被爆ピアノを演奏するマルタ・アルゲリッチさん(左)と出演者の角野隼斗さん(奥)。手前右はデジタル音源を使った電子ピアノ=15日午後、広島市中区 80年前の広島で原爆の被害を受けた「被爆ピアノ」。その音色がデジタル化され、広島市内の演奏会で15日、初めて披露された。「ピアノの音を後世に残したい」と企画され、演奏会にはアルゼンチンの世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチさんらが出演した。
ピアノは米ボールドウィン社製で、多くのガラス片で傷ついた痕が残る。学徒動員中に爆心地から約1キロで被爆し、19歳で亡くなった河本明子さんの遺品で、両親と親交のあった二口とみゑさん(76)が譲り受け、修復された。2005年以降、「明子さんのピアノ」として演奏会や教育現場で平和の大切さを訴える際に活用されてきた。
海外でも演奏を聴いてもらいたいが、鍵盤に象牙が使われワシントン条約の規制で海外へ持ち出せず、劣化の進行もありデジタル音源化の話が持ち上がった。88ある鍵盤の一つ一つを6段階の強さで収録し、響きなどを分析。実物の音と比べながら微調整を重ね、デジタル音源として再現した。
二口さんによると、明子さんの両親は生前、自ら荼毘(だび)に付した娘について話さなかった。ピアノを通して「語れなかった親の思いを伝えたい」といい、デジタル音源で「広島から世界へ、地域と時代を超えて後世に残していきたい」と語った。
演奏会には、気鋭のピアニスト角野隼斗さんも出演。明子さんのピアノと、デジタル音源を使った電子ピアノの両方が奏でられた。

生後7カ月の河本明子さんとピアノ=1926年12月、米ロサンゼルス(一般社団法人HOPEプロジェクト提供)