新入社員はなぜ電話に出ないのか? 脳科学者が「テレフォビアは誤解」と考える、電話への苦手意識の正体

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2025年07月09日 20:50  All About

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【脳科学者が解説】「電話が怖い」のは若者特有の現象ではない? 脳の仕組みから、人はなぜ電話に苦手意識を持つのか、そしてその克服法まで、分かりやすく解説します。
「新入社員が電話に出ない」「最近の若者は電話を怖がる」といった話題が、近年たびたび注目を集めています。

メールやSNSに慣れきった現代の若者に「電話恐怖症(テレフォビア)」が広がっている、といった指摘もあるようです。しかし、私はこうした見方には賛同できません。なぜなら、電話によるリアルタイムの音声通話が苦手なのは、決して今の若者だけに限ったことではないからです。人間の脳のしくみから、その理由と克服することは可能なのかを解説します。

「電話が怖い」のはベテラン世代も同じ? 「慣れないもの」に緊張する脳

少し立ち止まって考えてみてください。その昔、対面や手紙によるやりとりが主流だった時代に「電話」が登場したとき、人々はどう感じたでしょうか?

見慣れない機械から、目の前にいない人の声が聞こえ、話しかけると返事が返ってくる……当時の人にとっては、間違いなく得体の知れないもので、身構えたことでしょう。慣れていないものに対して恐怖心や抵抗を感じるのは、ごく自然なことです。

私は今や還暦を過ぎたベテラン世代の一人ですが、幼いころは自宅に固定電話がありませんでした。そのため電話を使う機会がほとんどなく、そのせいか、今でも相手の顔が見えない電話で話すのは緊張しますし、どこか苦手です。

学生時代に異性の友人の家に電話をしたところ、想定外に親御さんが出て、「どういうご関係ですか?」と聞かれ、何も後ろめたいことはないのにしどろもどろになってしまった……という恥ずかしい思い出もあります。

また、失礼があっては困る相手には、じっくり言葉を選び、見直しもできる「手紙」の方がずっと楽だと感じたものです。社会人になりメールが使えるようになると、私は迷わずメールを選ぶようになりました。

「今の若者は電話もかけられないのか」と嘆くベテラン世代の中にも、実は同じように電話が苦手と感じている人は、少なくないはずです。

「電話が苦手」の事情はさまざま……詐欺の不安から、電話を避けたい高齢者も

私の知る80代の高齢者で、自宅に固定電話があるのに、かかってきてもできるだけ出ないようにしている方がいます。携帯電話もパソコンも使わず、メールやSNSとは無縁です。若い頃はおしゃべり好きで固定電話をよく使っていた方なのに、なぜ電話を避けるのでしょうか。

理由を聞くと「電話による詐欺が怖い」とのことでした。連日のように報道される詐欺のニュースを見聞きするうちに、「電話に出ないのが一番の防御策」と考えるようになったそうです。本当はそれだけで防げるものでもないのですが、それほど電話に対する不安が強いのです。

このように、電話が苦手な人は年代に関係なく存在します。それをあたかも「現代の若者だけの心の病」のように語るのは、視野が狭いと言わざるを得ません。

電話への不安は「慣れ」で軽減できる! 世代を超えて、お互い上手にサポートを

慣れていないものに対して緊張するのは、人間としてごく当たり前の、正しい脳の反応です。「普段使わない」という理由であれ、「詐欺が怖い」という理由であれ、動物としての防御本能が正常に働いているだけです。緊張を少しでも和らげて苦手意識を減らすためには、経験を積んで「慣れる」ことが一番です。

会社で電話を避けようとする新入社員がいたら、「最近の若者は……」などと嘆くのではなく、身構え過ぎずに電話で話すコツを教えてあげればいいのです。多くの場合は世代に関係なく、トレーニングを積めば誰でもそれなりに電話応対ができるようになります。

ただし、電話に限らず、対人場面で強い恐怖感や不安感を抱えてしまう人が一部いるのも事実です。その場合は慣れだけでは解決しませんので、専門家に相談し、適切なサポートを受ける必要があります。

慣れないものに苦手意識や不安を感じ、つい避けようとしてしまうのは、脳のしくみ上、ごく自然なことです。どの世代の人にも、電話やパソコン、スマホ設定など、苦手なことはあるでしょう。お互いにサポートしあって、慣れる機会を作りながら、安心してコミュニケーションがとれる環境を築いていけたらいいですね。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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