方サマンサベガも、元々は若年層をターゲットにしていたものの、近年はサマンサタバサとの垣根が曖昧になっていた。
 そのため、サマンサタバサは20代後半〜40代の大人の女性を、サマンサベガは10代〜20代前半のギャル層を対象にブランドポジショニングを再定義。両ブランドともブランドのアイデンティティや強みである“大人カワイイ”デザインや世界観を保ちながら、新規客にもアピールできるトレンド性やバランス感を取り入れたアイテムを拡充した。
 新たな方向へと舵を切ったコレクションは、2025年秋冬シーズンから展開をスタート。サマンサタバサでは、「女性らしさ・華やかさ・上質さ」といった要素を軸に、ディテールや素材選びにこだわったアイテムを展開する。過去に人気を博したバッグの形をベースに、柔らかく上質な素材とサマンサタバサらしいギャザーやメタルのパドロックをあしらい現代的にアップデートしたバッグをはじめ、トレンド感のあるフォルムや要素とブランドらしさのあるさりげない装飾を融合させた、新規顧客も手に取りやすいバッグを豊富にラインナップする。

 Z世代のトレンドとブランドの方向性がマッチし、一番店のSHIBUYA109を筆頭に売上好調だというサマンサベガは、一番人気の「フラッフィ」コレクションをはじめ、リボンやハート、ビジュー、フリルといった“サマンサらしい”モチーフをふんだんにあしらったアイテムを豊富に展開。一方で、甘さや装飾を抑えた新たなシリーズのバッグも用意することで、より幅広い客層へのアプローチも試みる。

 古屋氏は、「サマンサタバサの本来の魅力や強みは、ラグジュアリーブランドや他のマス向けブランドにはない、“大人カワイイ”世界観。リブランディングや原点回帰といった大改革ではなく、ずれてしまっていたフォーカスをチューニングすることを目指した」と話す。
◆不採算店舗の整理とVMD改革
 同社は、これまで業績が厳しい中でも大規模な人員削減や不採算店舗の整理などは行ってこなかったが、古屋氏就任後は1年間で約20店舗の不採算店舗をクローズ。地方店や郊外店を閉じてより都市型店舗に集中させ、国内では現在複合店を除いて、サマンサタバサは約30店舗、サマンサベガは約15店舗を展開している。
 また売上や客数が計画を下回っていた店舗に着目し、内装やVMDの改革を実施。従来は店舗ごとにバラつきのあった内装基準を見直し、店舗サインや壁面の色、什器、陳列方法などを改善した。その結果、商品をより魅力的に見せるディスプレイの実現や、近隣に他ブランドが密集するフロア環境でブランドの視認性を高めたことにより、売上が向上。2024年5月に同社初の6ブランド複合店としてオープンした「サマンサタバサ 西銀座店」も、当初は経営・人員効率を考えて複合形態で出店するも思うような結果が出なかったが、VMDや内装に手を加えたことで売上が改善し、現在では売上1番店となっている。今後も段階的に各店舗内装のリニューアルを進め、最終的には全国的に店舗内装やVMDを統一することで、さらなる売上アップを目指す。

◆海外子会社の整理
 古屋氏は海外市場の整理にも着手している。好調期にグローバルブランド化を目指してアメリカ・ハワイや中国、香港、台湾などに設立した支社が、近年は実質的に機能せず形骸化していたことから、各国で解散の手続きを推進。2021年に解散したアメリカ・ハワイの子会社に加え、今後は各国で支社の精算を完了した後に、改めて現地会社とパートナーシップを結び、新たな形での展開に切り替えていく予定だという。
◆組織体制の再編
 さらに、古屋氏は会社の組織体制の改革も実行。元々は横割りの組織で“すべてを全員でやる”という体制であったところを、今年3月にブランドごとの縦割り組織に再編。責任と役割を明確化することで意思決定のスピードを上げるとともに、各担当者がブランドの成否にコミットできる環境を作る狙いだ。
復活の鍵は「“普通”のことを普通にやる」「逆輸入で新規客獲得」
 社長就任以来、方向性の再定義をはじめ、業績を回復するための“地ならし”を行ってきた古屋氏。では、土台がようやく整備された今、サマンサタバサはこれからどう“復活”を目指していくのか。そのキーワードは、「“普通”のことを普通にやる」「インバウンド対応強化」「韓国との連携強化と“逆輸入”」だ。
 同社では、コロナ禍以降メディアでのPR活動をほぼ全て停止。ファッション媒体への広告出稿やアイテムの貸出、メディア関係者の展示会への積極的な誘致をほとんど行わず、対外的な発信は社員によるSNS投稿などに限られていたという。そのため、2025年からは新規層へのアプローチを拡大していくべく、本格的にPR活動を再開し、代理店などとの取引も復活。2025年秋冬シーズンの展示会からは各メディア関係者を積極的に誘致したほか、今後は広告出稿なども視野に「“普通”のPR活動を普通にやる」ことを推し進めていく。

 また、従来は全く取り組めていなかったというインバウンド対策にも着手。2024年10月に英語版ホームページを開設したほか、QRコードを読み取ることでブランド説明や英語版ホームページに誘導できるショップカードの作成・配布を行うなど、少しずつ対応を進めてきた。古屋氏は「サマンサタバサは日本独自の“カワイイ文化”を作り上げてきたブランドであり、インバウンド客の玄関口である羽田空港などにも出店しているにもかかわらず、これまでは全く対応ができていなかった。対策を始めたところ、インバウンド客の来店比率が高い店舗の売上が大きく伸びたため、さらなる成長機会があると見込んでいる」と期待を寄せる。今後は中国語への対応なども進め、現状は約10%と低いインバウンド比率を、将来的には20〜30%まで拡大することを視野に入れている。
 また、韓国市場では、2011年にロッテショッピングと設立した合弁会社 STL Co., Limitedとの連携を強化。昨今の日本国内での韓国発ファッションの影響力の大きさを鑑み、数年前から韓国企画商品の“逆輸入”や日韓共同企画商品の展開、韓国ブランドとのコラボレーションなどを行っている。昨年、サマンサベガは、ロゴキャップなどがZ世代に人気を集める韓国ブランド「VARZAR」や韓国発キャラクターの「チェゴシム」などとのコラボ商品を販売。若年層新規客の取り込みに繋がったという。

 2025年秋冬シーズンの展示会でも、韓国企画商品を豊富にラインナップしたところ、メディアやバイヤーから上々の反応を得たという。今後も韓国企画商品の“逆輸入”展開の拡大や、韓国ブランドとのコラボアイテムを継続的に展開していくほか、2025年秋には日本未進出の韓国ブランドと共同で新店舗を出店し、両ブランドのアイテムやコラボアイテムを展開していく計画だ。

 昨年非上場化しコナカの100%子会社となったため、同社の直近の具体的な数字は公表されていないが、現在は「2ヶ年計画」の2年目に突入。計画よりやや遅れてはいるものの、業績は着実に回復傾向にあるといい、2026年度には営業黒字化を目指す。古屋氏は「我々の計画は『当たり前のことしか言っていない』と思われてしまうかもしれないが、今のサマンサタバサにはその“当たり前のこと”が非常に重要だと考えている。アンバサダー起用などの一時的な効果を狙った“特効薬”を注入するのではなく、地道なことを着実にやりながら、問題の根本解決を目指した現実的な経営をしていけたら」と意気込みを語った。

このニュースに関するつぶやき

  • サマンサタバサ懐かしい。昔はセシルマクビーみたいなギャル御用達だったけど、一番買っていたであろう氷河期層の女性が、今はかつての勢いが無いから韓国に売り込みに行くしか無いよね。台湾は有事が…だし
    • イイネ!1
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